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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
220/254

撤退

「どうしたぁ! 何を始める気じゃったのかのぉ!」

「…………せっかく術式破壊したのに……」


(……強い。今にも倒れそうな重傷なのに私と兄さまの二人を相手に押し勝つなんて……!)


 苛烈さを増す外道魔王と相川の血みどろの戦いは続いていた。この場は事前にアヤメが相川から預かった荷物と現地の材料を用いることで罠まみれにしておいたのだが、それがなければ既に負けていた可能性すらあるといった状態だ。


「【夜噛】!」

「【竜頭撃】!」


 上下のコンビネーションに加えて振り下ろしと振り上げる連撃に対して距離を詰めて威力を殺しつつ頭突きで相手への攻撃を行う外道魔王。相川は胸部への頭突きをもろに食らいながらも膝を入れることで外道魔王の水月に強烈な一撃を叩き込むことに成功していた。


(胸骨逝ったな……)


 基本、無心でその場の流れに応じた戦いをしている相川だが、今回の一撃による損傷はかなり重く魔素での修復を行わざるを得ない。対する外道魔王は刹那の間ながら動きが鈍った相川に吠えていた。


「三傑の重みを知れ! 若造が! 【暗点涅槃蹬脚あんてんねはんとうきゃく】!」

「【月夜流し】」


 仰々しい名前に相応しいような一撃でその場に仕掛けられた罠ごと粉砕してくる外道魔王に相川は力を逸らすことで対応する。それでも受けきれず、左腕の尺骨にヒビが入るも今は気にしていられない。


「【巌山踏破がんざんとうは】!」

「【百雷砕き蹴り】!」


 続けざまに出された外道魔王の蹴り。しかし、先ほど階下からの攻撃の際に潰した足を軸足とした蹴りには力が乗っておらず、それを見た瞬間に相川は更にその軸足を徹底的な連撃によって痛めつけることで蹴りを受けつつも相手に更なるダメージを与える。


「この下種がぁぁああぁっ!」

「【二刺抉り抜き】」


 激高した外道魔王の隙を縫って二本貫手突きを放つ相川。別名目潰し突きとも呼ばれるその技は決まらないまでも抉るために曲げた指先が眼球の一部に掠ることに成功し、外道魔王の視界の一部を奪った。


 それでも外道魔王は止まらない。


「【死謳い舞踏】!」

「チッ【呪歌意殺し】!」


 独特の呼吸法と共に超音波のような叫び声を放ちながら動きの定まらぬ奇妙な踊りと共に四肢を操って攻撃を仕掛けてくる外道魔王。相川はその魔術的要素を打ち砕きながら攻撃範囲から逃れ、外道魔王が放り出している瑠璃を掴んでアヤメに投げる。


「カカッ! 逃がさんわ!」

「【破局突き】!」


 瑠璃の方向に気を取られたその一瞬、相川は彼が単発で放つことが出来る奥義の一つを繰り出した。他者から奪い取った技とは異なる自らが生み出し、体に即した秘技。威力は申し分なく、その余波だけで外道魔王が達人用に作った城壁を破砕するほどだ。


「……驚いたわいのぉ……」


 破砕した城壁の塵が舞い、視界が悪い中響いた声に相川は舌打ちを漏らす。今回で決めるつもりだったものが失敗したのだ。その上、相手の声からは激情が消えており油断も見当たらない。


「今の一撃、純粋な技として我に迫る勢いじゃった。」


 血まみれの外道魔王が悠然と歩み寄る。先ほどの相川の攻撃の跡は脇腹にある傷だけだが、地味に与え続けたダメージが蓄積しており、常人であれば死に至っているだろう。それでも外道魔王は平然と立っていた。


「……何故じゃ?」

「あぁん?」


 距離があるなら近づくなと言わんばかりに発砲する相川に外道魔王は避けながら尋ねる。


「何故、それほどの力量を持ちながら、主は武人として戦わぬ!」

「武人じゃないから。」


 避けながら接近し、銃火器よりも自らの攻撃の方が早いと判断するような距離になってもなお、外道魔王は攻撃ではなく疑問をぶつける。


「武術とは心技体、それらを鍛え上げ、融合することで血と汗と屍の上に練り上げられるもの! 主の一撃には確かに全てが込められていた! あぁ、今を見ていてもそうじゃろう。我の氣当たりを前にして、絶望的な環境にありながらも戦い! 我と打ち合うほどの技量を持ち合わせ! 我に傷を負わせるほどの力もある!」

