高校進学
(計画は滞りなく進んできている……)
全力で世界から嫌われている相川はエスカレーター式の中高一貫校から追い出されて新たな高校を前にしてそんなことを思っていた。因みに金さえ払えば入れる底辺高校で、現在は初対面の相手に嫌われて襲い掛かられたので踏み躙っている。
(まぁちょっと爆破したビルの跡地が安くなったから土地買って地下に研究所を作ったから金が減ったけどまぁ仕方ない……)
哀れな不良高校生たちの呻き声をBGMとして相川は金策について考える。異世界行きの機器はできれば自分で全額準備したいところだが、最悪の場合としては会社の金を使って支払いを済ませることも視野に入れておかなければならない。
(……まぁ会社の金といっても会社を代表して俺が買った保有株式を全部適当に売り払うだけなんだが……まぁやったら信用が大変なことになるな。)
相川が人を踏みながらそんなことを考えていると足元にいた同級生らしき男が相川を見上げながら怨嗟の声を上げた。
「覚えてろよ……」
「お? 今から思い出したくない記憶にしてやる予定なんだが……フラッシュバックになる方がいいのか? 生活に支障が出るからあんまりお勧めしてないんだけど……」
「あぎっ……!」
睨みつけてきた学生の指を捻じ曲げる相川。しかし、折ることも外すこともなくそれは普通に元の形に戻った。激痛は続いているのにもかかわらず、形だけはしっかりと元の形に戻っている自分の指を見てその男は表情を蒼褪めさせた。
「筋肉がどうとか、骨にヒビがとか、そういう問題もないから安心しろ……どうやってやってるかは企業秘密だ。面白いだろ? 全身にやってやる。」
「ぉ、おまえ、やめろよ! 洒落になってねぇだろ!」
「俺は面白いから大丈夫。大体、後ろからバット持ってきて襲い掛かってきておいて自分は怪我一つなしで帰ろうという方が意味わからん。じゃあ足から行こうか。」
相川は高校に入ってもいつもと同じような生活を始めており、今後も金策を行いながら定期的に修羅の国に行くことを決めていた。
「……仁来なかった。」
「まぁ仕方ないだろ。どう考えてもあいつは武人じゃないからな。」
その頃、相川と別の高校に通うことになった瑠璃は奏楽と一緒に御門高校に入学して入学早々美男美女のカップルとして注目を集めていた。
「それより、そろそろ武人会のプロ入門試験があるけどその前のアマチュアの大会……遊神さんは出た方がいいって言ってるが瑠璃はどうする?」
「……なんかお金がいっぱいもらえるやつだよね? 活神拳と殺神拳が混じって生死問わずで戦う……」
「まず金の話が出てくる辺りあいつの悪影響が心配だよ……」
吐き捨てるように告げる奏楽に瑠璃はもう慣れたとばかりにスルーしてそれよりも大会の賞金について考える。
(確か1000万ドルだっけ? 大体10億円……これあげたら仁喜ぶかな?)
考えがかなり飛躍している瑠璃。武術組の最高峰のクラスには最近ものすごい勢いで力をつけてきている翔がいるが、彼が出ることはすでに確定していた。
(んー……どうしよっかなぁ……あ、でもそれより家に帰ったら仁と久しぶりに会えるから何してもらおうかな? 今日はアヤメちゃんとかがいて甘えられないけど……)
目の前のことには結局答えずに瑠璃は奏楽に何度も質問をぶつけられることになるのだった。
「ほー、18歳未満のデスマッチねぇ……」
「うん。」
久しぶりに修羅の国から本国に戻ってきた相川は血みどろの入学式を終えて早々に自宅学習に切り替えられて家に帰ってきていた。そしてアヤメのトレーニングに付き合いながら瑠璃の話を聞く。
「……そろそろ見切りに移りたいのですが……」
「マシンガン撃ってると話聞こえないからダメ。」
「ハイ兄さま。」
一時訓練を中断して相川は瑠璃と会話する。瑠璃は相川に久し振りに飼い主が返ってきた犬のような態度で話をするが相川は話を聞きながら首を傾げていた。
(賞金10億、拘束期間は1週間……やるか。)
瑠璃の頭を撫でている間に参加の意思を固める相川。しかし、そこには弊害があった。
「でね、翔が参加することに決定して奏楽もやるって言うからボクもそれに参加が決定しちゃったの。翔だけだったら麻生田くんたちの団体に入れてもらえたのに。」
「そりゃ大変だ。」
「うん。慰めて~」
出場が団体戦ということだ。相川は個人戦において負けはしない自信はあるが、団体戦で瑠璃や奏楽、それに翔まで加わった団体と戦って無傷で終えられるとは思えない。その戦いの後、負けてしまう可能性が高くなるのであれば参加する意味がなくなる。
(……何かモノでこいつら釣れねぇかな……)
瑠璃の話が終わるのを待機しながら撫でられているのを羨ましそうに見ているアヤメを見て相川はそんなことを考える。その視線に気づいてアヤメは何故か締まりのない笑みを浮かべた。
「……それはそうと、優勝したら仁にお金あげるね? なんかお父さんたちに色々引かれて残るのは1億円くらいしかないみたいだけど……」
「優勝する前提なのか……」
「うん。何か変?」
「いや、殺神拳たちもいるのに剛毅なことだなぁと思っただけだ。」
凄い自信だがそれに伴うような実力を持っていることは認める相川。しかし、相川たちが参加するのでそれは今回どうだろうかと思いながら見切りのトレーニングを開始する。
「あ、話変わるけどさ今度デートしよ? 仁がいない間にボクが死にかけてたところの跡地で遊園地ができたんだよ。」
「デートはダメです! 私も行きます!」
「おい、余所見するな。」
耳元で相川に囁いた瑠璃の言葉を聞き逃さなかったアヤメに相川はよく聞こえたなと思いつつも多少銃弾が当たって服が裂けたことを注意する。尤も、その下にある相川の会社製のボディースーツによって何のダメージも負っていないのだが。そんな忠告にアヤメは口元を緩めて心配されていることに喜ぶ。
「にしても、アヤメは遊園地に行きたいのか。」
「はい!」
「ふむ。」
これなら釣れるかもしれないなと若干考えた相川。しかし、よく考えると生死をかけた争いに遊園地ごときで釣られるとは思えないかと考え直して普通に後で交渉することに決めた。
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