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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
195/254

おつかい

「ん? クロエさんからメールだ……」

「裏切り者さんですか。それで兄様、何と言ってるんですか?」

「何か今日中にこっちに来るってさ。用件が書いてないという意味不明さだったが今からなら大丈夫って返しておいた。」


 さっそく桐壷グループに提供した技術の試供品を作っていた相川とそれに付き合っていたアヤメはその休憩時間にクロエからの連絡に気付いた。


「何だろうね? 新市場潰したから報復宣言かな? 叩き潰されそうだなそれ。」

「そうですね経済的には完敗します。仕方ないので武力で解決しましょう。」

「……それはこの国が大変なことになるかなぁ……」


 そんな会話をしながらクロエを待つ二人。程なくして待ち人はやって来た。


「おはようございま……す。」

「わざわざ足を運んでいただいてありがとうございます。どうぞ、お掛け下さい。」


 俯きがちに入って来たクロエはまず相川の方を見ながら挨拶し、次いで何故かフレンチメイド服を着たアヤメを見て挨拶をミスし、そして続く相川の他人行儀な挨拶に再び目を下に向けた。


「……それで本日の御用件は何でしょう?」

「あの、師匠、「クロエさん、ビジネスの最中ですよ? 公私のけじめはつけた方がいいのでは?」」

「……ずっと突っ込まなかったけど、流石に言うわ。そんな格好してるお前が言うの?」


 クロエの言葉を遮ったアヤメに相川が突っ込みを入れる。以前であれば呆れ顔でそこに混じっていたクロエだが、今日は喉をからからにする程に緊張しながら押し黙っているだけだ。


「兄様の言う通り猫耳はつけなかったので大丈夫です。」

「……大丈夫の基準が分からん……まぁいい。お見苦しい所をお見せしました……って、まぁこんな様だから堅苦しいことはなしでいこうか。何の用?」


 ビジネスモードを崩して対個人用にする相川。気楽にする彼に対してクロエは身を強張らせながら今日ここに来た用件について告げた。


「アミノ社と契約見直しをしてほしいです。その際、御社に出向することになりました……」

「ほー! 何て言うか非常に酷いねそれ。通常の従業員の気持ち考えたことあんのかな? あ、契約見直しってことは何らかの提案があるんだろうからそれちょうだい。」

「スパイですか?」


 アヤメの無邪気そうに見えてどこかぞっとする雰囲気を醸し出す発言にクロエは彼女を睨みつけるも彼女は資料を渡された相川の隣で嘲笑を浮かべるだけだ。


(……この子、前の失態分まで私に押し付けようと……!)


 アヤメはクロエが今回の一件で競争から脱落し、離反したことで相川との距離も開き最早用済みと判断したのだろう。相川から会社を引き継いだという建前の下に巧みに責任をクロエに押し付け自らの印象を上げようとしている。


「……うーん。天下のアミノ社にしては何かやたらとこっちに有利な契約をしてくれてるみたいだけど……もう買い取った会社は返さないよ? 承認図サプライヤーばっかり重要視して貸与図サプライヤーは切って海外に行ってた方が悪い。」

「……その辺は交渉次第でこれから変わって行きます。交渉の余地があるというだけで今回は十分な報告になりそうです。」


 一先ずは取り付くことすらできない程に嫌われているわけではないと安堵するクロエ。しかし、先程から遠回しにこちらを責めて来ているように思えるアヤメが気に入らなかった。その視線を敏感に受け取ったのかアヤメは視線を返して尋ねる。


「何ですか?」

「……いえ、先程からまるで私が好き好んで離反したかのような発言を繰り返すので極めて不快だなと思いまして。」

「好き好んででしょう?」


 あっさりと返された言葉にクロエは思わずかっとなって立ち上がった。それを闘氣だけで制されて座ってしまうクロエにアヤメは続ける。


「勝手に自分がそう思い込んで勝手に決めて、勝手に離れて行った。それ以外の何物でもないでしょう? 違うんですか?」

「何も分かってない癖に……誰だってあんな場面で選択肢を思い浮かべられるわけ……!」

「誰もその場で考えろなんて言っていませんが? 連絡すればよかったじゃないですか。勝手な安いプライドで周囲に相談することもなく決めたのはあなたでしょう?」

「アミノ社の次期社長が目の前に来てそんな余裕……」


 言いながらクロエは気付いていた。これは言い逃れに過ぎず、アヤメが言っていることの方が正しいことに。そして、先程自分が思い込んでいたアヤメが自分のことを陥れて自らの地位を上げようとしていたことは自らの後ろめたさが生み出した幻想で、自分と同じように頑張ろうとしていたいわば同士の裏切りに対して失望して責めていたのだと。


 現に目の前の彼女は本当に失望しているように告げる。


「……クロエさんのことを少々買い被っていたようです。あなた馬鹿でしたのね。」

「……メイド服着てる奴に言われたくないと思うなぁ……」


 資料に訂正を入れて新しい案を考え終えた相川は至極冷静に思ったことを告げた。しかし、今回に限ってそれは流される方向らしい。


「いいですか? 問題に直面した人は馬鹿と普通、そして秀才と天才に分けられます。因みに兄様は化物です。」

「まぁ否定はしないな。」

「馬鹿と言うのは問題を聞いただけで無理だと判断してしまう愚か者です。」

「その話今する必要ある? アフター5にカフェにでも行ってやってろよ。」


 この会合でやることは全てもう終わったんだからもういいだろと相川が茶々を入れるがアヤメさんは止まってくれなかった。仕方がないので相川は筋弛緩タイプの毒薬を飲みつつトレーニングに入ることにする。

 その間に話し合っていたのは画用紙に描かれた迷路の話で馬鹿は迷路なんて難しいものは自分にはできないとやる前に投げ出す。普通の人は試行錯誤しながら進み、秀才はある程度ブロックごとに道を見て方向を決める。天才は全体を見て一瞬で答えの道を見つける。そして化物は紙を折りたたんで入り口とゴールを繋げるという例え話だった。


(……話ズレてるよな。まぁ本人たちが満足してるらしいからいいけど。)


 本来の目的を果たした後の予定されていた時間の使い道など好きにして貰って構わないのだが相川は多少疑問を抱く。


「つまり、化物様は一見してもっとも簡単で最も意味のない解決をすぐに見つけるんです。今回のクロエさんが遭遇した件では……兄様どうされます?」


 何の話をしているのか最早原型をとどめていない会話だが、相川は彼女たちの会話は最終地点として解決を求めているのではなく満足を求めているのだと割り切って正直に自分がその場面でやりそうなことを答える。


「……まぁ、誘って来た奴を薬漬けにしてマリオネットにするかな……」

「これが正解です。」

「ダメだろ。」

「師匠……ごめんなさい……私がダメでした……」

「えぇ……」


 相川としては何やってるんだろうこいつらと言う話でクロエに至っては攻め入る口実が出来てグッジョブくらいの感覚だ。仕方ないので感謝の代わりに祝福の言葉をかけることにした。


「まぁ、アミノ社はこの国でも最大規模の会社で世界にも認められてる。こんな会社より数十倍いいところだろうから安心してその社長の息子と結ばれなよ。」


 謝っていたクロエの表情が凍り付き、彼女は無理矢理体を操作して頭を下げる。今度は先程までの空気よりも深刻な重みを伴った謝罪だ。

 しかし、そんな嗚咽混じりの謝罪を前にしても相川は時間がそろそろ過ぎるから出て行ってくれないかな程度の関心しか持たず、そして時間が過ぎてからは一切の関心を見せることもなく退出して行った。




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