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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
201/254

外道魔王の弟子

「……あれ? あなたは誰ですか?」


 瑠璃が呼び出された場所に到着するとそこにいたのは彼女の妹である茜音ではなく、瑠璃が見知たこともない見目の整った男性だった。彼は瑠璃を前にして酷薄な笑みを浮かべながら口を開く。


「遊神 瑠璃、だな? これは確かに茜音が言うだけあって美人だな……」

「茜音の知り合い? 茜音はどこに行ったの?」


 警戒心を抱きながらも会話を試みる瑠璃。相手から殺気や害意は感じられないが警戒しておくに越したことはないので一定の距離を保つ。


「茜音? 今ちょっと下に行ってるよ。玄関で待ってたけど君がいきなり飛んできたからね。」


 お道化て見せながらビルの下を向く彼につられ、瑠璃も疑問を抱きながら下を向く。


「? 普通じゃっ!」

「っ! 【雷打】!」

「……【金剛小破】!」


 完全な不意打ちに瑠璃は何とか反応し、それに驚きつつも追撃を加える相手。それを見て瑠璃は完全に敵判定を下して迎え撃った。


(っ! 怪我が痛い……)


 拳がぶつかった瞬間に瑠璃の脇腹が痛み、思わず顔をしかめてしまう。それを見た外道魔王はいやらしい笑みを浮かべて瑠璃に聞こえるように呟く。


「そうか、お前が負傷しているという情報は本当だったか。」

「……だから何さ。」

「ふふ。じっくり調理してやる。」


 強がってみせる瑠璃に対して外道魔王の弟子は受けに回る姿勢を見せた。あまり長引かれるとこちらが不利と見た瑠璃が前に出ると彼は一瞬で攻勢に出る。


「っ! そういう人か……」

「驚いた……今ので決めるつもりだったが……」

「それも噓でしょ? 仁で慣れてるよ。」


 相手が虚実使いだと瑠璃は仕切り直して自らのペースを乱さないように戦うことを決める。それを見た外道魔王の弟子は驚きの色に染めていた表情を軽薄な雰囲気に戻した。


「慣れているという割には聞かないということはないみたいだが。どうなんだ?」


 対する瑠璃の返事は無言の拳。唸りをあげて襲い掛かるその一撃は怪我人が放つようなものとは思えず掠めた外道魔王の弟子の服を毟り取る。


「おう怖い怖い。それで怪我のほどはどうかな? ここに便利な相川は来ないから治してもらえんぞ。体を大事にな。」


 便利な相川という発言で返答こそないものの瑠璃の表情が硬くなった。それを見て騙しやすい相手だと外道魔王の弟子は作っていた笑い顔を本物の笑みに変える。そのすぐ傍を瑠璃の拳が通り抜けて遅れて冷汗が流れた。


(怪我をしていても遊神流の娘か……茜音よりも鋭い一撃だ。気を抜いた瞬間に地面に転がっているかもしれんな……)


 自らは冷静に、相手を煽りながら攻撃に無駄な力を籠めさせて大振りにしたところを何とかよけていく外道魔王の弟子。いなしてもダメージを負う重い攻撃に避ける以外の選択肢を奪われながらも着実に相手に疲労を蓄積させていく。


「どうしたどうした? お前の力はその程度か?」


 そんな外道魔王の弟子に対して瑠璃は少々考え事をしながら戦っていた。


(……正直、ここで戦う意味ないよね……いや、仁のことを馬鹿にされてむかつくけど、そういうのは世界中で皆やってることだし本人がムカつく場合は勝手に粛清するし……)


 表面上で怒りつつも茜音がいないことで撤退も視野に入れた戦いを繰り広げていた。


(というより、茜音は何をしてるんだろう……なんかこの人の話しぶりからしてグルになってボクのことを罠にかけようとしてるみたいなんだけど……)


 特に瑠璃が何かした記憶はないのだが、逆恨みならいくらでも買ってきているので攻撃される可能性があることを視野に入れつつ瑠璃は茜音のことを探りながら戦闘を続行する。それに気付く余裕は外道魔王の弟子にはない。


