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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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外道魔王

「……あ、逃げ損なった。」

「言い残す言葉はそれでいいのかのぉ?」


 周囲の敵を掃討し終え、瑠璃を担いでそろそろ合流地点へと戻ろうとしていた相川は目の前に現れた外道魔王を見て特に動揺することなくそう言った。対する外道魔王は激情を抑えて冷徹な目で相川を睨みつけている。


「よぉ、ご機嫌如何? この前は無様に大怪我してたみたいだけど大丈夫?」

「……お陰様での。礼と言っては何じゃが、いいものを見せてやろう。」

「間に合ってまーす。」


 瑠璃を担いだまま外道魔王から逃れるために走り出す相川。反転しつつも射撃は正確に行っており、命中こそしないものの外道魔王は牽制されて初手を逃してしまう。


「ふん。そ奴を背負ってる限り我からは逃れられんわいのぉ! 【魔氣発勁】!」


 外道魔王の闘氣に中てられた瑠璃が相川の上で目を覚まし突如相川に襲い掛かる。何とか避ける相川だが、瑠璃は落としてしまった。


「2対1、じゃわいのぉ。」

「……おいて帰るか。」


 相川は瑠璃に見切りをつけて逃走を開始。洗脳されているくらいだから殺されるようなことはなく、見た感じ丁重に扱われているので後で遊神辺りに知らせれば何とかするだろうという判断だ。しかし、瑠璃がその後姿を見た瞬間に悲痛な声で叫んで相川の姿を猛烈に追いかける。


「ボクを独りにしないで!」

「嫌だよ。」

「嫌イヤ嫌イヤイヤ嫌イヤ許さない許さない許さない!」

「何歌ってんの?」


 毒が回っているはずなのに全力の相川にふらつきながらも追いつく瑠璃。試しに足払いをかけてみたら見事なまでにすっ転んだ。


「おぉ。」

「待って、行かないで……お願い……」

「嫌だ。」

「その逃走を許すわけにはいかんわいのぉ……」


 瑠璃に構っている間に追いついた外道魔王から相川目がけて鋭い貫手が放たれる。相川は首を振るだけでそれを躱し、外道魔王の勢いに合わせて膝蹴りを叩き込んで押し返した。


「? 当たるとは思わなかったが……」


 あまりにしっかりし過ぎた感触に相川が疑問を持ちつつ闘争と逃走の選択のために周囲を見渡すと外道魔王が踏み込んだ先に瑠璃の足が伸びているのを確認した。


「仁に手を出すのは許さない……!」

「……何と、まだ心を保っておったか……?」

「……いや、割と普通に気付かなかった? 遭った時から全開だったけど……つーか、心どうこうよりも欲望全開というか……」


 言っていて相川はふと思った。


「瑠璃、自由の侵害も許さないけど後でお願い事を1つ叶えてやるって言ったらどうする?」

「ボクにできることなら何でもする。」

「ふむ……」


 即答された。しかも瑠璃の目は期待に染まっており、毒が回っているのにもかかわらず凄く元気そうな顔になっている。


「じゃあ外道魔王を魅了して下僕に「それはダメ。」色仕掛け「嫌。」……外道魔王洗脳下手かよ……」

「何じゃ主は……」

「仁はボクが別の男の人と仲良くしててもいいって言うの⁉」

「……【黒魔の卵殻】解除。」


 自らの要望を頼むよりも実力行使の方が早いと判断した相川は日常生活に支障が出るのを防ぐために施していた瑠璃の封印を解く。瞬間、思わず見惚れてしまった外道魔王に隙が生まれて瑠璃を決して見ないようにしていた相川は刹那の間に膝関節を破砕した。


「よっしゃ! これで逃げられる! ダぁアホめ!」

「ぅぐ……こそこそこそこそ、毎回姑息な手を……!」

「思い、出した……」


 それぞれ大変なことになった。相川はもはや問答無用で逃走。記憶を取り戻したらしい瑠璃もそれを全力で追いかけ、機動力を奪われた外道魔王はその場に取り残されて溜息をつく。


「……あまり、舐めてもろうては困るのぉ……策を張り巡らせ、他者を陥れることで手にしたとはいえこの三傑の座はそう簡単に揺らぐものではないぞ……! 【魔闘氣発勁】……!」


