デート
「おぉ~……遊園地!」
「まぁ似たようなもんだな。じゃこれ。なくしたら順番待ちしないといけなくなるからな?」
目的地に着いた相川と瑠璃は早速リゾート地の一角であるアトラクションコーナーにやって来ていた。セミオープンと言うことで人は少なく、誰も乗っていない絶叫マシンなどが動くのを関係者たちと一緒に見ているとすぐに門が開いて二人はその中に入る。
「何する!?」
「そうだねぇ……まぁ近くにあるしまずはジェットコースターからかな……」
という訳で最初の行先は決まった。列に並ぶ人間も少なく、全員乗っても普通に余りが出るような人数で出発を開始するそれに乗り込み安全バーではなく手動で下半身を固定する器具を動かして相川は瑠璃の方を見た。
「……ねぇ、こんなゆるゆるで大丈夫なの……?」
「まぁ、設計上は大丈夫だろ。実際に客乗せて走るのはまだ数少ないから知らんが……」
「えっ……」
「そう言えば俺のこの服見たらわかる通り今日は空飛ぶギミック持って来てないから。落ちたら残念だけど死ぬしかないね。」
相川が呑気にそう言って瑠璃を怖がらせていると案内役のキャストが出発の合図を出してコースターは急加速してその場を駆け抜けた。
「ふむ。涼しい。」
「ねぇ! 今それ!?」
「何て言ってるか聞こえんなぁ……景色がいいとか?」
「あ、ホントだ……」
コースターはまだ高所に登っている最中で加速時の速度を保っているが二人の動体視力を以てすれば景色を楽しむことも可能だ。しかし、そろそろ恐怖心を煽るために速度が落ち始める。
「……そう言えば瑠璃ってこういうの乗ったことは?」
「……前に仁の背中に乗って飛んだことなら……」
「よく覚えてるな……いや、そういうのじゃなくて遊園地とか家族で……」
「ないよ? 何で?」
瑠璃の言葉が続く前に落下が始まり浮遊感に襲われる二人だが空気は微妙な物を纏ったままだ。相川は別に自分の娘でもないが流石に現在楽しんでいる様子を見て修行漬けよりかはマシだろうと考えた。
「……髪の毛が大変なことになった。」
「整えてやるよ。」
気合を入れていたセットが乱れたのを思わず呟く瑠璃の頭を相川は一瞬で整え直し、次のアトラクションに向かって移動する。その間、瑠璃がご機嫌な様子を見て相川はどうしたのか尋ねた。
「んー? 昔は髪の毛も仁が結んでくれてたなーって……ちょっと思い出して嬉しくなってたの。」
「ホントどうでもいいことを覚えてるな……」
大事にしている思い出をどうでもいいことと切り捨てられる瑠璃だが、綯い交ぜになった複雑な感情は押し潰して明るく振るまい、これから向かう場所について相川に尋ねる。
「ん? VR体験のコーナー。ギミックが仕込まれてて実際に自分がその世界に紛れ込んだみたいな体験が出来るらしい。」
「そうなんだ! 楽しみだね!」
しかし、このコーナーについては脳の処理と実際の体の動きのズレを普通に把握してしまい、相川たちには全く通じなかった。
「ふむ。まぁ護衛組のトップ層とかには通じないかもな。次行こう。」
「今度は何ー?」
「ゲームセンターみたいな感じの所。やったことは?」
「ないよー!」
そんな会話をしながら少ない来場者たちとは別格の動きでその場所に入る。
入り口付近のクレーンゲームにはこのリゾート地限定のパッケージのお菓子やキャラクターコラボの物が詰め込まれており、少し進んだところではメダルゲーム、プリクラ。更に奥にデータ式のカードゲームのようなものや音ゲーなどが並んでいた。
「ここはアミューズメント系の会社を排除してるからパチンコとかはないんだよね。」
「そーなの? ボクやらないからどっちでもいいけど。」
「まぁ俺もやらないからどうでもいい。」
そんな会話をしながら二人が向かったのはやり方が何となくでも分かる円形に判定のあるタッチ式のリズムゲームだ。相川が現金を入れてチュートリアルをスキップし、さっそく遊び始めてみる。
「あ、すうぃーとでびるの歌が入ってるよ!」
「……知らん。」
「えー? 最近有名だよ? 仁愛エレジー聞いたことない? 再生回数3000万回とかでCDもいっぱい売れてるんだって。ちょっと前の歌だとルナティック・ザインとか!」
「……まぁ瑠璃がそれがいいならそれでいいけど。」
相川の言い方に引っ掛かりを覚える瑠璃は知らないなら仕方ないと二人用の別の歌にしておき、二人はその歌のハードモードからいきなり入った。
「こっからこっちは瑠璃な。」
「流れるタッチは?」
「適宜。」
歌が流れ始める。当然のことながら初心者モードではない状態から始めているので相当なスピードでタイミングの的が動き回った。相川はそれをリズムに合わせてではなく視認によって撃ち落して言った。
「お? タイミングが合わんな……」
「うん。あんまり早いと反応してくれないね。」
一応、合格判定だがperfectではないことを受けて相川が呟くと瑠璃もそれに応じ、タイミングを掴んでいる内にフルコンボで終了した。すると、extremeモードが現れて相川たちに挑戦を促す。
「ほー……やるか。」
「うん。」
スタートを押すと最初の数秒時点で的が画面に敷き詰められていく。しかし二人はその場から手以外を動かすこともなく淡々と作業を行う気分で進めて行った。
「おー……中々早かったわ。」
「そーだねー……あ、フルコンボだって。」
1167コンボでフルコンボらしい。筐体に書いてあるモードの最高峰が終わったと相川と瑠璃が結果発表を見ていると急にその筐体が光り、効果音が鳴り響くとwreckモードというおどろおどろしい文字が現れた。それを見て瑠璃が相川に尋ねる。
「wreckってなーに?」
「……普通は事故車とか難破船のことを指すが……今回の意味合いとしては廃人とか挫折とかの方が良い意味になりそうだな。」
当然やらない手はないのでスタートを押す。その時点で画面に特殊効果の的が立ち並んでおり、相川と瑠璃は少しだけ氣を解放した。
「ほうほう、これはヤバいな。人間のやるもんじゃねぇ。」
「これよく壊れないね。静止画の見極めでやるゲームなんて初めて見た。って、あ……」
「瑠璃!? 何で手をひっこめ……あぁもう!」
瑠璃が急に手を引いてまじまじと自分の手を見始めたのを見て相川が高速移動を開始した。何急にナルシスト発症してるんだと思いながら同時押しに足りない部分を膝蹴りで補い相川と画面の間にいる瑠璃との距離を縮めてボタンを押し続ける。
対する瑠璃は流れながら押すタッチで相川の手が自分の手に重なった時に感じたことを受けて戸惑っている。
(自分から触るのと違う……)
今更何を言っているのかと思うセリフだが現在2分で1630コンボを達成している相川は残り2分程は忙しいので一切ノータッチだ。今まで感じていたかもしれないが改めて感じ、認識した今回の触れ合いに瑠璃が固まってる間に相川は4分37秒で4275コンボを達成し、オンラインで最高値を叩き出した。
「はぁ……平均1秒間に15連打か? まぁこれなら人間でも出来なくは……ない、かもな。押すだけなら。」
流石に終わると息をつくことになる相川。彼が筐体から離れると瑠璃もそれに従ってそのブースから降り、相川の手をじっと見る。
「どうした?」
「…………ボク……」
「何?」
「……頑張るね!」
何のことか相川には分からなかったがいつか分からせてあげると瑠璃は心に決めてデートを続行するのだった。