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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
202/254

意気地なし

「けほ……ぅ……」


 自爆特攻を仕掛けてきた外道魔王の弟子とともに爆心地にいた瑠璃は辛うじて生き残っていた。耳をふさぎ、叫ぶという爆発の際の処置を行ったものの怪我の状態でそのすべての攻撃から逃れることは出来ず、結構な重傷を負う羽目になった。


(……不味い、ふらつく……)


 歩くのさえままならない自らの状態を鑑みて瑠璃は生存確率が極小しかないことを理解し、嘆息する。武人として死ぬ覚悟はできていたが実際にこの期に及んでしまうと色々な考えが頭の中を過った。


(いや、まだ諦めない……ボクはまだ付き合ったこともないんだ……こんなところで……!)


 来た時と同様に空を駆けることは出来そうにない。火を放たれた扉を強行突破して何とか地上に降りれないかとふらつきながら移動する。その直後、再び爆発音がして瓦礫が落ちる音がした。


(……顔に火傷の跡が残っても仁なら何とかしてくれるよね……? 嫌わないでくれるよね? 大丈夫だよね……?)


 比較的火の勢いが弱い場所を突破してみる瑠璃。しかし、その先で愕然とした。階段が崩落しており、下は火の海になっていたのだ。


「う……」


 酷い熱気に顔を顰めながら焼けるような空気を呑み、咳き込みながら瑠璃は再び外に出る。火のついた服を千切り捨て、半裸になりながら瑠璃は火傷の個所を見て何となく感じていた以上の痛みを覚えつつ弱音を吐く。


「痛いよぉ……仁、助けて……」


 その願いが相川に届くことはない。そんな都合がいいことは起こらないということは瑠璃が一番よくわかっていた。

 火は、辺りを食い散らかし新たな獲物を求めて屋上を侵食し始めてくる。瑠璃は覚悟を決めた。


「……ダメだなぁボク……こんなことならうまくいかないかもしれなくてもちゃんと告白しておけばよかったよ……」


 覚悟を決めた瑠璃の脳裏によぎるのはこれまでの人生の後悔。そのほとんどが相川にかかわるものだった。事ここに至って様々な感情が渦巻き、そして溜息をついた。


「ごめんね。最後にボク、我儘なことするよ……」


 そう言って瑠璃が取り出したのは携帯電話だった。彼女は最期に思いの丈をぶつけ、決して結ばれることがないとしても自分の思いだけは知っておいてほしいと相川に連絡を取ることにしたのだ。


 1コール、2コール……相川につながったのは7コール目だった。


『はいもしもし? どうかした?』

「……ごめん。ボク……」

『知ってる。』


 こちら側の状況など全く関係ないようにいつも通りの相川に瑠璃は何ともやりきれない気分になりながら相川と通話を開始する。


「あのさ……その……言いたいことが、そう、ずっと前からずっと、言わなくちゃいけなかったことがあるんだ……」

『何? なんか盗んだ?』


 あまりに自身の置かれた状況と違うのんきな言葉に思わず笑ってしまう瑠璃。しかし、あまり遊んでいる暇はない。瑠璃は初めて相川と会った頃を思い出して泣きそうになりながらも何とか会話を続ける。


「ボク、意気地なしでねぇ……言わないといけないって、ずっとわかってたのに、今になって、どうしようもないことになってから、それでも怖くて言えないことがあるの……あのね、答えは聞かないからね、言うだけ言わせてほしい……」


 直後、瑠璃の背後で爆発音が響く。それとほぼ同時に通話先からも爆発音が響いた。


「……え? 何今の爆発の音……」

『ん? いや、なんか知らんが奏楽が足貸してほしいって言うから帰国直後の疲れた体に鞭打ってお前の家の近くにある高い何とかビルに来てんのよ。そしたらそこが何か爆発してた。』

