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強者目指して一直線  作者: 枯木人
幼児期編
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もう嫌だ

(もう嫌だ。)


 相川は遊神が帰って来てから1週間で遊神邸からの引っ越しを決意した。理由は簡単。相川とここの住人の生活リズムが合わないのだ。


 朝、5時から朝稽古。相川は別に不参加でもいいのだが、五月蠅いし、母親を亡くしてからのショックから未だ立ち直れないとの口実で瑠璃が添い寝をせがむので瑠璃が起きる際に一度は起きてしまう。


 そしてそれから軽くシャワーを浴びて瑠璃と奏楽そらが楽しくやってるのは良い。


 ただ、朝食の時間が彼らに合わせられているので相川は8時ごろに冷めた食事を摂ることになる。その際に瑠璃からその日の食事の感想付きでじっと見られながら美味しいかどうか尋ねられるという余計な作業が入る。


 そこから準備をして幼稚園に行く。


 幼稚園では瑠璃が相川にくっついて何があっても追いかけてくる。


 そこでは基本的に読書をするが、体操の時間と言う名の訓練時間は相川も自分に合ったメニューを熟す。そしてその横で瑠璃のハイレベルな筋トレとそれに付き合って自慢げにこちらを見て来る奏楽そらの視線にイラッとする。

 また、給食の時間には食事中なのに食事が楽しくないと言う理由で遊びという名の妨害をしてくるガキどもにストレスを溜め、昼寝の時間で布団を揃えられて保母たちに笑われながら寝かされて更に苛立ちを募らせる。しかし、寝なければ物理的に寝かされるので大人しく寝る。


 相川に引っ付く瑠璃にくっついて奏楽がやって来続ける幼稚園が終わると遊神の屋敷に戻って瑠璃と奏楽は午後練に励む。これも甲高い声と遊神の大声が五月蠅い。


 特に奏楽が勝ち誇った顔で参加を促してくるのがウザい。遊神は瑠璃と添い寝をしている相川が気に入らないので相川への指導がキツいため絶対にしないのを分かっていてそう言って来るのだ。


 そして夜の8時ごろになると瑠璃たちは眠くなり始めて添い寝をせがみ始める。ここ2.3日では母親の名前を出してごねると相川が折れることを覚えた瑠璃が毎日添い寝をさせてきて遊神の敵意を一身に浴びた。


 相川的にはこれからが自分の活動時間なのだが、瑠璃は一緒に寝ない限り絶対に起きて探し始めるのでまずは寝かせる。

 相川が部屋から出ると瑠璃は何故か起きて泣き始めるので遊神との面倒なやり取りを避けるためにも相川は部屋で静かにギミックを弄ったり調薬したり筋トレをしたりしなければならないのだ。


(もうこんな生活嫌だ。オラさどっかいく。)


 知識は大人だが感情は子ども。相川はすぐに我慢できずに高須を呼んだ。


(そう言えば携帯電話を買わないとな……固定電話は面倒だし。)


 そして、遊神の家の固定電話から電話をしながらそんなことを考える相川だった。






 最近はそこまで忙しくないらしい高須が集団検診帰りに車で迎えに来てくれるとすぐに相川は車内で事情を話す。彼は頷いた。


「おぉ、訳アリの奴らが住む場所ならあるぞ。でも大丈夫か? お前武術からっきしじゃん。」

「薬物と兵器がある。トラップも。」

「ん~……なら大丈夫かな。それなりに治安は悪いけど化物の住処って訳じゃないしな。よし、案内するよ。明日は当直から外れてるし学会の準備もないから明日でいいか?」


 すぐに準備をしてくれるらしい高須に相川は礼を言うと続けて尋ねる。


「幾らぐらいいるかね?」

「そりゃ、どんなのに住みたいかによって変わるな。場所と性能で。」


 そこで相川は自分の希望を伝える。防音性が高くてなるべくこの近くであること、そしてある程度広くて風呂とトイレを完備していることが条件であることを伝えると高須は首を傾げて考えた。


「ん~……この辺りか。まぁこの辺なら俺の紹介で頭金30万と月極だと5万。年間契約で50万くらいが妥当かな……お前はそれなりに金持ってるみたいだから大丈夫だろ。」

「まぁ、治療費も払うって言ってくれたしな。」


 相川の一言に忍び笑いを漏らす高須。そして彼は話題を変えた。


「……ところで、瑠璃ちゃんと最近どうなんだ? ん?」

「そうか、あんたはロリコンだったのか……遊神さんに伝えておこう。」

「何超解釈してんだよ! お前だお前。超お気に入りって感じだっただろ? 絶対美人になるから今の内からキープか? ん?」


 下衆な笑い声を上げる高須に相川も苦笑する。


「いや、ないな。少なくとも俺の性欲も5歳児だ。誰がどうとか一切ない。」

「ん~? でもお前、瑠璃ちゃんにくっつかれると満更でもないだろ?」


 心底楽しそうな口調でそう言うと相川もそれは同意する。


「まぁね。5歳でも俺も男だし。」

「な~のに、出て行くんだな。……ソラ君に瑠璃ちゃん盗られたか?」


 まさに下衆の勘繰りと言うべき高須の言葉に相川は鼻で笑った。


「ハッ。元々瑠璃は俺のじゃねぇし、あいつの外見がどれだけ可愛くても俺は俺の方が可愛いんだよ。」

「可哀想な瑠璃ちゃん。好いた相手はこれですか。」

「大体からしてあいつの俺への依存は母親の代替品としてだろ。愛だの恋だのまだ早過ぎるし、奏楽が受け止める。俺が居なくてもそろそろ大丈夫だと思うよ。そんなことより忘れてた。携帯電話買うから名義人になって。」


 相川は通り過ぎた携帯ショップを見てそう言い高須に苦笑された。


「……口座は作ってやるから自分で払えよ?」

「まぁ当面の資金はあるし大丈夫だろ。」


 相川は自分の状態を考えると寒気がする。


(5歳児の体で、戸籍とかも正式な手続きを踏んだらしいがライフバックは殆どなし。頼れる相手もいない俺に他のガキのお守なんざやってられるか……)


 一歩間違えば破滅の人生だ。他人のことなど気にしていられない。決意を新たにした相川はまず銀行口座を作り、クレジットカードを手にして高須と一緒に携帯電話を手に入れた。



 そしてまずやったことはカーラ・アテル・ルウィンス。相川が以前治療した女性の連絡先を入れることだった。


「さて、これで一応調べものも大量にできるな。高須さんどーも。」

「あいよ。これから午後の仕事だからお前は下宿先に帰すぞ。」

「ういうい。」


 車内ではまたくだらない話をしつつ翌日の予定を立てる。遊神邸に着いて高須と解散した相川は瑠璃と奏楽の稽古を横目で見ながら自室に戻って軽く検索を掛けて行く。


「……通販、便利だな……配達がやたらと早い……」


 ギミックのために様々な物を買い、新居の為に家具などを見繕っていく。そこまで急がずとも注文して早ければ翌日に届くらしいので相川は調べて行く程度で済ませることにした。


「仁くんおかえり~ご飯だよ?」

「また稽古サボり……はぁ。」


 ベッドに転がって調べものをしていると瑠璃と奏楽がノックもせずに部屋の中になだれ込む。人の家なので鍵も出来ないようなこの状況に不満を覚えながらもこの生活ももう終わると考えると許せる気がした。


「君らみたいには出来ないの。飯だね? 行こうか。」

「ご飯だよ~今日はね、お魚のフライだって!」


 上機嫌な瑠璃に連れられて相川は食卓へと移動して行った。




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