表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
163/254

帰るまで

「……ねぇ、お願いがあるんだけど……」

「何?」


 瑠璃の為にトイレ休憩を取ることにした相川は飲み物を買って小休憩と告げ、敷地内で売られている軽食を摘まみながら時間を過ごしていた。そんな折に瑠璃から相川におねだりが告げられる。


「プリクラ、撮りたいなぁって……」


 瑠璃は相川が写真を嫌っているのを承知の上でなるべく低姿勢でお願いした。対する相川はプリクラのボックスを見てその料金を確認し、苦笑して瑠璃に告げる。


「俺は金を出さないが、どうする?」

「ボクが払うから! お願い!」


 その辺の物と同じくらいの値段だと思ってるんだろうなと思いつつ相川は「じゃあいいよ」と返してその場所に向かった。そこには撮影1500円の文字が。


「証明写真より高いというね。ほらどうする?」

「払うよ? 行こ?」


 てっきり止まるだろうと予想していた相川は瑠璃が平然と財布を取り出すのを見て逆に止まった。お世辞にも瑠璃の家は今お金持ちと言う訳ではなく、土地を維持するために前まで溜めていた資産が融けている状態だ。こんな状態で家政婦を雇っているのだから家計はキツキツで遊神は瑠璃にお小遣いをあげていない。

 そんな状況下での瑠璃の収入は主に相川のアルバイトなどで、それも学校のイベントの参加費ですぐに消えて行く程度しかない。残りは月に1000円程度だ。そんな状態を踏まえた上で相川は再度尋ねる。


「瑠璃、150円じゃないぞ? 1500円。分かる? しかも、俺は払わない。」

「分かるよー?」


 相川の確認にそんなことは必要ないと瑠璃は相川を連れてブースに移動する。瑠璃がお金を入れて専用コインを買い、それを入れるとモニターに動きが出始めた。


「わっ、もう準備しないと!」

「……チッ……言ったものは仕方ないか……」


 値段を見て諦めなかった瑠璃に相川は仕方なく付き合ってポーズなど全てガン無視で撮影を行った。テンションに差があり過ぎる写真になったが、それでも嬉しそうな瑠璃は落書きの場所に移って記念日などと書いていく。その間相川はそんな瑠璃を見ているだけだった。


 そして撮影データが印刷され、瑠璃の携帯に送られたのを確認して瑠璃は相川にお礼を言う。それに対して相川は印刷された写真の方を見て瑠璃に釘を刺しておいた。


「あぁ、まぁやらないとは思うが写真を誰かに見せたりするなよ?」

「クロエちゃんには?」

「誰にも見せるな。」

「はーい……」


 自慢したかった瑠璃だが思い出はキチンと保存できたから当初の目的は達成できたと頷きつつ大事そうにその写真を持って次の場所に移動を開始した。その途中で相川は忘れ物をしていたと瑠璃と離れることになる。


「えへ……撮ってくれた……」


 嫌われているのではないだろうかと危惧していた瑠璃だが、今日の出来事にご満悦の様子で写真を見ながらにこにこして近くの椅子に腰かける。その時だった。不意に瑠璃の警戒範囲の中に見知らぬ奇妙な気配が漂い始め瑠璃は素早く写真を鞄に仕舞い、相川に端的にでもいいので連絡が取れるように携帯を握って臨戦態勢に入り、それを見る。


 そこに居たのは瑠璃がこれまで見たことがないような滅世の美女だった。瑠璃が彼女の母親よりも美人な人を初めて見たと息を呑んで呼吸を忘れて見入っていると彼女は瑠璃の方を見て柔らかな笑みを浮かべて告げた。


「あなたは、運命を信じますか?」


 普通であればこれは関わってはいけないとすぐに身を引く発言だが、普通ではない瑠璃は笑顔で頷きつつ返事を返した。


「はい!」

「……そうですか。手に持っているその写真、大事にするんですよ?」


 言われずとも大事にする予定だったが、一応真面目な顔をされているので頷いておく。それを見届けた冷たさと温かさを兼ね備えた眼鏡の美女は小さく何か呟いて更に続けた。


「……くれぐれも異性交遊には気を付けること。女性に対する不信感を覚えさせてはいけません。一途に想い続け……そして、引くべきところでは引くように心がけてください。では……」


 瑠璃が気付いた時には彼女は瑠璃の目の前から忽然と姿を消していた。それと入れ替わるようにして何やら急いで相川が現れる。瑠璃は相川が来たなら連絡は直接した方が早いと携帯を下ろし、相川に質問を受けた。


「今、神氣が……しかも桁違いの。」

「知らない人が来てたけど消えたよ?」

「……相当な高位神だな……全く感知できなかった。まぁ過ぎたことは仕方ないディナーに行こうか。」


 少量だが漂っていた神氣を吸収できたと満足気な相川は瑠璃を連れて今日最後に向かう場所、レストランに移動を開始したのだった。






「こ、これ、ボク、入って大丈夫なの……?」

「おう。ドレス似合ってるぞ。」

「あ、ありがと……じゃなくて!」


 相川が忘れ物として取って来たのは瑠璃のドレスだった。ゴシックドレスに身を包まれた瑠璃は煌びやかなアクセサリなどがなくても輝いており、流石の相川も少し驚いた。


「じゃ、予約していた通りに。」

「畏まりました。」


 そわそわしている瑠璃を落ち着かせながら席に着かせるとウェイターが水を運んでくる。何やら緊張しているらしい瑠璃は高い料理を食べ過ぎないようにと水を何度も飲んでいた。そんな彼女にサラダが来たところで相川は尋ねる。


「今日は楽しかった?」

「うん!」


 アンケート的に瑠璃の評価を調べて行く相川。瑠璃は瑠璃で相川に尋ねられるたびにそこでの思い出などを思い出してトリップし、喋るために水を更に摂取していく。


「まぁ楽しかったならいいか。」

「どうしたの?」

「何でもない、美味しいか?」

「うん!」


 相川の料理とはまた違ったベクトルの美味しさに表情を緩めつつ瑠璃はご機嫌になる。それも雰囲気はかなりよく、大人のデートと言う文字が瑠璃の頭を過った。

 しかし、特段何か異変が起きずとも出来事には終わりが訪れる。食事を終えた二人は会計に向かい相川が料金を支払う。それを見て瑠璃は目を丸くした。


(基本料金6万円に追加料金が1万円……!?)


 疑問に思ったのは瑠璃だけなのかと相川の方を見る瑠璃、その途中で信じられない文字を見る。瑠璃がその文字に凍り付いている間に彼は予約分とは異なる1万円を普通に支払っていた。


(え、お、お水代……? これ、お水の値段なの……?)


「瑠璃、何してんだ? 行くぞ?」


 追加料金の支払いを終えた相川が扉の前で控えているスタッフに視線をやりつつ瑠璃に声をかける。固まっていては迷惑になると瑠璃は慌てて相川に続いて店から出、しばらくしてから相川に謝る。


「ご、ごめんなさい……お水、たくさん飲んで……タダだと思ってたの……」

「ん? あぁ、そうなの。まぁ色んなシステムがあるからなぁ……今日のはフィーネで割と高い水。次、誰かと来る時は気を付けたらいいんじゃない?」


 料金プランなどの見直しが必要だなと思いながら相川は進んで行く。その後ろで瑠璃は色んな感情を綯い交ぜにしながらも突然現れた美女の言葉を思い出し相川に追いつこうと歩き始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