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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
235/254

実験失敗

「……ただいま……」


 武術試験から帰ってきた瑠璃は自らが本試験に進むことが出来たというのにもかかわらずテンション低くクロエと一緒に相川の自宅へやってきた。無論、ここは相川の自宅であって瑠璃の家ではないのだがもはや誰も何も言わなくなっている。


(……仁、武の道を一緒に歩いてくれないのかなぁ……)


 返事がないのは無視して瑠璃は洗面所で手洗いうがいを済ませてリビングへ向かう。その胸には今日の試験に相川が来ていなかった寂寥感が渦巻いていた。


「……⁉」


 しかし、その悩みは次の瞬間にはソファで眠っている小動物を捕獲して抱きしめることで吹き飛ばされることになる。


「きゃーっ! 可愛い!」

「……おい、やめろ。」

「どうしたんです、か……⁉」


 相川の制止の声も聞かずに瑠璃はそれを抱きかかえてくるくる回り始める。その様子を見ていたクロエもしばし絶句した後、瑠璃を止めに入った。


「何クロエちゃん! 邪魔しないで!」

「ちょっと落ち着きましょう? あなたは興奮しすぎているので一時私が預かります。」

「せっかく寝てたのに起こしやがって……」

「おねむなの⁉ じゃあベッドに行こうねー?」


 その抱えているモノを瑠璃が占拠した相川の家の一室に連れ込もうとする瑠璃をクロエが止める。そんな中でようやく相川が動いた。


「とりあえず放せ……つーか君ら、俺が小さくなったことにはノーコメントなんだな……」

「5歳の時くらいだね! 可愛いよ! ちゅーしよ!」

「瑠璃は師匠が5歳の時の姿を知っているのでここは平等性の観点から私が抱っこするべきだと思います。いかがでしょうか?」

「話を、しようか。」


 二人から逃れてソファに座り直す相川。その体躯は今日の午前中とは異なり非常に小さいものとなっている。


「……はぁ。」

「ため息ついてると幸せが逃げちゃうよ~?」

「……そのノリ止めろ。面倒くさい……」


 相川が座った隣にすかさず着地する瑠璃。その逆側にクロエもやってきた。


「それでお話とは何でしょうか?」

「何故膝の上に乗せた……もういい。説明しようと思ってたが聞きそうにないから端的に言う。新薬開発してたら変な反応が起きたから一先ず飲んでみたらこうなった。毒が抜けるのは恐らく3日後あたり。それまで基本的にお子様モードになるから何もしない。」

「じゃあ甘やかすね。」

「そうですね。時間制にしましょうか。」


 何がじゃあなのかよく理解できなかったが相川は目覚めたばかりで空腹を覚えていることに気付き、二人のことは気にしないことにした。


「……お風呂は…………頭が………………体はボク……」

「…………ズルい……」


 何か不穏な言葉が幾つか聞こえてきたが別に相手にしてもどうせ止まらないので好きなところまで話させて後で却下することを決めて放置してもいいことにし、相川は冷蔵庫の前にやってきた。


「……届かないな。跳ぶ」

「はいどーぞ!」


 相川が跳躍して扉を開けようと思った瞬間には先ほどまで向こうで会話していた瑠璃がこちらにやってきて扉を開ける。その動きを読み切れなかった相川は若干戦慄してその間に瑠璃に両脇を持たれて抱え上げられた。


「仁くんはどれがほしいのかな~?」


 何かムカつく口調に相川は無言になって中から煮物を取り出す。


「よくできました~!」

「うっっっぜぇっ! 離せ!」

「そんなこと言う子にはお仕置きするよ?」

「はっ! 上等だかかってこい!」


 瑠璃の手から脱出するためにまずは下を見る相川。その瞬間、目の前は瑠璃の顔でいっぱいになった。


「んー……っ! けほけほっ……もう。蹴っちゃダメだよ? 一気に息吹き出したらちゅーしてる仁くんの方が危ないんだから……」

「げほ、げほ……おま、肺破れるところだ……」


 瑠璃の方はけほけほで済まされているが相川の方は冗談ではない程息を吹き込まれて全力で噎せる。そして引き続き瑠璃に抱っこされて背中をとんとんされた。


「……師匠、もしかして……弱く……?」

「もしかしなくても弱くなってるよー」

「……バレてしまったか……殺すならやってみろ。ただじゃ死なないし別に殺されても後でんむっ!」


 再びキスをねじ込まれる相川。今度はディープもディープ。口の中を舌で舐め回されているという表現の方がしっくりくるほどの濃厚なキスだ。


「……おえっ……」

「その反応は少し傷つくなぁ……でも毒も出せないみたいだね……? うふふ……」

「うっせぇ……歯医者みたいなマネしやがって……」

「後さっきから思ってたんだけどほっぺが柔らか~い!」

「本当好き勝手なさりますなぁ!」


 キスが終わったら今度は頬っぺたをすり合わせられる相川。その隣ではクロエが人差し指で相川の逆の頬を突いている。


「何なの本当にもう……」

「好き好き大好き愛してるっ!」


 抱っこの状態からそのまま覆いかぶさるように体勢を入れ替える瑠璃。これには流石の相川も許容範囲外だったので顎に一発蹴りをねじ込んだ。


「ぁ、う……今のは結構効いたなぁ……」

「冷静になってくれれば幸いです……クロエ、背後に回るな。今の状況だと警戒心しか湧かない。」

「煮物を回収しようと思っただけです。頬っぺたむにむにはまだしませんので安心してください。」


 後でするのか。そう思った相川の思考は当然のものだったであろう。しかし目の前の瑠璃がにこにこしているのを見るとそんなことは後回しでいいと考えを改めざるを得ない。


「瑠璃、人にされて嫌なことは自分もやったらダメって教えてもらわなかったか?」

「うん。教えてもらった。」

「じゃあ変なことはやめようか。」

「わかった。変なことはやめる。」


 微妙に距離を保ったまま奇妙な笑顔の応酬が続けられる。


「仁くん、仁くんは人にされて嬉しいことは別の人にもお返ししてあげましょうって知らない?」

「瑠璃? あんまり妙な真似するんだったらお前の嫌いな変態を大集合させるけど?」

「仁くんさっき人にされて嫌なことしたらダメって言ってたのに? それとも、変態なことをされると仁くんは喜ぶの……?」


 奇妙な笑みが愉しげなものに変わり、瑠璃の方から距離を詰めてくる。その分、相川も距離を取った。


「わかった。一回落ち着こうか。」

「……ボクは落ち着いてるよ? 仁くんの方は落ち着かないのかな? 抱っこしてあげようか?」

「ダメだこいつ。」


 相川が諦めるのとほぼ同時に瑠璃は笑顔で相川を捕獲してクロエが温めた煮物とその他にそろえた食事の前に一緒に座る。


 その後、相川は瑠璃の子育ての予行演習と言う名の羞恥プレイを受け、将来過干渉で失敗しそうな子育てだなぁ……と思考をどこかに飛ばすことで何とか心の平穏を保つ努力を行い、3日間を凌ぎきった。




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