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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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嵐の後の静けさ

「ぐっふ……にゃろぉ……」


 外道魔王が去った後、騒動に片が付き始めてから相川は血を吐きながら膝を折った。既に全身は幻魔獣たちとの戦闘と外道魔王との連戦で限界に近く、最早立っているのがやっとの有様だ。それでも相川は体に鞭を打って外道魔王との戦闘場所に戻る。


「……10億に、200億……あいつ、覚えてろとか言ったがこっちこそ覚えてろ……!」


 大会の優勝予定金額及び飛行機の概算額を呟きながら怨嗟の声を漏らしつつ第2会場。外道魔王と戦闘を繰り広げていた箇所に戻った相川はそこに転がっているグリフォンの死体に近づいてそれを手で喰らう。


「……あー……まぁ、重篤な傷は塞げたな……今日得た予想外のプラス分の魔力使えば完治まで1日ってところだが勿体ない気がする……」


 地面に横になって相川は全身を回復させるために氣を循環させながらそう呟いた。体に激痛が走るがそんなことを気にしていれば治るのも遅れるので黙って我慢しておく。そんな折に軽症を負った遊神がこの場に舞い降りた。


「瑠璃! ……! 翔君!」


 相川には目もくれずに翔に駆け寄る遊神。相川は翔を揺り起こしているのを見て脳がいかれたらどうする気なんだろうと思いつつ這って距離を取る。


「う、うぅ……」


(あいつよく生きてられるよな……あの強度で外道魔王の本気食らったら流石の俺でも死んでたぞ……)


 揺らされたことで目を覚ました翔に相川は若干引きつつ遊神と翔のやり取りを聞く。どうやら翔の記憶は相川がぼろ雑巾状態で連れてこられて瑠璃が気絶させられた時点で止まっているらしく、遊神は歯噛みしながらその話を聞いていた。


「翔君、達人相手によく戦ってくれた……ここからは儂等に任せてくれ。」

「遊神さん! でも!」

「翔君が瑠璃のことを気にしてくれているのはありがたいが達人相手では流石に庇いきれん。すぐに安心院院長の病院に搬送されるように手続きはしてあるから「遊神さん!」」


 遊神の言葉を遮るようにして翔が声を上げる。その勢いで咳き込み、血を吐きながらも翔はしっかりと遊神の目を見て言い切った。


「僕も、行きます。」

「……命を落とすことになるやもしれんぞ? これまでの修業とは違う、本物の危険が予想される。」

「構いません。」


 真剣な眼差しで睨み合うことしばし、遊神の方から破顔してみせた。


「その意気はよし。だが、外道魔王の居場所が判明しておらん。彼奴が見つかるまでにしっかりと休養して体力を回復させるのが条件じゃな。」

「はいっ!」


 翔を背負ってその場を後にする遊神。死にかけで気配を消すまでもなく感知し辛いほど弱っていた相川はそこでようやく息をつく。


「あー……一先ず瑠璃の救出は勝手にやるらしいから俺は仕返しに集中するか……160億分の5倍だから800億か……さて、どう返したものか……」


 そもそも外道魔王にそれだけの資産があるのかどうかが疑問視されるが、それくらい返すつもりであることを前提としつつ相川は立ち上がる。


(……ま、さっきよりはマシ。多少は考えられる程度に回復したし……動くとするかね。)


 日常生活を送ることが出来る程度には回復した相川はその場から動き始める。そんな彼の下にアヤメとクロエが飛んできた。


「……っ! 酷い怪我です。すぐに手当てを!」

「勝手にやるからいい。それより外道魔王……」

「……退路を断つ任務を任されておきながら飛行機を奪われてしまいました……誠に申し訳ありません。」


 すぐに氣を分けながら整体を施すアヤメと現状報告を行うクロエ。相川は両方共を受けながらこれからについての指示を出す。


「アヤメ、二十四代っつー酒は知ってるか?」

「? はい……時折、本社でも仕入れていますが……」

「今日、どこかに動きがあるはずだからそれに網張れ。それから今から俺の飛行機を爆破する。その場所を割り出す準備を……」

「あの、レーダーに普通に映っていますので……」

「……ステルス戦闘機にしておいたはずだが?」

「いえ、所有者には流石に分かりますよ……」


 相川はそれに更に改造を加えて分からないようにしておいたのだが、外道魔王は普通に飛んで逃げただけらしい。今は恐らく逃げている最中であるので、嫌がらせのために爆破することもやぶさかではないのだが、少々問題が多すぎるのでそれはやめておいた。


