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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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「これは……」


 瑠璃が翔から奪い取った地図に描かれた目的地に到着して目に入ったのは小さな小屋と少し開けた単なる更地だけだった。


「……でも、ここって書いてあるし……」


 不安になりながらも瑠璃は一先ず目についた粗末な小屋を調べてみるが、特に手がかりは見当たらなかった。


(あんまり時間かけられない……!)


 追手はすぐそこに迫っている。別に敵であるという確信があるわけではないが何かしらの隠し事がある人物たちに囲まれてしまうと真実が見つけられないかもしれないと瑠璃は焦っていた。


「じゃあ空き地の方……」


 急いで更地の方を見て回ると一部だけ歩くと妙な感触がする場所がある。その辺りを詳しく調べてみようとしたところで瑠璃の追手……権正たちがやってきた。


「瑠璃、お前勝手に何やってんだよ……」

「【遊神流・壊震脚】!」


 止めに入られる前にその個所に震脚を打ち込んで地面に風穴を開ける瑠璃。踏み抜いた場所の残骸と共に空洞に落ちるとそこは明らかに人工的な地下室だった。


「おい、大丈夫か!」

「瑠璃、そこはお前にとってあまりいい思い出のある場所じゃないんだ。早く出てきた方がいい……」


 地上から口々にかけられる言葉に瑠璃は混乱した。これまで周囲のことを不信感から敵だと思っていたが、隠したい秘密がこの場所、地下室にかかわる問題だとすればこの問題はもっと根深いものかもしれないと気付いたのだ。


(もう何が何なのか……もし、今私が想像している仮定、監禁されていたトラウマから記憶を失ったということでそのショックを二度と味わわせないように気を遣ってくれてるとするのなら私はみんなに酷いことをしてることに……)


 そう思った瑠璃は即座に上に出てきて皆に謝罪する。


(でも、それなら何でわざわざ怪しいことを……? それにノアちゃんたちはいったい何を私に……だって、月夜に私だけ誘い出したあの状況なら完全に気配を消したまま……あぁ、もうわかんないよ……)


 瑠璃の内心の葛藤はさておかれて権正によって近くの散策が提案されることになる。そこでも瑠璃は巨大な違和感に襲われるのだった。


(……今、先生が踏んでるその場所は入ったらダメ……じゃない? でも、私の無意識の記憶じゃそこに入ったらとっても危険だって……じゃあこの感じは何なの……?)


 林の中に入り、特定箇所で時々そう考える瑠璃。既に罠が発動して撤去されている可能性もあるが、そうであるのならば無意識の防衛本能ではなく無意識になるほどにこの場所をうろついており、そこが危険だったという記憶を染みつかせていることになる。


(だとしたら、監禁されてたわけじゃなくなるよね……だって、ここ寮だし。学内の管理体制は万全って言われてたし……)


 つじつまの合わない論理と定まらない思考で混乱しながら進む瑠璃はまた入ってはいけないエリアに立ち入っている一行の内、麻生田の足元を見てハーブのことを思い出した。


(ハーブティーで落ち着きでもしたい気分……あの葉っぱは確か使いすぎると気が抜けるけど、落ち着くのには効果的だったはず……)


 誰が教えてくれたのかは覚えていない知識。何故知っているのかもわからないまま我に返って恐怖感に襲われる瑠璃は林の中にある更に開けた土地に出て更なる恐怖に襲われることになる。


「こ、ここは、嫌。帰りたいです……」


 不意に顔色を悪くして震える声でそう言いだした瑠璃に一行は敏感に反応してその場から立ち去る準備を始めた。しかしその提案者の瑠璃が何故かその場で踊らないといけない気分になって引こうとしない。


