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強者目指して一直線  作者: 枯木人
終章・高校生編
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修羅の国進軍

「13番隊隊長。会議の時間です。」

「おー……」


 修羅の国にて相川はやる気なさそうに呼び掛けに応じた。過去、救国の英雄として祭り上げられていた男は現在、名前を呼ぶことさえ嫌われる存在となっており、周囲からは役職名でしか呼ばれることはない。

 そんな相川は周囲から避けられた広い道を歩いていく。その隣にはこれまで見当たらなかった姿が二つほどあった。


「……これが、師匠の本当の仕事なんですか。」

「私は知っていましたよ。過去に雇われたこともあります。」


 クロエとアヤメだ。若い美女であるクロエと幼く可憐な美少女のアヤメは軍の中では垂涎ものの存在だが相川がいることで決して近づかれることはない。代わりに相川への嫉妬の視線は強まるが。


「まぁ別に本業というわけではないんだがねぇ……少なくともクロエたちに任せていた仕事よりは本業に近いかな。」

「私は色々任されていましたけどね。」


 ちょくちょく自慢を入れてくるアヤメにイラっとしながらクロエは相川についていく。程なくして相川が呼ばれた場所に入るとそこには多国籍にわたる指揮官が勢揃いしていた。


『おやおや、東洋特殊部隊13番隊隊長殿は随分といいご身分だことで。両手に花というところですか?』

『ロリコンは黙ってろ。今日はあんまり機嫌がいいわけじゃない……いつの間にか部隊が消えることになるかもしれんぞ?』

『あぁん⁉』


 本当に機嫌悪くしている相川とからかい半分で発言した男の間で緊張が高まるもそれを周囲が宥めて相川の入室によって会議が始まる。その前に、傍観していた鋭い目の男が相川に尋ねる。


『13番隊隊長、アイザックは軽口が過ぎるが実際に部外者を引き連れて何のつもりだ?』

『こいつは龍宮寺の遺児だ。こっちは見学に来ただけだからすぐに外に出す。』


 クロエはこういう場で昔は弟子と称されていたのにもかかわらず、現在はそう言ってくれないことに内心で怒りと悲しみが綯交ぜになった感情を抱くが大人しく外に出る。その間、クロエに注目するものはこの中にはおらず、注目は龍宮寺の遺児であるアヤメに注がれていた。


『これがあの化け物の……』

『化物は化物を呼ぶってか……』


 口々に本人たちには聞こえていないだろうと思って呟かれる囁きにアヤメは不快感を示すが相川を見てそれを殺し、相川の隣に控える。


『まぁいい。それでは今回の戦闘に関しての最終事前会議を行う。進行は私が務めさせてもらおう……とは言っても確認だけだがな。』


 顔に縦に傷のある筋骨逞しい男がそう言いながら不敵に笑うのを見て誰かがそれを否定することもなく話は始まる。


『まず、13番隊が安全なルートを確保する。予想ルートはどうなる?』

『まぁ普通に中央突破しますけど。最短距離で。』


 相川の発言に周囲は白眼視を向ける。軍に所属している身としてこのような埒外に軍属などと語ってほしくはないのだ。しかし、使えるのは事実であるので成果を上げている分だけ何も言うことはできない。

 代わりに、失敗したときのための罵りを思い切り考えてやるだけだ。尤も、相川たちが置かれている状況は失敗すなわち死のようなものだが。


『恐らく、13番隊が出ることで敵勢力の抵抗はかなり抑えられるものと考えられる。できれば毎回13番隊には出てきてもらいたいところなのだがな。平和のためにも。』


 嫌味な視線に相川は薄く笑いながら無言で返答を行う。答えはNoだ。面倒くさいのと本来はこの世界に存在しないはずのヒト・モノ・サービスを過剰に使ってしまうことへの反発心がある。


(つーか、こいつら毎回俺がいない時に13番隊の常駐組を突っ込ませて死なせてるが育てるのにどれだけコストかかってるのか知ってるのか? いや、まぁ戦車とかよりは安いかもしれんが……俺の手間的に。)


 各国としては相川が桐壺グループに渡した機密文書のようなことをしたいと考えているが現実には才覚や手法の問題などで実現することはできていない。それがさらに相川への苛立ちを募らせるのだ。


『13番隊隊長殿から質問はあるかな?』

『特には。……あぁ、出発は今日の未明ということでいいでしたっけ?』

『そうだな。事前の打ち合わせでは13番隊の準備が出来次第、掃討戦になっている。』

『わかりました、それでは。』


 必要なことは聞き終えたと相川は席を立つ。相川の意見はやるかやらないかのみで、作戦自体への発言権は持ち合わせていないのでこのような暴挙も割といつものことだった。そして、それと同じようにいつものこととして相川がいなくなった後、その場では相川への不平不満が噴出することになる。




「……このままでいいんですか?」

「何が?」


 会議場から離れながらアヤメは相川にそう尋ねた。彼女、いや一行にとっては向こう側で盛り上がっている相川への悪口雑言など普通に聞き取れるのだ。そんな状態を放置していいのかという質問をしたアヤメは相川がそれを理解しているのにもかかわらず訊き直したことでそれをどうするつもりもないことを理解して黙る。


「し、師匠は何故こんな状態のままで……」

「まぁ出ていくからどうでもいいしなぁ……後、今は育ててる時だし。」


 アヤメほど空気を読めなかったクロエの質問に相川はアヤメの予期していた答えを告げる。そんな相川の興味関心としては今日の戦争についてではなく、瑠璃から送られてきた転送メールだった。


(……招待状がない場合は予選勝ち抜けがいるのか……今回の修羅の国の滞在は短めにしておかないと間に合わんな……)


 相川はタブレットを見ながらそんなことを考える。下の方からそれを見上げていたアヤメは微妙に空気が悪くなったこのタイミングなら話題転換のために入ったと思われるとこの機を逃さずに相川に恣意を見せずに話しかけた。


「そういえば、兄さまはアマチュアの大会出ようとしてましたですよね?」

「おう。見るか?」


 別に見なくとも何回も見たことで暗唱すらできるが一応見てなるべく自然に相川に尋ねる。


「団体戦みたいですね。兄さまは誰かと一緒に出るんですか?」

「ん? いや、さっきの話にもあったが俺は絶賛嫌われ中だから難しいな……」

「そんな兄さまにご朗報です! 兄さまが私のお願い事を1つ聞くだけで私も兄さまの団体戦に付き合います! 賞金ももちろん要りません!」


 年相応のはしゃいでいる姿を見せながらアヤメがそう言うと相川は首を傾げる。そんな二人を見ながらクロエがどこまでの要求なら許されるのだろうかと目を爛々とさせながら注視していた。


「言うだけ言ってみろ。どうするかは知らん。」

「……っ……ふぅ……わ……私が、兄さまのことを嫌いだって言ったこと、それに類するような言動をしたこと、すべてなかったことにしてください……!」


 言った。頭を下げながら発言したのでアヤメには相川の姿は見えない。もちろん、許されない場合もこれを1つ目の条件として更に善行を重ねていく所存だがその第一歩ということでアヤメには非常に重大な発案だったのだ。


「ん? いや、別に……まぁそんなことでいいなら。」


 対する相川は別に気にしていなかったので拍子抜けだ。しかし、これだけでいいのならこれだけで済ませたいと何か付け加えることもない。


 そしてクロエもアヤメと同じようなことを条件として大会に参加することに決まったのだった。




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