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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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追い求む

「ん? 給料に見合わないくらい敵が来たって?」

『一度は瑠璃さんの部屋にまで到達されました。本人が無事に撃退されたようですが……』

「じゃあいいじゃん。多分、俺と瑠璃の間を破滅させようっていう話が広まってウチの会社が撤退したと勘違いした奴らが挙って来ただけだろ。明日からは大丈夫。」

『……そうだといいですね。』


 通話は向こうの方から切れた。相川は会社の所有するビルの中でアヤメと話をしながら作業の続行を開始する。


「それにしても、外道魔王は強かったなぁ……あいつの力を食い潰して始めてわかる格の違い。」

「……まぁ兄さまはそれに勝っちゃったんですけどね……」

「フル装備が1セット全壊したけどな。異界の扉破壊用爆弾も1割使い切ったし……オロスアスマンダイドのワイヤーブレードも1割……」

「その分、魔力というのは回収できたんですよね?」

「まぁね。」


 上機嫌な相川はそう言いながら外道魔王によって生じた物損の補填に当たる。アヤメはそれを気分よく見ていた。


「それで兄さま、明日のご褒美デートのことなんですが……」

「ん? 好きなところに連れて行ってやるって言ってたけど決まらなかった?」

「いえ、幾つかは決めたんですが……兄さまが連れて行ってくださる場所にも興味がありまして……」


 アヤメがご機嫌な理由は外道魔王の討伐に当たって協力してくれたことでご褒美がもらえるということになったからだ。しかも邪魔者は修行、もしくは記憶喪失で入ってこない。


「俺が選ぶ場所? 海底とか。」

「……それはそれでロマンチックですね。」

「こっち寒いし南国の別荘付きの無人島にでも行く?」

「全部行きたいです……」


 目を輝かせるアヤメに相川は苦笑して応じる。その曖昧な態度はアヤメにとって都合のいいように解釈された。


「明日はよろしくお願いしますね、兄さま!」

「おう。じゃ、ちゃんと今日の仕事終わらせような?」


 今日の自分の作業はここまでと相川は席を立ち、窓から飛び出して突き抜けるような青空が広がる町の中に消えて行った。










「……ここが私の通っていた幼稚園。」


 前日の騒動のおかげであまり眠ることが出来なかった瑠璃は自らの記憶の手掛かりを探すために一人で幼稚園の前に来ていた。


「おー! きれいな姉ちゃんだぁ!」

「? どちら様でしょう、か……」

「あの、10年前くらいにこの幼稚園に通っていた遊神と言いますが……」


 瑠璃の魔性の美貌に脳をやられて行動不能になっている幼稚園教諭に声をかける瑠璃。これでも一応、サングラスをかけて何割減かしているのだが間に合わないようだ。


「る、瑠璃ちゃんね! いや、奇麗になって……! お電話貰ってるから事情は分かってるわ! 瑠璃ちゃんが小さいころに面倒を見てた先生も呼んであるからね。中に入って!」


 再起動して興奮している女性教諭に促されて瑠璃は園内に入る。すると子ども達が寄ってきて瑠璃の行く手を阻んだ。


「遊ぼう!」「こっちだよ!」

「おっぱいおっきいね!」「組手しよー!」

「こらこら皆! お姉さんの邪魔しないの。瑠璃ちゃんこれくらいなら手出ししなくても大丈夫よね?」


 騒いで体にまとわりつこうとする子ども達をやんわり窘めることしかせずに笑っている女性に瑠璃は曖昧な笑みを浮かべつつ記憶がある頃の自分であればどういう行動をしたのだろうかと悩みながらその場を切り抜けて室内に入る。


 そこにいたのはまさしく、瑠璃が幼い頃に世話になったそよぎ、今は結婚して名前が変わっているが通名として働くときはその名を使い続けている彼女だった。


「……これはまぁ驚くわ……いや、綺麗になったわねぇ……ちょっと太っちゃったけど刺激を与えることが出来るくらいには面影ないかしら? 梵先生って昔はよく言ってくれてたんだけど……」


