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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
222/254

これから

「瑠璃! 無事か?」

「……えっと、はい……」

「遊神くん、落ち着いてくれないか?」


 目の前にいる大きな男の人は遊神というらしい。私の名前を呼んでいることから私の親戚であることはほぼ間違いないだろう。


「……瑠璃ちゃん、この人の名前は?」

「……ごめんなさい……」

「……記憶喪失というのは本当だったか……!」


 悔しげに天を仰ぐ遊神さん。お医者さん……安心院さんの説明でその人が私のお父さんだということが伝えられるが実感はない。その後ろには男の人がいたが、弟だろうか?


「瑠璃さん、僕の名前も……」


 黙って首を振ると彼は強く拳を握り締めて俯いた。安心院さんがそれを私への負担になるからと言って止めると彼は顔を上げる。


「……守ると約束したのに……!」

「翔、自分を責めるな……相手は外道魔王だった。寧ろ儂の責任だ……!」

「二人とも、そういう話を瑠璃ちゃんの目の前でやるのはいいこととは思えないんだが? 少しは考えてくれないかね……」


 少し怒りをにじませつつ安心院先生はお父さんと弟ではないらしい翔という男の人を窘める。それから私に対する軽い問診を行って二人に私の現状を知ってもらい、これからの話に移った。


「まず、一番最初に君たちに言っておくことは瑠璃ちゃんに無理をさせないことだ。無理に記憶を取り戻させようとしたり、前は出来たからなどと言って無茶なことを要求しない。いいかね?」


 安心院先生からお父さんにお説教のような説明が始まり、二人の話に弾かれた翔が私の方を見て申し訳なさそうに頭を下げる。


「瑠璃さん……守り切れずに、申し訳ありませんでした……!」


 私はそれに黙って首を横に振ることしかできない。謝罪されるにも何で謝られているのかの記憶がないのだから当然だ。


 先生とお父さんの話から私の退院は3日後だということが聞き取れた。そんな状況に置かれても私は何をすればいいのかわからないまま流れに身を任せるだけだった。










「……よぉ、斬れた?」


 その頃の相川は魔素の籠る島でオロスアスマンダイドを前に相川の刀を片手にして何とか斬り出そうと頑張っているクロエと犬養のところにいた。


(外道魔王と戦うことになるって分かってりゃこの刀持って行ってたんだけどなぁ……まぁ終わったことを言っても仕方ない。)


「半結晶の辺りまでは、二人とも進むことが出来ました……」

「ふむ。よく頑張ってるみたいだな。お疲れ。」


 差し入れとして飲食物を渡して相川は刀を回収する。刃毀れが酷いが見た感じではこの地にあるオロスアスマンダイドと魔素で修復が可能そうだ。そう判断して修復を開始していると差し入れを早速食べて休憩に入り始めた二人から質問が来る。


「それで……瑠璃は回収できたんですか?」

「んー……一応。」


 今は修復に忙しいから適当な答えなのだろうかと感じたクロエだが犬養の方は違うように聞き取ったようだ。


「何か問題があったのでしょうか?」

「あー……まぁ瑠璃は簡単に言えば記憶喪失になった。少し話を聞いた感じだと種類的にはエピソード記憶の欠落だな。それが何でどう使うかは記憶にあって生活上には支障がないが、自らの生活史が思い出せないから人間関係が死ぬやつ。」

「……それは……」


 相川のオロスアスマンダイドの刀を修理しながら世間話のように繰り出された発言に犬養は翔言葉を思いつかず、クロエも食事の手を止めた。


「あ、それで思い出したけど俺は今後一切瑠璃とかかわることはないからその辺はそっちでも協力してくれ。」

「……それは、何故ですか……? しゃちょ、相川様ならどうにか……」

「ん? いや、治すと面倒だし瑠璃が可哀想だから。」


 治すこと自体はできると暗に示すような答えに犬養は不満を抱く。しかし、彼女自体の立場も万全ではないのにここで文句を言えばどうなるか、想像できないのであまり強く追及は出来なかった。それはクロエも同じことだ。


「心配なら修行止めて帰れば? あ、俺のことはもちろん黙ってろよ?」

「……魔闘氣というものを会得できなければ異界には行けないんですよね……?」

「んー……場所にもよるが俺についてくるなら無理だな。死にたいなら別だけど。何? 諦めたくなってきた? 異世界は危ないから諦めた方が賢明だと思うけど。」


 相川の言葉の後半はクロエの耳には入ってこない。前半部分のみでこの修業が始まる前に相川から宣告を受けた内容が頭をよぎり、ここから出ることへの釘となる。彼は刀を手放すことが嫌なこと、そしてなにより魔素は出来る限り自分で取り込みたいという二点を理由としてこの修業はこれっきりだと二人に宣言していたのだ。


「……いえ、私は修行は続けます……ですが、質問してもいいですか?」

「ダメって言ったらどうするの?」

「ぃぇ、その、諦めますけど……」


 冗談だと言いながら修復を終えた刀を仕舞う相川に、修行続行と質問の申し出をした犬養ではなくクロエから質問が入る。


「治すのが面倒、であることと瑠璃が可哀想という点は別に考えてるんですよね……? ではどうして治すと瑠璃が可哀想なんですか……?」

「え? 俺と一緒にいる記憶なんてない方がいいに決まってるじゃん。可哀想。」

「……それ、本気で言ってるんですか……?」


 平然と告げられた言葉に疑問の声を上げるクロエだが、相川の方は何を決まりきったことをと言わんばかりの表情でオロスアスマンダイドを採取して運ぶ。


「まぁ俺に限らず瑠璃の記憶って碌でもないことばっかりだからな。そのせいで非常に狭い交友範囲しか得られてなかった……あ。」

「……え、どうかしたんですか?」


 何か思い出したように声を上げた相川にクロエは首を傾げる。しかし、相川は答えなかった。


(【黒魔の卵殻】つけ忘れた……いや、まぁ俺がいなくなるとアレはなくなるから予行練習と思えばいいかな……? それにあいつの目はちょっと魔素に侵されてるから視られても困る。うん仕方ない仕方ない。)


 結構な問題点を思い出した相川だが当面の間は会社の暗部の方で護衛は付けているので大丈夫だということにする。


「……ちょっと過保護かなぁ……まぁあれでも一応友人だったんだからいいか。」

「何を思い出したんですか……?」

「こっちの話。あ、俺はもう帰るけど君らは魔闘氣使えるようにならないと置いていくってことはちゃんと覚えていてくれよ? じゃ。」


 オロスアスマンダイドを集めて船に戻ろうとする相川。二人は刀がないと厳しいと相川を急いで引き留めたが相川は修行第2段階目だとだけ答えてさっさと船に乗り込んでしまった。残された二人は顔を見合わせる。


「……私はついていくべき人を間違えたのかもしれません。」

「へぇ……私は師匠に絶対食らいついていくけどね。」


 瑠璃への対処を見て自らの状況を考える犬養とそれすらもチャンスととらえるクロエ。二人は素手でオロスアスマンダイドをの破壊活動を開始しながらこれからの身の振り方について考えるのだった。




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