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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
200/254

久し振りの邂逅

 明けましておめでとうございます。200話です。今年もよろしくお願いします。

「あーぅー……仁の家にも入れないし暇ぁ~……」


 自力で本土に帰還した瑠璃は全身の治療がそろそろ終わると来てだらけていた。自宅にいるのは遊神流の門下生たちだけで師範代クラスの面々は瑠璃の妹である茜音をまだ探して世界中を奔走している。


「瑠璃、何だか遊神さんから電話が……」

「なーに?」

「いや、瑠璃は無事かどうかって……」

「今は元気だけど?」

「いや、出てやれよ……」


 暇だが、そういう気分でもなかったのであまり出たくなかった瑠璃だがそう言われては仕方がないので奏楽から電話を受け取って返事をする。その直後、瑠璃は受話器を耳から遠ざけた。


『瑠璃か! お前、相川の屑に何かされてないだろうな!』

「……仁は屑じゃないんだけど。毎回何なの?」

『あいつはロクデナシだろう! いや、何、あやつに瑠璃が殺されたという噂が「ろくでなしでもないんだけど。何なの本当に……! もういい。」』


 一方的に通話を終了して受話器を奏楽に返す瑠璃。ただでさえ反抗期というのに大好きな人を毎回毎回貶されて瑠璃は本気で絶縁を考え始めていた。


「……え、と……大丈夫?」

「イライラする……散歩行って来るから。じゃあね。」


 翔から恐る恐る声をかけられながら瑠璃は携帯などの必需品だけを持って外に出る。特にやることもないので気まぐれにビルの谷間を抜けたりしてコンクリートのジャングルを誰にも見られないように気をつけながら自分の体の治り具合を確かめていると不意に電話が鳴った。


「……ん? 非通知……」


 瑠璃からすれば割とよくある電話であまり出てもいい思い出はない。しかし、極々稀に相川関連の電話がかかって来ることもあるので瑠璃に出ないという選択肢はない。


(まぁ仁本人が掛けて来る時は大体勘で分かるんだけど……これは本人ではない。)


 そうは言っても少し前に記憶はないが相川を追いかけてやらかしたらしいのでその話の可能性もあると電話に出てみる瑠璃。すると聞き慣れた声が聞こえてきた。


『もしもし、お姉ちゃん?』

「……茜音?」


 思わず硬直しながら返す瑠璃。電話先の声は失踪しており、現在遊神流総動員で探している茜音と思わしき人物からだった。瑠璃は適当なビルに着地すると本腰を入れて電話を開始する。


『そうだよ。今ちょっとこの国に戻って来てるんだけど……今から会えないかな?』

「……何でボク? お父さんたちじゃ駄目なの? 探してるよ?」

『あの人は、人の心を理解できないから……』

「なるほど。」


 瑠璃の率直な疑問に酷い返しをしてくる茜音。しかし、瑠璃もそれに納得してしまう辺り、遊神の仁徳に若干の問題が見られるのだろう。


「ボクもさっき意味わかんないこと言われて家を出たところだもん。もう仁の家に逃げちゃおうかなって考えてるよ。」

『……そういえば相川さんとの仲は進んだの? 今は一緒?』

「んーん。仁は今出張中で居ないよ。仲は……前よりはたぶん進んだみたいだけどボクが行ってほしい所まではまだ全然。」

『じゃあ来れないね……あんまり長引いてもいけないし、場所の指定するよ? 私たちが住んでた町の一番大きな建物あるでしょ?』


 このままでは話が脱線するだろうと判断した茜音が瑠璃の会話を強引に引き戻し始める。彼女が指定した建物は恐らく、角谷ビルというこの町ではかなり有名なビルだろう。瑠璃にもピンときてその場所の方をちらりと見る。


『そこに、1時間後に来れる?』

「んー……何か要る物ある?」

『お姉ちゃんが来ればいいよ。出来れば、他の門下生たちも連れて来ないで。』

「あの人たちも空気読めないもんね。」


 結構怪しい台詞を勝手に納得する瑠璃。しかし、瑠璃からすれば自分と相川の中を客観的に見た場合、どう考えても恋愛関係にあることぐらいわかるはずなのに毎回貶してくる辺り鬱陶しい相手だという認識がある。


(……まぁボクのことを心配してくれてるみたいっていうのは分かるんだけどね……だから嫌いじゃないんだけど……)


 傍から見ると相川のことを心配する自分の姿もこんな感じなんだろうかと少し悩むも、相川の場合は実害が出て大怪我をしているので瑠璃のように何もなくて過保護になるのとは違うかなと考える瑠璃。実際には何度も誘拐されかかっているので危険は他人事ではないのだが、電話先の人物は瑠璃が別のことを考えている暇を与えてくれない。


『じゃあ1時間後に、お姉ちゃんだけで来てね?』

「はい、了解。来なかったら5分で帰るからね?」

『わかったよ。じゃあ後で。』


 通話が終了する。瑠璃はすぐにビルに向かうかどうか考えて少し会話の為にお茶菓子と飲み物くらいは買って行った方がいいだろうと判断して別方向に飛んで行った。




 そして通話先では茜音が外道魔王の弟子と共にすでに角谷ビルの屋上にいて会話をしていた。


「どうだった?」

「……相変わらずマイペースな姉でしたよ。失踪した私のことなんて全く気にしていないような……人の心も知らないで。父親似ですね。」


 影のある笑いを浮かべる茜音に外道魔王の弟子も釣られて仄暗い笑みを浮かべる。


「お前こそ実の姉を闇に落とそうというのに楽しそうじゃないか。」

「……私は呪いの産物ですからね。歪んでいて当然ですよ……」


 自嘲する茜音だが、不意に真面目な顔になって外道魔王の弟子に尋ねる。


「それより、私の姉は見ただけで殆どの異性の心を奪うような美女ですが、容赦なく叩きのめして生け捕りに……最悪の場合は殺すということを確実に達成できると確約してもらえますかね?」

「身内贔屓も度が過ぎるんじゃないか? お前よりも美しい女がいるとは思えんが。」

「……私が闇に落ちる原因となるくらいに明るい太陽のような女性ですよ。」


 表情に影を過らて俯く茜音。しかし、それも一瞬のことで再び顔を上げた時には一切の情は見当たらなかった。


「聞き出した情報では相川は戻って来ていないとのこと。最大戦力の遊神やその師範代クラスの面々は私を探しに出掛けた上、特記戦力の相川も不在。更に備考となる遊神流の門下生たちもついて来ないとのことです。」

「舞台が整いすぎて気味が悪い位だな。ビルの仕掛けも万全か?」

「勿論ですとも……」

「じゃあ後は君の姉が来るのを待つだけか……」


 不意に途切れた会話。沈黙が幕を下ろす前に茜音が外道魔王の弟子に告げる。


「誰も連れて来ていなくとも姉は強いです。最悪の場合は外道魔王様のご命令は……」

「ふん。何もせずにおめおめと師匠の下に引き下がれる訳がないだろう? そんなことをすれば殺されてしまう。」


 言葉とは裏腹に外道魔王の弟子は獰猛に笑ってみせる。そこに自分が失敗するかもしれないという不安は一切見当たらない。


「では、御武運を。」

「あぁ。」


 二人は曇天の空を見上げながら瑠璃を待つのだった。




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