「……もしかして角谷ビル……?」


 先ほどとは違った意味で心臓がバクバク鳴り始める瑠璃。相川は晴天を見る老人のような態度で半笑いで答えた。


『え? 答えを聞かない質問ってそれ?』

「違うよ! 真面目に答えて! 大事なことなの!」

『燃えてるから見えんな……あ、近くに書いてあった。それっぽい。』


 思わず瑠璃は吹き出してしまった。そしてそれは大笑いにつながり、目じりに浮かんだ涙を払いながら瑠璃は相川に告げる。


「ごめん、中庭がある方って分かる? 大きな銀杏の木がある場所。」

『ん? ちょっと待ってろ……あぁあった。』

「今からボク屋上から身を投げるからあとよろしくね?」

『は? お前今ビルにいんの? ちょっと待て、奏楽が電話来るちょっと前に飛び込んで』


 今度は相川の返事を待たずに飛び降りた。これが答えを聞かない質問かと相川は空を睨みながらそれが来るのを確認し、頭を乱雑に掻いてから地面を蹴り、銀杏の木を足掛かりにビルを駆けあがり、そして感動の対面を果たした。


「えへ……ありがとぉ……」

「お前人の話最後まで聞けやボケ……まぁいい、掴まってろ。舌噛むなよ?」


 抱きかかえられた時点でもう大丈夫と先ほどまでの緊張を放り出してこのまま眠りにつこうかと言う程リラックスしてしまう瑠璃に相川は溜息をつきながら着地に向けて飛び上がるまでの過程と逆の行動をとる。


「瑠璃! 匂いを嗅ぐな! 気が散る!」

「さっきまで焦げ臭かったんだもん……」

「お前放り投げるぞ?」


 相川からすれば色々あって疲れた状態でこの場に来ていきなりの修羅場に余裕がないのだが、瑠璃はもう完全に安心状態でビルの爆発を眺める余裕まである。


「ボクさっき茜音と会ってたんだよ。裏切られて呼吸止まったところに攻撃されて肋骨が折れたの。」

「いいから黙っててくれない? タイミング見てるのわかんないかな?」

「あ、今いいんじゃない? あの枝とか。」


 相川は無言のパフォーマンスでそれに応じる。見事に着陸を決めた後はビルを見上げて相川が呟く。


「奏楽……あいつどうしよ……」

「多分、危なくなったら逃げるから大丈夫だよ。あの人いっつもそうだもん。ボクに押し付けたり翔に押し付けたり……」

「お前のことを心配して助けに行ったんだからもっと言い方あるだろ……」


 瑠璃の言い分に相川は何とも言えない顔になるが、相川個人的にも奏楽のことは割とどうでもいいのでそれ以上の追及はしない。その代わりに瑠璃に聞きたいことを尋ねた。


「で、話途中で切れたけど答えを聞かない質問って何?」

「ふぇっ? あ、えと……」


 瑠璃は困った。生と死の狭間で告白しなかったことを後悔したが、いざ助かってみるとまだこのままの関係を崩すリスクを冒してまでこれ以上を望むのは躊躇われたのだ。これ以上を渇望している瑠璃だが、嫌われることが死より怖いのだ。


「ご、ごめん……助かってホッとしたら忘れた……」

「そうか。その程度のことなら別にいいな。」

「う……別にどうでもいいことじゃなかったんだけど……」

「何か今際の時みたいな口振りだったから何らかの告白かと覚悟してたんだけどね。」


 相川の核心を突く言葉に瑠璃は目を真ん丸に見開いて相川のことを見る。そこには少しの照れも見当たらず、いろいろ考えた瑠璃は何も言えなかった。


「ま、そんなことより怪我を治すかね。病院行く? 俺の家来る?」

「……仁のお家がいい……」


 日頃はドストレートに好き好きアピールをしている瑠璃だが、まじめに告白するとなると毎回失敗してしまう自分に溜息をついてしまう。


(ボクの意気地なし……)


 内心でそう思いつつも瑠璃はまた瑠璃の思う幸せな日常に戻れる喜びで表情には笑みが浮かんでいたのだった。




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