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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
169/254

飛ばし飛ばし

(……母親が宗教狂いで金を使い込み信用問題になって父親は会社を首になり、病気に。その後保険金を下ろすために自殺し、一悶着あったが精神疾患と認定されて全額降りるも身内に騙されて奪われる。ついでに姉が身売りしてまで稼いだ金も母親が使い潰して激甚した姉が更に非合法紛いのことをして稼いだ金で母親を宗教ごと抹殺。しかし、その時の無理がたたって姉も病死。残されたのは復讐は果たしたという自己満足だけで金もないと。)


 相川が目の前の少女から聞いた話は要約すると大体こんな感じだった。そしてこんな話には何となく聞き覚えがある。5年位昔の話だ。


(……アレか? 何とか氏神流の変なのを焼き討ちした時の……)


 相川の脳裏を過ったのは相川たちがまだ小学生だった頃。しかもピカピカの一年生だった頃のことだ。相川が仕事ついでに魔力と霊氣を強奪してこの世界からの脱出方法にアテを付けた出来事。ついでに瑠璃に変なことをさせられた記憶も蘇って来たがそれはなかったことにして目の前の少女を見る。


「あー……まあ大体わかったわ。で、どうすんの? 今日みたいな稼ぎ方はお勧めできんが、俺と同じ学校に通ってるみたいなら授業料馬鹿みてぇにかかるだろ?」

「……おすすめとかじゃなくて、私にはこれしかないのよ……! 他に手があるならやってるわ!」

「いや、他の手ならいくらでもあるだろ。勉強頑張って奨学金貰うとか、遺族者用の奨学金貰うとか、学校のランク下げるとか。」


 因みに相川は学費免除で学校に通っている。そのため、色々な制度に詳しいが彼女はお気に召さないようで首を振った。


「……こんなことやってる時点であたしが馬鹿なのはわかんない?」

「成程、一理あるな。」


 自分で言っておきながらあまり納得して欲しくなかった様子だが相川はこれ以上ない程に納得して頷いていた。二人の間に沈黙が降りる。それを切り拓くかのように突然彼女の電話が鳴った。


「もしもし。あぁ、うん……」


 電話先は彼女にこのバイトを勧めた友人らしい。碌な相手ではなさそうだが、万一の場合に備えて電話で問題が起きていないか確認する予定だったらしく、確認が終わるとすぐに電話が切れる。


「……ごめん。」

「じゃ、相手の底も知れたところで綺麗な金の稼ぎ方について考えようか。」

「底が知れたって……」

「安否確認よりも先に成功確認するような相手だから底が知れたで充分だろ。」


 会話を聞いていた相川の指摘に少女は言葉に詰まる。元々そこまで仲がいい相手とは思っていなかったが窮地に陥った時に声をかけてくれただけで彼女にとっては好意的な友人に見えたのだ。それを切り捨てられ、これまでの覚悟を汚い金で片付けられて少女の腹の中に怒りが溜まり始める。


「何なの……! あたしだって、本当はこんなことしたくなかったわ……!」

「じゃあやんなよ。」

「仕方なかったのよ! お金も、頼れる人も無くて、お姉ちゃんも死んじゃって! あたしにはどうしようもない……! あたしだって、アイドルになりたかった!」

「今の話の流れで一回もアイドルなんて単語出て来てなかったんだが……何なの急に?」


 何やら興奮しているらしい少女は姉との思い出を涙交じりに語り始め、約束を果たすためにあの学校に居続ける決意表明をしてきた。相川にとっては至極どうでもいい。


「でも、あたしの夢よりお姉ちゃんとの約束の方が大事なの……! あたしにはこれしかないんだから……」

「……君って馬鹿だよねぇ……」


 ようやくまとめ終わったかと相川が溜息交じりにそう告げると彼女は相川を睨む一歩手前くらいの表情で見据える。しかし、自分の頭がよくはないことは自覚しているので開き直ってみせる。


「そうですよ。あたしは馬鹿だ。でも……」

「その馬鹿が出した結論にしがみつく理由は何なの? 少なくとも俺はあんたより物を知っていて、色々代替案を出してるが自分は馬鹿だからって受け入れないけど。」


 ド直球を投げ込まれて少女は睨んでいた顔を俯かせる。だからと言って相川が口撃を緩めることはなく続けて言った。


「あんまり興味ないし、言ってて身悶えするからお説教したくないけど一応言っておこう。自分が馬鹿だからって免罪符じゃねぇんだからマズイって分かってるなら何かしなよ。アイドルなりたいならなればいいし。」

「……現実はそんなに甘くないの、あたしが馬鹿でも知ってるし……」

「与えられた考えの中でも自分が出来そうな安易なことしかやらないあんたの考え程甘い物はねぇよ。」

「そんなこと言ったって……」


 うじうじ面倒臭い相手だなぁと思っていた相川だったが、そろそろ帰って寝たいので結論を告げる。


「アイドルか何か知らんがやりたいなら何でもしますって言え。少しだけ手伝ってやる。人を紹介するとかな。頼まれてるしこれくらいはやろう。文句あるならもう知らん。」


 告げられた言葉に少女は黙る。そんな少女に間髪入れずに相川は帰り支度を手早く始めた。その間およそ30秒で滅茶苦茶な速さで動いているのを見て思わず少女が止めに入る程だ。


「ちょ、ちょっと! もう少し考えさせて……」

「知るか。死ね。」

「えぇ!? やろうと思い始めてちょっと悩んでるところだからちょっと待って!」

「うるせぇ黙れ。俺はもう帰る。」

「わかった! やるから!」


 縋りついて来た少女に相川はもの凄く面倒臭そうな視線を向けて見下した。少女は納得いかなさそうに相川のことを見上げる。


「えぇ……あたし、勇気出して言ったんですけど……」

「何でお前が決定権持ってると思ってるんだ? 俺の気分次第だぞ?」

「う……や、やらせてください……お願いします……」


 その言葉を聞いて相川は更に面倒臭そうに溜息をついて彼女に尋ねた。


「取り敢えず目標から訊こうか。どこまで行きたいの? 一発屋でもいいから有名人になってみたいって言う程度なら楽でいいんだけど。」

「す、すうぃーとでびると一緒にライブできるくらい……あ、いや、前座でもいいから……」

「すうぃーとでびるねぇ……さっき着信音にしてたみたいだけど?」


 ここからどうでもいいすうぃーとでびるの話が始まり、相川は辟易する。もう眠くてどうでもいい相川は適当に聞き流しながら目標に向かってやることのコースを尋ねた。


「1ヶ月死ぬ気で頑張ってデビューするか、普通に頑張って1年後にデビューするか。どっちがいい?」

「どっちがいいの?」


 また人の意見を求めて安易な方向に流されていると相川は思ったが、その辺は追々何とかすることにして相川的にどちらがいいか告げることにする。


 アイドルに憧れているだけの少女はどれが普通なのか分からずに相川に答えを求めた彼女。しかし、相川に普通を求めてはいけなかった。「相川の基準」で、死ぬ気で頑張るのと、「相川的に普通に」頑張るだ。相川のことを知っていて相川と一緒に訓練をしたことがある人物なら確実に止めていただろう。

 しかし、この場には少女と相川以外誰もいない。そんな中で相川が時計を確認して欠伸交じりに答えたのは前者だった。


「俺は1ヶ月で済ませて欲しい。」

「じゃあ、それで……」


 その欠伸交じりの返答に安易に流された少女は相川が何かを言わずともこれからはもっと自分で考えて行動しようと思うような目に遭わされることになるのだった。




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