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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
203/254

好きなように

 瑠璃が相川の陣で暴れた傷、そして外道魔王の弟子と争った傷が完全に癒えた頃。ベッドの上で元気にしていた瑠璃は相川の診断を待っていた。


「……どう?」

「治ったな。リハビリももう終わり。」

「やったぁ!」


 ベッドから飛び上がってそのまま相川に飛びつく瑠璃。相川は重心を後ろに仰け反らせながらも瑠璃を受け止めて近くにある頭にそのまま顔を寄せて告げる。


「そしてついでに卒業試験合格おめでとう。」

「はーい!」

「正直、頭おかしいんじゃないのかっていう試験内容を怪我したままクリアしたのは凄いと思います。」


 相川の言葉を待ちながらもワクワクしている様子を隠し切れない瑠璃。そんな彼女に相川は待ち望んでいるであろう言葉を微妙に笑いながら言った。


「ということで、完治祝いと卒業決定祝いを兼ねて今日は瑠璃の好きなようにしてもらいます。」

「はい! じゃあまず一緒にトレーニングしようね!」


 相川の手を取ってトレーニング部屋に連れ込む瑠璃。相川はすでに半笑いでこの後の作業について思いを馳せ、もう終わっていたから逃れる術はないよなぁと自らの会社で作ったトレーニング器具を見渡す。


「まずはストレッチだよね! 座って!」

「そんなに急かさなくても逃げやせんよ……」

「逃げはしないかもしれないけど呼び出されたりするから急ぐよ!」


 元気な瑠璃になぜか見ているだけで老人のような気分になる相川。最近自慢げにしている胸を当てながら背中に圧し掛かられ、別に押されなくても自ら倒れることはできるが瑠璃の希望でやっているので付き合いながら柔軟とアップまで済ませる。


「気持ちいいねー! いつもやればいいのに。」


 最初はにこにこしながら楽し気な口調で、続きを小さくいつもよりわずかに低い声になる瑠璃の言葉を相川は聞こえなかったことにして瑠璃がすでにスタンバイしている器具の方へと歩み寄る。


「じゃあボクが補助するから! 最初は軽く500㎏?」

「そうするか。」


 全然軽くではない気もするが相川も合わせられないわけでもないのでスクワットから開始する。特殊な素材によって小さくとも一つ一つの重さが半端ではない重りを相川が軸を抑えている間につける瑠璃は常に相川の方を見ながら笑っている。


「つけたよ~後ろにいていい?」

「いいよ。」


 基本的に至近距離で後ろにいるだけで理不尽な攻撃が襲ってきたりすることもあるが、今回は瑠璃の好きなようにしていいと許可をもらっているので息がかかるほどの距離で相川の近くに佇む瑠璃。相川は思いっきりぶつかってやろうといきなり動き始めるが瑠璃は普通に対応して避ける。


「……もう少し離れてくれないかな?」

「うん。」


 流石にこれはやり過ぎという自覚はあったらしい瑠璃は素直に引き下がって微笑みを浮かべながら相川のスクワットを見守る。25回終わったところで今度は瑠璃がやることになった。


(……やることないな。)


 普通であればマックス140㎏でも相当であるのにも関わらず、軽くで500㎏を軽々とやった二人は続いて脹脛と足首を鍛えるために爪先立ちをする。


「踵つけたら負けね。重りのっけていこう?」

「100㎏からか?」

「うーん……他にもやりたいこといっぱいあるから200㎏いこう?」


 瑠璃の言う通りにして5トンを乗せて爪先立ちで走り出し、瑠璃が満足したようなので二人はそのアフリカゾウの遊戯のような意味の分からないトレーニングを終え、今度は組手を開始した。


「うふふ、えへ。」

「おら。」


 なぜか急に笑い出した瑠璃を捕獲して大外刈りで投げ、抑え込む相川。苦しそうにしながらも瑠璃は楽しそうに相川の服に顔を埋めて抵抗する。


「……瑠璃、降参しない?」

「うん。もうちょっとこのまま。」

「そうか……」


 抵抗というにはあまりにも緩い状態になってきたところで相川が声をかけるが瑠璃は逆に逃がさない。もう少しして瑠璃は相川と時々行うように本気で組手を開始した。





「疲れたね! お腹空いたね!」

「作るから待ってろ。」


 組手終了後、相川と瑠璃は水分だけを摂取していたので空腹を覚え、相川が食事を作り始める。


「おにぎりとおかずでいいか?」

「柚子味噌の豚肉のあのおにぎりと、牛しぐれのマヨネーズのあれ! あと、ピリ辛のから揚げのあれがいい! でね、新作もほしい。それからね、おかずはキンピラと豚汁、あと卵焼きでしょ? それからブロッコリーが入ってる卵サラダとね、えーと、えーと……」

「……とりあえず今言ったやつにアジの塩焼きで。その他に食べたくなったのは後で言え。夕飯の時に作ってやる。」

「うん!」


 瑠璃に頼まれたおにぎりの具とベーシックな鮭、梅干し、昆布、おかか、銀シャリを作りその他に割と瑠璃が好きな天むすを作り、新作としてはつぼ焼き貝の混ぜ込みご飯や味付けを濃くした鯛めしなどのおにぎりを準備した相川は瑠璃をご満悦にすることに成功する。


「あーん……」

「あぁん?」

「ごめんなさい。」


 調子には乗るなと食事を邪魔された相川にくぎを刺され瑠璃は相川の食事が終わるまで少し待機する。それが終わると今度はリラックスタイムだ。


「膝枕してー」

「……まぁいいだろ。」


 ソファに横になりながら頭を預けられる相川。何となく撫でると無言で瑠璃は目を細めて喜んだ。そんなまったりした雰囲気なら聞けると瑠璃は相川にバレないように静かに唾をのんで相川に質問する。


「……ねぇ。ずっと聞きたかったけど何でボクが危なかった時来てくれたの? 出張だったんでしょ?」

「あ? どっかの困ったちゃんが職場を荒らしてくれたからやることがちょっと延期になったんだよ。死者こそでなかったものの重傷者が多かったからな……」

「そうなんだ……」


 何らかの運命だと嬉しかったのになと少しだけ残念に思う襲撃者の困ったちゃんは相川に消された記憶の間に行っていたことも知らずに溜息をつく。溜息をつきたいのはこっちの方だと思いながらも相川は寝返りを打った瑠璃の頭から少し腰を離した。


「延期って、また出張行くの?」

「行くねぇ。やることは済んでないからな。」

「今度はいつ?」

「来週から1ヶ月。」


 来週から1ヶ月ということは瑠璃の卒業式にも来れないということかと落胆する瑠璃。その償い代わりに今日の出来事があったのなら最後まで今日は甘え尽くそうと更に相川の胴体に顔を近づける。


「瑠璃、そこで深呼吸するな。変態みたいだぞ。」

「だって卒業式来てくれないって言うんだもん。」

「……あんまり関係ないんじゃ……」

「別に出張行かないでボクの卒業式に来てってダダ捏ねる訳じゃないから、今日はもうちょっと甘えさせてよぉ……」


 それは親にやれと相川は思ったが口には出さない。茜音が現れたことで遊神は怪我をしている瑠璃を放置して消えているからだ。


(……あいつ俺のこと嫌いな割に押し付けてくるよなぁ……その上瑠璃に口出しする割に義務は果たさないしよぉ……何でもできるからって放っておいていいわけじゃないんだが?)


 そんなことを思いながら相川は親代わりに瑠璃のことを甘やかしてあげるのだった。




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