 溜息をついたかと思えばその次の瞬間には全ての怪我が癒えていた。そして遠ざかっていく相川を見ると無言で跳躍し、その背中に飛び蹴りを入れる。


「させない!」

「【魔喰らい】!」


 すぐ隣を過る影に気付いてそれを止める瑠璃と魔素の動きを感知してそれを奪い去る相川。外道魔王の攻撃は結果として何の意味もなさないことになるが、それすら意に介さずに外道魔王は連撃をしてきた。


「自分の身体の状態もお構いなしか。」

「魔素がある限り、我は不死身じゃわいのぉ……」

「その割にはあの島じゃ死にかけてたな。ま、順当に考えてこの城に仕掛けがあるんだろうが……」

「その謎を解き明かす前に主は終わるがのぉっ!」


 低く、地を這うが如く接近してくる外道魔王。相川が魔素を喰らうことで技を鈍らせ、瑠璃がその技自体の迎撃に出る。しかし、瑠璃の攻撃は一切通らなかった。


「甘いわい! 主は後で仕置きじゃ! 【忘我衝ぼうがしょう】」

「ぁうっ!」


 迎撃に出た一瞬の隙をついて瑠璃の脳に外道魔王の特殊な掌底が入り、瑠璃は吐き気を催しながら押しのけられる。それでも尚立っていることに外道魔王は驚いた。


「ほぉ、流石と言うべきかのぉ……」

「ひ、仁……逃げて!」

「任せろ!」


 普通に逃走した相川。予想外の行動に二人が固まっている間に相川の姿は見えなくなった。


「……あやつ、何をしに来たんじゃ……? いや、逃がさんがのぉ……」

「……そう簡単に通すと思う?」

「主、アレを庇うのか⁉」


 外道の名を冠す彼でも流石にないわと思った行動をとった相川に何の文句も言わずに逃がすために全力を尽くそうとしている瑠璃を見て外道魔王は驚きの声を上げる。瑠璃は真剣だった。


「当たり前だよ……だって、ボクの大事な人だもん。」

「その大事な人とやらを敵地に一人、総大将の前に置いていくような奴じゃぞ?」

「仁は色々考えてるんだよ。ボクは信じる。」


 曇りのない眼に外道魔王は舌なめずりする。これほど思い込みの激しい人物であれば洗脳完了後に外道魔王が思うがままに操れそうだと身を以て知ったからだ。


(なんと都合のいい……徹底的に記憶を破壊してやるとするかのぉ!)


 相川を取り逃がすことになるかもしれないが、万が一にも逃すことが出来ないのは瑠璃の方だ。こちらを念入りに調教することの方が外道魔王にとっての最優先事項。構える瑠璃に外道魔王はもう一度【忘我衝】を叩き込む。


「あ、う……」

「クカカ! もはや立つこともままなるまい! あの不埒者は絶対に殺すが、今である必要はない。奴が遊神にこの場所を知らせる前に我は別の拠点へと移るとするかのぉ……」


 予想外のことが2点ほど起こったが結果としては悪いことだけでもなかったので次の策に移ることにし、貴重品等を取りに踵を返す外道魔王。


 その直後だった。外道魔王の足元が崩れ、階下にいる何者かによって足首が360度回転させられる。外道魔王は考えるよりも先に激怒した。


「あ゛い゛がわ゛ぁあぁぁぁあっ! おのれぇぇえぇぇえっ!」

「まだ相川ではありません。」

「龍宮寺の孫娘か!」


 目の前に現れたのはアヤメ。そちらに意識を取られた瞬間に治癒していたはずの外道魔王の負傷箇所がいきなり裂けて血飛沫を噴き出す。


「そこかぁっ!」

「チッ!」


 崩落個所の天井付近に張り付いていた相川に攻撃を仕掛ける外道魔王。空を切ったはずのその攻撃により、何者かが舌打ちをして舞い降りる。それを見て外道魔王は表情を憤怒に染めた。


「相川ぁ……! 貴様だけは、絶対に殺す……」

「さぁ、始めようか。」


 外道魔王と相川、アヤメの最後の戦いが始まった。




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