 ただし梵は蕎麦屋の息子と結婚し、二児の母となって肉体的に更に逞しくなっていた。かつて瑠璃と並んでいれば親子と思われたほどの美貌はそこにはなく、瑠璃の記憶にも何の刺激を与えられなかった。


「ごめんなさい……」

「いえ、いいのよ? 今の私じゃ確かにちょっとね……今日は結婚式とかの時の写真を見せに来たの。」


 記憶のない自分に付き合ってくれているという事実に申し訳なさを覚えつつ瑠璃は謝罪する。そんな瑠璃を前に梵は明るく振舞った。そして、細工済み(・・・・)のアルバムを傍において立ち上がる。


「その前に! 瑠璃ちゃんが小さい頃どんな遊びをしてたのかについて実際の場所に行きながらお喋りしましょ!」

「え……? 覚えてるんですか?」


 大勢の子どもたちを見てきた立場からすれば、写真程度はあっても自分がどんなことをしていたかなど細かいことは忘れているだろうと思っていた瑠璃は唐突な申し出に軽く驚いて顔を上げる。


「勿論! この幼稚園始まって以来の可愛い可愛い問題児ちゃんのことを忘れる訳ないじゃない。さぁ行きましょ? 小さな美男美女カップルがはしゃぎ回った後を見に!」

「カップル……?」

「奏楽君のことよ。……うん。そんなに気落ちしないでも後で写真見せてあげるしゆっくりと無理しないで思い出せばいいわ。まずは行きましょ?」


 にこやかにしている梵に連れられて瑠璃はまず門の前にやってきた。


「……門ですか?」

「そう! 瑠璃ちゃんは小さい頃、ここで奏楽君が瑠璃ちゃんに遅れて来るのを待ってたのよ? くすっそれどころじゃなくて、『捕まえてやる』とか言ってたの。」

「そう、ですか……」


 記憶に全くないし、一切響かない。それもやむなしと思いながら瑠璃は次の場所へ案内される。今度は幼稚園の屋根の上だ。


「ここはねぇ、奏楽君と瑠璃ちゃんがいっつもお昼寝してたところ。奏楽君は一人で寝ようとしてても瑠璃ちゃんは絶対に追いかけてたんだから。」


 瑠璃は無言で示された場所に横になってみる。寒空に木の葉を散らせる風が吹き、体から熱を奪うが今はそれよりも何故だか虚しい気分になった。


(奏楽くん、奏楽君……お父さんが言うには今は攫われてるらしいけど、私が小さい頃に仲が良かった男の子。携帯電話のカバーの写真の人……違和感があったけど、私一人を騙すには大掛かり過ぎるよね。)


 立ち上がって梵と共に室内に戻ってアルバム鑑賞に入る。そこには小学生程度の瑠璃が綺麗なドレス姿の梵の前でダンスをしているところだった。当然、相方には修正が入っている。


「覚えてないかもしれないけど、この時はありがとうね瑠璃ちゃん。」

「いえ、その……どういたしまして……?」


 覚えていないことに感謝されても困るだけだが、それを指摘して相手を傷つけてはいけないと素直に受け取っておく瑠璃。釈然としない気分はそのままに瑠璃が覚えた違和感の方が異常であるという証明を終えただけの訪問はその後しばらくして終了することになる。


「あ、その……お手洗いを。」

「職員用のトイレはあっちよ。気を付けてね?」


 訪問が終わり、帰途に就く前に瑠璃は小用のため、お手洗いに向かった。周囲が一時的に張り詰める中で瑠璃は気持ち悪さを覚えながら周囲を警戒し、個室に入って用を足す。


「……?」


 そこで瑠璃は謎の文言を手に入れ、そしてそれを隠しながら手がかりを得たかもしれないという興奮を抱きつつそれとなく帰途に就くのだった。




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