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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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活殺衝突

 リング上では殺神拳【榊神道流】と活神拳【遊神流】の一門たちがそれぞれの敵を前に個別に分断されて戦いを繰り広げていた。しかし、そのどれもが殺神拳の優勢で進んでいる。特に、遊神流の中でも合気道を突き進んだ相木の娘が酷くやられていた。


「くっそぉっ!」

「彼女に加勢したいのはわかるが、そんな大振りで当たるとでも? 舐められたもんだ……」

「スカした態度取りやがって!」

「それだけ実力の差があるということを早く認めてくれないかな?」


 会場の音声を拾い上げながら相川は後ろの口論を時々見る。相川についてきた2人はまだしも、瑠璃は自分の幼馴染と先ほど見ていてくれと言った相手の戦いなのだがいいのだろうかという視線を向けるが、瑠璃は相川の視線に微笑みを返すだけだ。


「……見てやれよ。」

「勝つも負けるも兵家の常だし、当事者は全力を出すのみ。それに、ボクは今自分の戦いで忙しい。」

「応援とかさぁ……」

「みんな集中してて聞こえてないと思うよ。しかもこの大歓声の中だし。大体、仁だってボクの戦いの時応援してくれなかったじゃん。見てすらなかった。」

「……いや、まぁ俺はそうだが……遊神流は違わなかったか?」


 そもそも、聞こえていないからと言って応援しないでいいというわけでもない気がする相川だが、個人的には応援は別段必要なものだとは思っていないのでそれ以上は追及しない。だがしかし地上の方からちらちらとこちらを窺っている殺神拳の悠のことを見ると何とも居た堪れない気分になったのであまり使いたくない手を使用した。


「瑠璃と一緒に試合観戦したいんだが。」

「そうならそう言ってよ。」


 勝ち誇りながらものすごい素早さで相川の隣を陣取る瑠璃。残された二人は仮面の下で苦虫を嚙み潰した顔になりつつ遅れて相川の傍に控えた。


「……ん?」


 その瞬間、隠された巨大な氣を感知した相川が瞬時に別の方向を見やる。しかし、そこには誰もおらず相川は目を鋭くしたまま会場を見やった。


(……チッ……思わず呼応してしまった……実力者の内何人かぐらいは俺の正体がバレたな……そうなると嫌悪感のせいで実力以上の力を発揮する可能性が……まぁ、その分冷静じゃなくなる点はいいんだが……)


 内心で舌打ちしつつ下を眺める相川。遊神流の麻生田、毛利、谷和原、相木は2組の男女相手に完全に翻弄されており、最初に倒すターゲットとして認識されているらしい相木はもはや意識すら怪しい。

 そんな折に相手の中心選手らしい悠が呟いた。


「……やはり、しぶといな……使うか。」

「本流相手まで取っておくのではなかったのかしら? このまま消耗させて倒せるのにわざわざ……」

「いや、この試合を見ている人がいるからね……これも、見てもらおう。」


 瞬間、男女のペアになっていた榊神道流の門下生たちが編成を変えた。それと同時にまとう雰囲気が変わり、それを敏感に察知した遊神流の門下生たちも構えるが、悠は早過ぎた。


「死ね【榊流・暗獄刃】!」


 それを放つと知っていた榊神道流の門下生たちでも辛うじて見えたその技。リング上にいた遊神門下生たちはそれに反応できない。


「かっ……!」

「名奈ぁっ!」


 気付けば、先ほどまで意識ももうろうとしていた相木が腹部に悠の腕を生やして宙に持ち上げられていた。それを見て観客たちは大いに盛り上がったり賭けの負けに近づいて罵声を浴びせたりする。リング上の悲痛な声などなかったかのような盛り上がりだ。


「テメェェッ!」

「次はお前だ。」


 腹部を貫通させた相木を打ち捨てて激怒して突撃してくる麻生田に恐怖の笑みを向ける悠。しかし、後ろで見ていた女性が麻生田の足を払い、頭を踏みながら悠を窘める。


「リーダー、手の内を見せすぎない方がいいわよ。誰に見せたかったのかは知らないけど、次の相手も尋常じゃないんだから……」

「おっと、そうだな。」


 麻生田の蟀谷こめかみを踏み抜いて頭蓋骨にヒビを入れて女性は麻生田から離れる。相木と麻生田に気を取られた時には毛利はすでに決着をつけられており、まともに立っているのは谷和原だけだった。