(ん~……強くはないけど巧いなぁ……倒すのは疲れそう。一旦引こうかな……)


 瑠璃が撤退の意思を固め、彼方を見た瞬間外道魔王の弟子はその意図に気付いて自らのポケットに仕込んでいた発信器を操作し、次の策に移る。


「……今、何かした?」

「ふふ、感動のご対面と行こうと思ってね。」

「……へぇ。」


 瑠璃の目が変わり、猛撃の手が緩む。その間に外道魔王の弟子は反撃を入れようとするもさらにカウンターを乗せられて逆に不要なダメージを負ってしまった。


「クック……才が憎いなぁ……俺ではいくら頑張っても埋められない……」

「そんなこと言ってる暇があったら頑張ったら?」


 ビルの屋上へと続く扉の向こうから茜音と思わしき自分に似た氣を感知して瑠璃は撤退を一時的にやめることにする。先ほどまでの猛烈なやり取りとは変わった時間稼ぎとそれに応じるような戦いを経て扉の向こうからようやく待ち人がやってきた。


「……へぇ。ボクが思っていた状況と大分違うみたいだけど?」

「そりゃ、丁重におもてなしをしてあげていたからね。君を呼び出すために説得を重ねていたんだけど土壇場に至って抵抗するからこの様になったのさ。」


 現れたのは猿轡を嚙まされて痛めつけられ、2人の屈強な男に拘束されているように見える茜音の姿だった。瑠璃はその様子を見て先ほどよりも剣呑な雰囲気を漂わせ始める。


「さて、この状況でどうするかは想像がつくだろう? 投降してくれ。」


 勝ち誇るように告げる外道魔王の弟子に対して瑠璃は少し俯いて黙った。強い風が吹く中で茜音の声にならない声が聞こえてくる。そんな中で不意に瑠璃がぶれた。


「がっ!」

「ぁぐっ……」


 それに辛うじて反応したのは茜音と外道魔王の弟子だ。しかし、反応できただけで対応は出来ずに瑠璃の移動先では足元に茜音を連れてきていた屈強な男たちが転がることになる。


「……仁の言葉を借りるならボクより早く動ける奴じゃない奴が拘束して何の意味になるの? ってところかなっ!」


 少しだけ笑みを浮かべながら形勢逆転とばかりに外道魔王の弟子を見ていた瑠璃だが、茜音から目を離した瞬間に腹部に強烈な一撃を食らい、ほぼ反射的にその場から逃れる。そして逃げる前の場所を見るとそこでは拘束されていたはずの茜音が暗い笑みを浮かべながら立っていた。


「油断しましたわね?」

「……なるほど。じゃあ両方とも倒すね?」


 瞬間、瑠璃がまたブレて見え、外道魔王の弟子の腹部に強烈な一撃が加えられる。


「ぉげっ……」

「茜音がどういう状態かわかんなかったから手加減してたけど……はっきり分かったし、気絶させてお父さんのところに持っていくね? 君も気絶させて連れて行くから。」

「あ、あれで手加減……」


 今度こそ演技ではない驚愕を見せる外道魔王の弟子。瑠璃が怪我をしていたという情報が嘘だったとしての予測よりも遥かに強いという事実に彼は思わず笑ってしまった。


「こうなれば、仕方ない……茜音、プランは全部ナシで最終手段だ。外道魔王様によろしく頼む。」

「……もう少し、足掻くという考えはないの?」

「何、才なき身にしては大役を仰せつかった。非日常も味わった。天才の前では俺の存在など意味もないんだ。」

「……情けない。」


 急に始まった劇場を瑠璃は見ながら相川のやり口を思い出し、この間に伸してしまおうと外道魔王の弟子に襲い掛かる。彼はそれを受けながら茜音に告げた。


「行け!」

「情けない男! 後で落ち合うわよ!」


 扉に近づいて液体を放り投げ、火を放つ茜音。瑠璃が驚いた瞬間に外道魔王の弟子は爆弾をその場に叩き付けた。


「さぁ、共に死んでもらうぞ遊神!」


 その最後の叫び声は爆発の音に搔き消されていった。




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