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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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高校2年生

(……暇になったな……)


 春の木漏れ日が家の中を照らす中で相川はソファに横たわりながらふとそう考えた。進級し、高校2年生となった相川だが、学校から登校拒否を受けているので自宅学習で卒業まで過ごすことになっている。当初の予定ではこの高校2年生の時に翌年の異世界転移の大詰めとしてエネルギーを蓄える予定だったのだが、予想外の敵、外道魔王との一戦のおかげでその問題はクリアしてしまったのだ。


(今後の予定は……夏に戦争。冬に達人戦と最終開発……ぱっと思いつくのでこれだけか。もう技術も資材もそろってるからなぁ……)


 ふと目に入った黒猫君を追い掛け回して捕獲し、もふもふしながら相川はそういえばとカレンダーを見て呟く。


「……今日は何か変な武術試験があったな。達人になるための……俺は一応、一時期だけだが修羅の国の軍人になったから免除されてるが皆は頑張ってるんだろうねぇ……」


 新学期入って早々に予選大会があるのは大変そうだなぁと思いながら相川は恐らくそこに向かっている知り合いたちのことを思い出し、何をしても誰も止めに入らないというこの状況に気付いた。


「……まぁ別に日頃から自由に生きてるからあんまり関係ないけどね……新薬でも作るかなぁ……」


 そう言って相川は黒猫君を解放し、ソファから立ち上がるのだった。






「……たくさん人がいるね……」

「そうですね……緊張します。」

「はっ! バーカ、縮こまってんじゃねーよ。」


 その頃の大会会場では既に予選が始まっているところだった。参加者が1000名を超すというこの大会では各ブロックごとにバトルロワイヤルを行って上位2名が本試験に向かうことが出来るという厳しさだ。


「ボクはHブロックみたい。みんなは?」

「僕はBですね。」

「Aだね。」

「俺はCだ!」

「……Fだ。」


 偶然か作為かは知らないが誰も被ることがなく見事にブロックごとに分かれた遊神一門。味方同士で戦わない限りは圧勝だろうなどと談笑が繰り広げられる中で瑠璃は会場に相川がいないか探知し始めた。


(……ん~…………あ、クロエちゃん見っけ。この近くにいるかな?)


 周囲に紛れ込むように氣を抑えているクロエのことを発見した瑠璃は敵情視察と言い残して参加者の死角を縫ってそちらの方へと飛んでいく。異様に人の目を引くほどの美貌を持ちながら誰からも意識されていない彼女は飛来してきた美少女を見て寄りかかっていた壁から身を起こした。


「……何の用?」

「むぅ……おはようくらい言おうよ。仁は?」


 開口一番やはりそのセリフかとクロエは苦笑しながら首を横に振った。


「さぁ?」

「? 来てないの?」

「朝早くに自然に目が覚めたら来ると言ってましたけど。」

「……またそういう決め方する……」


 不満げな顔になった瑠璃は携帯電話をかけて相川に連絡を取ろうとする。しかし、この建物から発される妨害電波によってそれは適わなかった。


「……まぁ、多分来てるよね。それでクロエちゃんは何ブロック? ボク、Hブロック。」

「……Eです。Hだったら黙って不意打ちを喰らわせていたところですが……」

「むぅ……じゃあ仁はDじゃなきゃ誰かと重なってることになるね……」


 あくまで参加している態で話す瑠璃。対するクロエは既に相川が武人としての資格を持っていることを知っているので不思議に思ったが仮に自分の考察が正しいのであればこの点……仕事の面に関しては自分がリードしていることになるので黙っておくことにした。


(もっとも、それでもアヤメさんには距離を開けられているんですがね……まぁ、魔闘氣を扱えない時点でついて来れはしないので現時点の総合では私が一番です……)


 もう一人の魔闘氣の特訓相手である犬養は真冬の少し前に諦めて島から出たのでクロエは実質独り勝ちの状態に近づいている。過去、相川のことを憎み、忌み嫌い、更には別の男のところに行ったマイナス面を置いておけば圧勝と言えるだろう。


(……それに、私はまだ清い体ですから。師匠はそこまで気にしてないはずです……変な術にかかってしまった過去も魔闘氣を使える今であれば気付けます。)