「……まぁいい。」

「ですが、どうやら近くの空港で乗り捨てたようです。既に調査に当たっていますが機密事項として扱われており、金を握らせても恐怖のためかどこに行ったのかまでは喋りませんでした。」

「どこまで喋った?」

「……誘導尋問の際、貨物の種類程度までは吐かせることに成功しています。」


 そうであるのならばその流通経路について調べるように命じ、生産元からどこに送ろうとしているのかを割り出すように言って相川は迎えに来た部下たちの運転する車に乗り込む。


「……こいつらは【反憎禍僻嫌】組だよな?」

「はい。そうでなければ危険ですので……」

「じゃあちょっと今から寝る……その前に指示を聞いておきたいことは?」


 窓枠に頭を乗せながら相川がそう尋ねるとアヤメが言い辛そうに尋ねた。


「遊神一門より捜索協力要請が出ています。」

「それが何? 別にいいじゃん。」

「……無償で協力しろとのことですが……」

「乞食かよ……」


 舌打ち交じりに苦い顔でそう呟く相川。相川の脳裏には嫌々ながら相川の力を借りようとしている遊神たちの姿が容易に想像できた。


「有事の際なのだから今は遺恨を忘れて協力しろと。」

「勝手に恨んでおいてなんだその言い方。死ねばいいのに……」


 ムカつきはするが、捜索自体は相川たちも勝手にすることだ。デメリットは遊神一門を増長させることだけ。相川は嫌そうに続けた。


「チッ……一応、協力要請は受けろ。邪魔されても鬱陶しい……だが条件として俺ら、裏の方の人間の調査は使わせない。こっちはこっちで勝手に動く。」

「表だけですか……でしたら有償という形でなければ従業員は納得されないかと……」

「瑠璃の給料から引いておけ……と言いたいところだがあいつ、いっつも金毟られて可哀想なんだよな……」


 相川は首を傾げた。少し疲れがたまっており、頭が働かないで困っているのだ。クロエがそれを察して居住まいを正し、相川に膝枕を申し出るが相川はそれを拒否する。


「……どこから金引っ張ってくるか……あ、翔の家にでも請求するかな?」

「……一般の家庭に私たちに依頼できるほどの資産を期待するのは少々……いえ、相当無理をすればできなくはないでしょうが今回の案件では荷が重いかと……」

「んー……仕方ない。瑠璃が持ってる母親の遺産を使うか……? 財産管理権の委託を受けてるとはいえそれがあることを遊神の野郎に知られると面倒そうだから手を付けたくなかったんだが……」


 瑠璃が成人して親元を離れたときか、結婚するときにでも法人を通して増益分も含め全額送ろうと思っていたものだが子の利益を考えると今回は使うべきだろう。


「えぇ……何で兄さまが瑠璃さんのお金を管理して……」

「……瑠璃の母親は妙さんって言うんだが、あの人は自分の夫のことをよく理解していてな……結構な隠し財産を書庫に隠して危機に備えてたんだよ。あんまり関わりたくないから放置しようかとも思ったんだが落ちぶれていくのを見て流石にまずいかと思ってね……まぁ、でも、一応瑠璃は友人だから格安価格で応じるとして、増益分から一部貰うだけにしておこうかな……」


 そろそろ本気で瞼が重くなり始めた相川。その様子を見ていた二人はあまり無理はさせないように相川のことを休ませることにして指示通り、いや指示以上の働きを魅せんとばかりに静かに動き始めた。




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