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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
172/254

戦場の語らい

『さぁ『劇団・【童夢】』のお通りだぁっ! まずは序章と行こうか! 玩具持ってはしゃいでやがるガキどもに覚めぬ悪夢を魅せつけろ!』

『相川だ! 相川が来たぞ!』

『敵は少数だ! 囲め! 討ち取って手柄とせよ! 故郷に名を刻めぇっ!』


 怒号と悲鳴、そして断末魔の叫びが上がる戦場でオロスアスマンダイドの刀を持った相川が自らの社員と修羅の国から与えられた正規軍を引き連れて敵軍勢に突撃をしていた。当然のことながら、相手は近付かせまいと銃撃によって迎え撃つが相川たちは意に介さずに真っ直ぐ突っ込んでくる。


「んな玩具当たっても意味ねぇに決まってんだろ!」


 信じられないことを言いながら突撃してくる相川たち。そして当たっても当然のように塹壕に乗り込んでくる。


『何で当たらないんだよっ! クソッ! お、おい! 今のは当たっただろ! 嘘だろおい……!』


 充血した眼を潤ませ、鼻にかかったような声を出しながらサブマシンガンを撃ちまくる男。それが最期の言葉となった彼に相川は冥土の土産とばかりに一応答えてやる。


「まぁ、当たってるけどこのスーツの前じゃ意味ないんだよね……そもそも俺にも銃弾は効かないんだが……まぁいいだろ。『魂置いていけぇっ!』」


 すぐそばにいる犬養など、従業員たちにのみ着せているのが最新版のスーツ。現在連れてきている味方の兵の中でも隊長格に当たる特別兵たちに着せているのが少し前のモデルのスーツだ。

 こういうところで自分たちの製品について微妙に宣伝をすることで相川たちにとっては質の悪い、しかし傭兵団としては魅力的な物資が捌かれることになるのだ。


 そして、当然のことながらそれらのスーツに対して相川たちは非常に効率よく破壊できる術を知っている。そのため、寝首を掻かれても安心だ。そんなことを考えながら敵陣に斬り込んでいくと不意に側面からの銃撃が開始され、相川たちを銃弾の雨が襲ってきた。


『馬鹿が! 武に頼み過ぎて突出し過ぎだ! ここで殺してやる!』


 血走った眼で叫ぶのは修羅の国の元幹部である男性。それに着き従う多国籍傭兵団は勝者の余裕を浮かべつつ言葉の代わりに対戦車ライフルを撃ち込む。


『流石の東洋の化物共もこれにかかればハンバーグに早変わりだろ! 軍の払い下げの安もんだがこいつら相手にゃちっと上等過ぎたか? ハッハァッ! ザマァ見やがれ!』


 現代の装甲車相手には通じずに対物ライフルと名を変える羽目になっている対戦車ライフルだが、人間相手にはその威力を遺憾なく発揮しているようで、相川たちが率いる軍団は当初の突撃を止めて反転し、逃走を開始した。


 その混乱を見逃すような軍人はこの場には存在せず、ここで見逃してやろうと思うほど相川のことを憎んでいない人間も修羅の国賊軍にはいなかった。怒号が響き渡る。


『追えぇぇぇっ! 息の根を止めろ! 相川だけは、奴だけは逃がすな!』

『全く、この隊長は現金な……報酬は弾んでくれるんでしょうねぇ?』

『奴の首を持って来れた者には100万$出すぞ!』

『ヒュー♪ こいつは剛毅なことで。』


 勢いよく言い放たれた言葉にトラックに乗り込んですぐさま追いかけ始める傭兵団。その目は既に狩人の目で、口は金の使い道についての会話に、そして指先は銃撃のために使いながら遠ざかっていく相川たちを追いかける。


