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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
173/254

拐取数突破

「おめでたくもないが……おかえり瑠璃。一日の最高拐取数更新だ……多分、前人未到……」

「今日は多かったねぇ~……朝の走り込みで2回、武術学園の方に行く時に1回、武術学園から御門学校に行くまでに2回、仁のお家に行くまでで1回、さっきクロエちゃんと走り込みの競争に出ても1回だもん。」


 詐欺行為や誘惑を用いた誘拐、そして暴力や脅迫によって身柄を抑える略取の療法を合わせて1日にまさかの7回を叩き出した瑠璃は相川の家のソファに腰を下ろしながら相川を見上げていた。


「じゃあ恒例の叶えられる範囲におけるお願いを叶えることに移るか……今回は何にするんだ?」

「! 今日もあるならね! ボクに甘えて欲しい!」


 10人ほどの下僕及びその付属物を手に入れたこと、ついでに瑠璃の精神状態の安定のために過去行っていたご褒美とも言えない何かを開始する相川。しかし、今回の瑠璃の用件はいつもと異なっていた。


「……瑠璃が、俺にじゃなくて?」

「うん。仁がボクに甘えるの。身の回りのこととか全部ボクに押し付けてね? お仕事も出来る限りやらないでね? ボクが出来る範囲は全部やる。後、疲れたら前にボクが仁にしてたみたいに仁がボクに甘えるの。」

「え、嫌なんだけど……」


 ほぼノータイムで返された答えに瑠璃はある程度予測は出来ていたと気にする素振りも見せずに立ち上がって相川に食い下がった。


「じゃあお世話させてくれるだけでいい!」

「目的は何なの?」


 何でそこで素直に任せるとか言ってくれないの? と瑠璃は複雑な心境になるがそれは抑えて見返りがあった方が相川は好意を受け取ってくれると思考を切り替え、要求を告げる。


「よくできたら褒めて、頭なでなででもいいし、ぎゅーでもいい。」

「……あぁ、そういう……まぁ、ならいいかな……」


 これまでより承認欲求の階層が上がったのかと相川は納得し、その割には対価が幼いままな気がすると思考の隅で思いつつも相川は瑠璃の要求を受け入れることにした。


「……じゃあ今から24時間でいいのか?」

「うん! この時計で丁度20:17分になったところからね!」


 瑠璃が相川の家にある掛け時計を指し示し、相川がそれに釣られて目を逸らしたところで瑠璃は密かに今回の要求の目的を心内で反芻し、野望に燃える。


(いっつも大変そうな仁の役に立って、ボクのこと認めさせるんだ! そしてボクだって一緒に歩いていけるって分からせる!)


 時計の秒針が回り、時刻は瑠璃が示した時間丁度になる。早速瑠璃は何らかのお願い事が来る物と身構えるが、相川の方はそろそろクロエが帰って来る頃だなと時計を見て思うだけで瑠璃に何も言わない。しばしの沈黙の後、期待の眼差しが向いていることが見ずとも分かったので先に言っておく。


「あー……今日はもう特にやることないんだけど……瑠璃は家に帰らないのかな?」

「うん。どうせ家にいるのって奏楽くんと翔くんぐらいだし……」


 そう言えば遊神流の大人たちは今日も元気に瑠璃の妹である茜音の捜索に出向いていたなと思い出した相川はそんなこと瑠璃が相川の家に止まる理由にはならなくないか? と思いもしたが、取り敢えず今日はいいことにして瑠璃にこれから何をしたいか尋ねた。


「……ん、と……」


 小学生の時であれば添い寝と即断していたであろう瑠璃。しかし中学校に入ってからは瑠璃にも多くの情報が入ることで常識の物差しが生まれ、羞恥心が芽生えてきた。その為、何か要求することもなく口ごもり相川のことを上目遣いで見るだけに留まる。そんな折にクロエが帰って来た。


「師匠、家の外で車の衝突事故が……」

「あぁ、瑠璃が略取されそうになって返り討ちにした。」

「……最近は多いですねぇ……」


 常軌を逸した会話だが、この家……もっと言えば相川の周囲では割と普通の会話の為流される。それはそれとして瑠璃と相川の間の微妙な空気を察してクロエは間に割り込んで来た。


「何ですか? 瑠璃はまた何か変なことを言って師匠を困らせてるんですか?」

「まだ何にも言ってないし!」

「今から言うところだったんですか……師匠もあまり瑠璃のことを甘やかしたらダメですよ?」

「そんなに言われる程仁は甘えさせてくれないし!」


 瑠璃の反論に相川は何となくイラッと来た。そんなことを言われると逆張りしたくなってきたので相川はクロエに食って掛かろうとしている瑠璃を後ろから抱きとめて耳元で落ち着かせるように囁く。


「落ち着け。」

「はい……」


 回された相川の手に自らの手を添え、クロエに対する喧嘩腰の態度から一転してしおらしい態度になった瑠璃は相川に連れられるがままにソファに座り直す。そこで相川に膝枕してもらって顔を見上げた。しばらく瑠璃の頭と紙を撫でていた相川だが我に返って瑠璃の頭をソファのクッションに下ろすと腰を浮かして呟く。


「……何かやってて違和感だわ。止めた。」

「えぇ……?」

「あ~何か自分に苛ついて来たわ。鏡割ろうっと。」


 自分の分身が写っている鏡を殴り壊す相川。それを見て溜息をつきながらも掃除を開始しようとするクロエ。その状況下で瑠璃が動いた。


「仁! さっきのお願いクロエちゃんに言って!」

「……あ? あぁ、何か日間拐取記録更新記念で俺の世話を焼きたいそうだ。だからクロエは瑠璃がやるって言ってる場合はちょっと引いておいてくれ。あ、明日はオフにするから給与は発生しないことになる。有休使う?」

「……そういう問題ではないのですが。」


 しかし、既に決まってしまったことらしいのでクロエも強く出ることは出来ない。クロエは瑠璃と違ってそこまで自分に自信もなく、慎重なのだ。瑠璃が手際よく片付けを行って時々相川とクロエの方を見て来るのを若干イラッとしながらも見守るだけにしておき、相川に尋ねる。


「オフと言うことは、明日の護衛についてもですか? 食堂は元々私のシフトの日ではないのでいいんですが……」

「全部オフ。まぁそもそも俺に護衛は要らないんだが……うん。自由にやっていいよ。あ、給料は出さないと言ったが会社都合の休みだから有休使わなくとも手当は出るよ。安心しろ。」

「承知しました。」


 そう言いつつも瑠璃が弱音を吐いた時点で交代するために明日はオフと言う名の業務外業務を行うつもり満々のクロエ。明日の予定の組み直しをしている間に瑠璃は片付けを終えて相川の方に戻って来た。

 その目は何かを期待する眼で相川は無言で瑠璃の頭を撫でてあげた。


(……ズルくないですかね?)


 相川がクロエを無条件で褒めてくれたのは小学校の低学年までだ。ある程度クロエが成長してからはクロエから何か言わない限りはスキンシップなどしてくれない。


(まぁ宣言すればして貰えるんですが……それは建前とか色々あるじゃないですか。もう少し察して欲しいんですが、高望みですかね……?)


 クロエも本来は相川が誰かの手伝いなど必要としていないことを理解している。そして他人の好意が苦手で契約主義の相川にこちらから何も言わずに好意の行動を行い、察せと言うのは単なる押しつけであることも理解していた。

 それでも尚、察して欲しいと願う乙女なクロエはその日は溜息をついて早々に眠りに就くことにしたのだった。




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