 瑠璃と表面上の会話をしながらクロエは裏で様々なことを考える。そうしている内に会場内にアナウンスが鳴り響いて選手たちがリングの上に上がるように指示が下った。


「あ、もう……結局わかんなかったけど……頑張ろうね!」

「ふふっ……そうですね……」


 そう言って二人はリングに上がるのだった。





「……薬作るの疲れたな……だからと言って回復させて如何こうするほどやる気があるわけでもない……何か必殺技でも考えようかな……」


 瑠璃たちが激闘の真只中に身を投じていたころ、相川は自室に備え付けてあるクリーンルームから出て来て首を傾げていた。


「一応、アレだな……【破局突き】系統が必殺技だよな……」


 軽くモーションに入って拳を突き出し壁に罅を入れる相川。


「……ちょっと力が付き過ぎてるな……日常動作とかは大丈夫だし日頃は全身統制がかかってるから大丈夫でも体が戦闘モードに入るとこの様か……? いや、他の技は大丈夫だったような……」


 【言霊】による補正でもかかっているのかと相川は考え、そこでこの世界に毒されて常識と化していた事実に行き当たる。


「そう言えば、もう何の違和感もなく技を繰り出すときは技名を言ってたけどこの世界における言霊の能力付与率はどうなってるんだ? そもそも、この世界では魔素と霊氣の乖離が酷いが怪奇現象の一部は魔素によって生じるのが常。なれば、この世界におけるその違いの線引きなどはあるのか?」


 世界観について考え始める相川。しかし、あと1年もすれば出ていくのでどうでもいいかと考えるのをやめてクリーンルームに入る前のように黒猫君で遊ぶことにした。





「はぁっ……! 【遊神流・破貫はがん】!」

「負け、られない……もう、一度……あの人の下に……【幻夜の亡霊】!」

「こっちに流すな! 【三日月の宴】!」


 相川がのんびりしている内に試験会場では既に大詰めの時間が近づいていた。試合前の遊神流の談笑の通り、大体のブロックでは遊神流が上位を総なめしており本試験へ向かっていたが唯一瑠璃のブロックだけまだ終わっていない。


「もうわかるだろ⁉ 諦めろよ!」

「いや……です……!」

「来年頑張った方がいいって……もう手加減しないよ?」


 しかし、残すところ後3人。しかも実力は瑠璃が抜きん出ており、次いで瑠璃は知らない相手だが相川が持っていた会社に所属しているミカドが。最後の一人の女性は明らかに後天的に稽古をつけられている他の選手よりは強いが、二人には勝てないとわかりきっている選手だった。


(……ボク、一応活神拳だから殺したくないなぁ……殺さない方が仁からの印象もいいだろうし……気絶してほしいんだけど……)

(ボスの元弟子なんだよなぁ……ちょっと前に別の男に股開いてたみたいだから未練もないだろうし殺しても大丈夫とは思うんだが……見てくれがいいし、ボスの性癖がアレかもしれないからちょっと……)


 瑠璃とミカドはそれぞれの理由で残り一人の選手を殺さないように限界まで持って行こうとする。時々ラッキーか何かで瑠璃かミカドを倒せないかフェイントと氣当たりで探るが二人とも隙はない。


「ふぅっ……ふぅ……っ!」

「……そろそろ決めるか。死んでも恨むなよ……」


 ミカドが軽く瞑目して拳を固めた瞬間、空から声が降ってきた。


「うふふ……ダメですよぉ……?」


 その声に弾かれたように上を見上げる選手たち。中でもボロボロだった選手の反応は非常に大きいものだった。


「の、ノアさ……」

「黙ってリングアウトしましょうねぇ……? あまり、オイタは許しませんよぉ……?」


 直視していても存在の薄い声の主、表情は笑みを浮かべているのにもかかわらず声は凍てついており、目も冷淡なそれを見た瞬間、3人目の選手は無言で残る二人に背を向ける。


「【遊神流・骨髄打】」

「【螺旋貫手】」

「えぇ……」


 そこに追撃をかける二人によって今まさに降参しようとしていた彼女は物も言わずに昏倒する。それを見ていたノアも若干引くような声を漏らしながら彼女を回収して消え失せた。


 これにより、遊神流全員の本試験出場が決定した。




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