「【羅刃貫手】」

「なのに、何故!」


 問答無用の攻撃に外道魔王は飛び下がりながら相川に問い続ける。


「何故一対一での戦いを挑まぬ! 何故銃火器など無粋な物を使う! 何故装備に頼る! 何故謀略を使用する! 何故罠を張り巡らせる!」

「勝つためだ。」


 これ以上ないほど明確な答えに外道魔王は黙り、左肩に銃撃を喰らっても動きもしなかった。


「……主に拳士としての誇りはないのか……! 主の方がよほど外道らしいの……!」

「そうだね。ところでアヤメ、2秒持たせてくれ。今から必殺技使うわ。」

「えっ、あ、はい……」


 唐突な言葉にアヤメは驚きつつ相川のサポートもなしに2秒も持たせることが出来るだろうかと思いつつ外道魔王と対峙する。そして当然の如く瞬時に防御を崩された。


「主はぁぁああぁぁっ!」

「ひ、としはやらせな……」

「貴様はいい加減に動くでない!」


 相川を庇うかのように外道魔王の前に亡者の如く立ち上がった瑠璃の頭部に思いっきり拳を叩き込む。その時には相川の準備が整っていたようだった。全身を右に捻り、左手を右手の前に添えた状態からその技は放たれる。


「【矛盾ほこたて破砕突き】!」


 当然、外道魔王はその攻撃に対しての措置を取る。今回は相川を殺すためにも前に出ながら防御するが相川の左手がそれを無理矢理払った。


「何と!」

「ぉらぁああぁぁっ!」


 自らの左手のことを一切鑑みずに自らの力で内部破裂、更に外道魔王との衝突で外部からも裂傷などを負いながらも降りぬいた相川はその左手の勢いも借りて右手で全力の【破局突き】を繰り出す。それは見事なまでに決まった。


「お、のれ……! 何故、この我が……」


 武人でもない外道に自らの武人としての生涯を強制的に止められた外道魔王は腹部に風穴を開けられ、目や鼻、口からも血を流しながらも恨みの視線を両手が上がらなくなっている相川に向ける。


「なれば、我も死の間際にこそ、外道としての花を咲かせよう! 汝が世界に嫌われるように! 我の力のすべてを解き放つ!」

「……君の意思は尊重したいんだけどこのままだと魔力も氣も循環できずに死ぬから応急治療用に君の力食わせてもらうわ。ごめんね?」


 問答無用で外道魔王の力を根こそぎ、それこそ城全体に漂っていた魔素ごと喰らう相川。目を真っ赤にして相川を恨んでいた外道魔王は何か恨み言でも発そうとしつつも血を吐きこぼすだけで事切れた。


「……さぁて、帰るとするかね……あー予想外のことが起き過ぎて死にそうだった……まぁ収支的にはプラスどころじゃないけど……肉体は死にかけ……帰ったら集中治療コースだな……」


 瑠璃とアヤメを担ぎながら相川はぼやきつつ表面上は塞いだ両手を見る。そして今回の作戦が終了したことを会社に連絡を入れることで相川のここでの役目は終わった。






「……ロウ様……」


 解放された人々によって荒らされる城の中に残された外道魔王派の達人、そして使用人たちは城の怪しげな力が途切れたことから外道魔王の死を知り、パニック状態になっていた。その中にはアヤメに敗れて養生していた茜音の姿もある。


「奥地へ逃れましょう! 武の再興を、外道魔王様の遺志を継ぐために!」


 混乱の中にも民衆を導こうとするリーダーが現れる。彼らに導かれるようにして波に逆らわずに移動する人々だが、外道魔王が牢獄に閉じ込めていた人々はそれらにも見境なく襲い掛かった。


「相川……! あの男、絶対に許さない……!」


 散り散りに逃れていく中で茜音は相川への怨嗟の念を募らせることになったのだった。




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