「ごふっ……」

「ち、畜生……!」

「あら? この子はまだ生きてたの……少なくとも完全に気絶させたはずなのに。」


 そんな立っていた谷和原も2対1で追い詰められすぐに吐血するほどの重傷を負わされ、地に伏している麻生田は何もできない自分のことを呪いながら涙を流す。そこで遊神家の師範代たちが降参を告げた。


「勝者、【榊神道流】! 全大戦の縮図の如き結末でした! 天下に隆盛を誇った活神拳ももはや衰退の一途を辿るのみということでしょうか! 一方、【榊神道流】は完全勝利! 準決勝では【仮面武闘】との好勝負が期待できます!」


 試合が終わり、熱気が冷めていく会場。相川は瑠璃を見て遊神流の門下生の下へ行かなくていいのか尋ねた。そんな相川に瑠璃は顔を俯けて言い淀みながら訊く。


「……素人目に見て、名奈ちゃんは厳しいと思うんだけど……仁は……」


 そこで瑠璃は顔を上げて相川の目を見る。その目は完全に情を排斥したこちらを見透かすような瞳をしていた。瑠璃はそこで相川の状態を察す。


(……頼んだら、ボク、見捨てられる……)


 相川が相手の利害打算を推し量る目をしているのに気付いた瑠璃はここで自我を押すと自分が相川のことを便利屋としてキープしていると勝手に思われると気付いて俯き、黙った。しばしの沈黙の後、目をやめた相川の方から口を開く。


「まぁ、治せるけど……君の親たちが絶対に俺の治療を阻止するだろうね。で、それでも何か頼む?」

「で、できれば、その、あの、助けてほしい……けど……あの、ボクは、違うから……」


 落ち着きをなくしてしきりに体の一部を触る瑠璃。この状況下に先ほどまで戦闘を行っていた悠が舞い降りた。


「……思っていたより落ち着いてるね。あれだけショックな出来事が起きれば君の心の奥で眠っているはずの闇が目覚めると思ってたんだけど……まぁ、人死にが出ても落ち着いている辺り、やはり君はこちら側の人間なんだよ。」

「何で……何でそんな理由で名奈ちゃんを殺したの……!」

「すべては君のためだ。」


 なんか別の世界が始まってるなぁと少し距離を置こうとした相川は瑠璃に袖を引かれてその場に残る。そんな小さな仕草を見て悠は仮面を睨んだ。


「お前が瑠璃を縛る鎖か。」

「は? 俺は基本的にフリーダムだが?」

「っフ……何がフリーダムだ。これほどの力があるのに彼女は全く自由がない。遊神やお前たちが閉じ込めてるんだ……!」


 一度不覚にも笑ってしまったが何とかシリアスを作り出そうとする悠。相川はその時点で全身統制も碌にできてないのかと警戒心を下げ、瑠璃はむしろ閉じ込められたい。保護されたいと思いながら成り行きを見守ることにした。


「そうなのか……因みに榊 悠くん16歳、好きな食べ物は牛100%でデミグラスソースたっぷりのハンバーグ、嫌いな食べ物はミックスベジタブルの思う自由になった瑠璃ってどんな感じ?」

「な、何でお前そんなこと知って……」

「え? 調べた。身長179センチ、体重80キロで好きなタイプは……あれ? 年上系なのか。昨晩もこの大会のガールとでお楽しみだったそうで……じゃあ何で瑠璃? 運命感じたの?」

「こっ、殺す……!」

「試合でな。あ、あと、明日俺と殺しあうつもりなら今日のやり過ぎには注意してくれ。腰やった相手なんざ瞬殺だからな。」


 仮面越しにもわかるような笑みを浮かべながら相川は悠のことを揶揄する。激高した悠は物も言わずにその場から去っていった。





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