『作戦通りだったな。全く……何をあそこまでビビッてやがるんだ。カミさんのすっぴん見たわけじゃあるまいし。何が対戦車ミサイルの使用も視野に入れておくだっての。』

『ハッハッハ、仕方ねぇだろ。未開の土地の銃が嫌いな玉無しどもは未だにおまじないを信じてるんだからよ! 今は神様助けてくださいかな?』


 ジェスチャーを交えて修羅の国に来て見た現地の人達の祈りのポーズをマネするノリノリの二人の会話に周囲も爆笑する。緊張がほぐれて……そこで彼らはふと気が付いた。


『……おい、奴ら徒歩で突撃して来たよな……?』

『あぁ、未開の蛮族どもには車はまだ早かったみたいだからな。』

『じゃあ、だ。……俺らは車なのに何でまだ追いついて……』


 瞬間、車の前方から敵兵が明らかに先程にも増して無言で猛進して来た。それはその勢いを殺すことなくそのまま飛び掛かって来てすれ違いざまに車を、そして人間を切り裂いていく。そんな非現実的な光景を見て彼らは乾いた笑いを浮かべる他なかった。


『……作戦通りだったんだろ? ここからは?』

『さぁ? ……神様にお祈りでもするか。』


 そして彼らが乗った車は防弾ガラスを物ともせずに正面から打ち破った矢によって運転手が殺され、コントロールを失って後続の車との激突事故を起こす。

 荷台に乗り込んでいた彼らは放り出された後、味方に轢き殺されるか敵兵に普通に殺され、全員死亡することになってしまう。そんな戦場の一角など見てもいない相川は野釣り伏せを成功させたのを自軍に知らしめ、相手側に不安を与えるために大声を上げた。


『劇団・童夢の本公演第1部はお楽しみいただけたか!? すぐに第2部の始まりだ! そこまで首を長くして待っておく必要はないぞ!? すぐに狩ってやるから洗って待ってろ!』

『撃てぇぇええぇぇっ!』


 悲鳴にも似た号令と共に先陣を切っていた相川に目掛けて大量の銃弾が舞う。避けようのないそれは相川へ多量に命中し、賊軍の戦意を高揚させる。しかしながら、その全てを受けた相川が薄く笑ったところでその戦意は一転してしまった。


『んな玩具が効くかよ……家畜は黙って狩られてろ!』


 相川の怒声の末尾が掻き消えるかのように今度こそ悲鳴と、それと対照的に少量の怒号が上がり敵陣は制御不可能に陥る。それは相川を討ち取ろうと陣の中から出て来ていた後続の軍と衝突し、まさに大混乱を生じさせた。


『だっ、戦え! 逃げるな! 相手の格好の餌食だぞ!』

『誰の許可を得て我が隊に命令を! このような状況でまともに戦えるわけがないだろう!? 一度退いて立て直すのが……』

『逃げるにも組織だって動かなければ!』

『ならお前らの部隊が編成するための時間を稼いでみせろ!』


 指揮が錯綜し、その間にも先陣を切っていた勇猛な戦士たちが狩られていく。相川の軍はその辺の銃撃では傷付かない防具を身に着けており、戦場への恐怖が薄れている上に相手の逃げ惑う状態と戦闘の高揚感が合わさってその士気は天を衝かんばかりだ。


「もう放っておいても勝つかなぁ?」

「最後まで気は抜けませんので……」

「不和の種が花開き過ぎてもう放っておけば勝手に瓦解しそうなんだけどねぇ……まぁ一先ず今回はこの地域の奪還と残党狩りまできちんとやってから黒猫君の所に戻るかね……」


 目ぼしい敵は狩り終え、相手が立て直すことが出来ないようにし終えた相川がこれ以上自分でやると褒賞目当てに戦っている部下たちの士気を下げるだろうと引き、ついて来た犬養に声をかける。辺りで散発的な反撃の声が聞こえるが時期にそれも消えて行くだろう。


「あーケーキ食いたいな。チーズケーキ。」

「……深い意味はないですよね?」

「何言ってんだお前……」


 この戦闘は2時間後に、そして残党狩りが5日。更に2週間かけて付近の地域を平定した相川はまた一段落ついたということで国に帰るのだった。




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