「おい、本当に顔色悪いぞ! もう帰るか?」

「で、でも、ここで頑張らないと……」

「無理はしなくていいって!」

「そ、そう?」


 流石に踊らなければいけないとは口に出さなかったので足が震えて動けなくなったと解釈した一行に支えられて瑠璃はその場から脱することになる。


 その様子を遊神一門たちは相川によって何らかのトラウマがこの場所で植え付けられたのだろうと解釈しており非常に苦い顔をしながら移動していた。そしてそれは微妙に正解しており、この場所で瑠璃は除霊のために巫女装束でダンスをしなければならなかったというトラウマの親戚みたいな物を抱えている。


「瑠璃の体調もあんまりよくないみたいだし、権正先生……組手は今度にして申し訳ないですが今日はここまでにさせていただきます。」

「あぁ、構わんが……遊神は大丈夫なのか?」

「一応、様子見を行うことにします……」


 しばらくすると瑠璃の体調も悪くはなくなったので謝辞を述べてから学校から出ていくことになる。そして一応全員で自宅に戻ってからは自由行動となり、瑠璃は一人で街の中に出て行った。





「おっ……も、もしもし? そこのお姉さん。ちょっと時間ないですかー?」


 全く知らない人に声をかけられることに記憶がなくても慣れてきた。そもそも、誰に何をされたのかは覚えていないが相手にしてはいけないということだけは覚えていたので適当にあしらいながら瑠璃は当て所なく人通りの多い道を彷徨っていた。


(……今なら、隙だらけだよ……誰か、何か仕掛けてくれるなら何かしてよ……! 私にどうしたらいいのか教えてよ……)


 もうどうしたらいいのかわからないまま泣きそうになりつつ道を進む瑠璃。瑠璃の移動速度ではすぐに人通りの少ない道にまで行ってしまうので何度も同じような場所を繰り返し移動し、その度に別に自分の記憶には関係のない声掛けをされる。


 気付けば、日は落ちて辺りを街灯が照らすようになっていた。瑠璃は落胆しながらあと2往復したら帰宅するという意思を固める。


(帰っても稽古……誰もそれ以外の趣味を知らない……私にはこんなに時間があるのに……私はこれまで何をしていたんだろう……)


 自分でもよくわからない自分に笑われている気がして、更にそれを自嘲して笑い飛ばす瑠璃。そんな彼女にまたも声がかけられる。


「あれ? 瑠璃さんじゃないですか……? 怪我は治ったんですか?」


 知らない声。退院してから一度も聞いたことのない声で、なおかつ自分の名前をはっきりと知っているトーンでの声。瑠璃は思わず後ろを振り返った。


「あっ、やっぱり! バイト急に辞めてから心配してたんですよー? 何か大会にでも出てたんですか? 怪我したって聞いてますけど、女の子なんだから……」

「バイト……」


 暇な時間にはバイトをしていたのかと妙に納得した瑠璃は何故そんな簡単なことも教えてくれなかったのかと再び周囲のことを疑問に思いながらここは話を合わせて目の前の彼女から情報を手に入れることにした。


「……それにしても、痩せちゃった? 病院食っておいしくないって聞くけど……そうなの?」

「お腹は空いてるねー……」


 このまま喫茶店にでも連れ込むことが出来れば成功と思いながらそう呟くと彼女は快活に笑った。


「アッハッハ! じゃあ久し振りにうちの賄でも食べる? その様子じゃ店長が家に帰ってきてないみたいだしね!」

「あ、お願いしてもいいですか……?」

「雇われの身なのに勝手にそう言ったらダメって? 大丈夫大丈夫! どっちにしろ、今日で調味料のストックの補充行ってくれるからさ!」


 瑠璃は奇妙な角度から手に入ってくる情報を整理しながら相手に違和感を持たれないように会話する。どうやらこの女性は瑠璃が記憶喪失になったことも何も知らないようだ。


「じゃあ行こう!」


 笑顔の女性に連れられて移動開始する瑠璃は騙すことに罪悪感を覚えつつも所持金の問題について考えながら彼女を利用することに決めた。




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