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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
175/254

少々移動

「ねぇ、ボクパスポート持ってないよ……?」

「じゃあついて来れないな。どんまい。」


 犬養が運転する車に乗って空港までは同行していた瑠璃だったが、相川が外国に飛ぶとなって問題が発生していた。


「諦めてください。」

「うぅ……まだ約束の時間残ってるのに……」


 犬養の断定に恨めしそうにしつつもある程度諦めの感情が籠った状態を見て相川はこれなら大丈夫かと置いていく方向に舵を切った。


「……まぁ大体、前からこういう時に着いて来たらコンクリ詰めにして海に捨てるって言ってただろ?」

「だからだよ! 居なくなってる時何してるかずっと気になってるんだからね!?」

「まだ公表できる段階じゃないから内緒。」


 そんな言葉で誤魔化されるかと瑠璃は不満に思うがあまり文句を言って困らせると本来の目的である相川の役に立つということから外れてしまうので大人しく見守る。


「よし。まぁ今日のは前から決められてた会談だから一両日中には戻ってくる。じゃあな。」

「はぁい……なるべく早く帰って来てね……?」


 瑠璃に見送られて相川は一般の搭乗口とは異なる場所へ移動していく。それを見送った瑠璃は犬養に連れられて学校に強制送還される。その車内で瑠璃は犬養と話をしていた。


「あの、犬養さん……仁ってどこに行ってるのか、せめてどんな場所か教えてくれませんか……?」

「社長が言うなと仰せなので絶対に言いません。」

「じゃ、じゃあ……せめて危なくないかだけでも……」

「教えません。」


 正しくにべもないと言う態度で答えてくれない犬養に瑠璃は落ち込んで黙り込む。危なくないのであれば簡単に言ってもらえるはずで、言えないからには危険なのではないかという悪い考えばかりが頭を過るが目の前の美女は何も語ってはくれない。

 瑠璃はミラー越しに運転している犬養を見る。そこで目があった。犬養は軽く瑠璃の方を見ていただけの様ですぐに前方に視線を戻したが、前触れもなくその口を開いた。


「……あの。」

「! はい!」

「あなたの自宅前に少々厄介な集団がいるので自宅へ引き渡すのは難しい状態になりました。」


 相川のことについて何か情報をくれるのかと期待していた瑠璃は落胆の表情を見せる。瑠璃にとって厄介な集団など日常茶飯事で割とどうでもいいのだ。


「大丈夫です……」

「いえ、大丈夫ではないのですが……」

「慣れてるので……」

「よく人間不信になりませんね……」


 呆れたような、諦念めいた声音で告げる犬養に瑠璃はごく普通の会話をするトーンで答えた。


「ボクには仁がいるので。」

「……そうですか。」

「はい。」


 ミラー越しに犬養の方から瑠璃のことを見るが冗談を言っている雰囲気ではなさそうだ。それを見て犬養は満足気にその鉄面皮をごくわずかに緩めて瑠璃には聞こえないように口の中で言葉を転がす。


「大丈夫ですね。やはり、私たちは間違えていない……」


 その後、不審者を避けるために瑠璃は犬養に連れられて相川の新しい会社へと移動することになる。その途中でクロエも連れて相川所有のビルへと移動する。


「……会社、初めて来た……」

「私はよく来てお手伝いしてます。」


 ライバル視しあうクロエと瑠璃の二人を見ながら犬養はわざとビルの一角にのみ通してそこだけ相川の所有と見せかけているこれまでの状況を踏襲して黙って瑠璃たちにある程度の耐性がある人物たちだけで固められた一室に通す。


「お部屋一つだけでも広いですね!」

「ははは。そう言ってもらえれば嬉しいね。犬養さん、取り敢えず準備はしておきましたが……」

「ありがとうございます。」


 クロエの担当をしていた部署の幹部候補生が実物の瑠璃を見て理性に大ダメージを負ってすぐに退出する中で犬養は二人に教育を開始する。


「では、二人にはウチが買っているローカルテレビの放送枠の企画を考えてもらいます。」

「え……?」

「代理店にやってもらった方が良いのでは……?」


 当然、大変なことになるのは流石に社会経験などなくても分かるので瑠璃とクロエは尻込みした。そんな二人に対して犬養は簡単に追加説明を行う。

 正直、国内市場はどうでもいいのでそんなに力を入れる気はないこと。そもそも企業向けの商品が多いので大衆向けのテレビCMにお金をかける気はないこと。買ってある枠は全国向けの物ではなくローカルなもので、この辺りに相川が作る物を買える新規の顧客は見込めないので社員のやる気が皆無なこと。最後に本来のCMは別の所で流していることを伝えたところでクロエが訝しげな顔になって質問する。


「あの……それではなぜこんなことを……?」

「詳しくは言えませんが……大きな理由を簡単に言うと、ある程度規模が大きな企業ですので表向きに何をしているかアピールしておいた方がいいんですよ。後は、ここに移転してくる際に色々補助を受けたのでお付き合いです……」

「……何とも言えないんですが……」


 地場産業のメーカー会社がスポンサーを降りていざこざがあったことは伏せて犬養は二人にそう説明した。ちょうどそこに別の人物が現れる。


「えっと……相川さんに呼ばれたんですが……あ、犬養さん。」

「こんにちは星さん。早速で悪いですが、ここにいる二人と一緒にあなたがテレビデビューする番組の企画を作ってください。」

「ふぇ?」


 現れた星と言う少女はこの夏相川の手によってアイドルと言う名の何かにされてしまったアイドル少女だった。そんな彼女は犬養が示す方向に目をやり、デスクに座っているクロエと瑠璃を見て思わず見惚れて黙った。


「? 初めまして星さん。遊神 瑠璃です。今日はよろしくお願いします。」

「面識はないですが、書類上では知っています。クロエです。」

「はっ……初めまして……申し訳ございませんっ! 私は星と申すケチな者でございます! あっ、アイドルを、目指そうと思って頑張ってます! お、御社の社長さんにはよくしてもらいまして……」


 自己紹介を受けた星は平身低頭で跪かんばかりの自己紹介を行った。その一点に瑠璃とクロエは引っ掛かった。


「……仁にお世話になった……?」

「……夏休み、帰って来ませんでしたよね。その時の出来事です。」

「あぁ……ボクらのこと無視してたと思ったらこの子の相手を……」


 常人に聞こえない音量で喋っているのだが、相川の短期特訓のおかげで拾えてしまう会話に星は胃が痛くなる思いだった。


「……変なことしてないよね? ボクたちだってまだなのに……」

「滅相もございませんっ!」

「聞こえてたんですか? ……後、何でそんなに畏まって……」

「これはオーラで自然とそうなっているものです! 写真撮影とかで会ったモデルさんたちにも感じましたが本物はもう、何か目視できそうなほどの……」


 そろそろ不毛な会話は止めて仕事に移って欲しいと既に別の作業をし始めている犬養から告げられると3人はまず予算から聞いてターゲットを絞り始める。


「……メインは何にしましょうか? スポンサーは主にこの会社ですし、私たちに完全に任される位この枠はどうでもいいみたいですから何やってもいいようですが……」

「お二人を出せば視聴率2桁間違いなしですよ!」

「出ません。」

「出たら大変なことになるから……」


 流石にその辺りは自覚している二人。犬養も書類から顔を上げて睨んでいたのでこの案は却下された。その後、8時間かけて作りだしたのは結局無難な地元を星と誰かが巡るロケで、その中で出してしまった社員食堂だった何かは更に混む羽目になって2号店を出すことになったのだった。




 

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