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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
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リゾート地へ

「……待って。」


 林間学校が終わってしばらくの時間が経ち、仕方なく遊神邸に戻っていた瑠璃は約束の日が近付いて予約のメールが転送されて来たのを見てそれを思い出し、そして気付いて呟いた。


「デートだよ、これ……」


 あの時は林間学校のことなどで頭がいっぱいだったが、冷静に考えてみると遊神 瑠璃史上初めてかもしれないきちんとした一日分の相川からのお誘いのデートだ。


「ど、どうしよう……改めて考えると何を着たら……どうしよ! あ、あぅ……初デートだよ……! きっ、気合い入れないと! でも、どうしよ……」


 慌てふためく瑠璃。この後は自分を落ち着かせるために自らに待ったをかけ、そして現状把握のために転送されたメールを見て再び慌てるというループを繰り返すのだが、予定日の1週間前だというのにデートだと気付いてからこのセットに至るまでの時点で既に3時間が経過していた。

 誰かいればそろそろ落ち着けと突っ込みを入れるところだが、年頃の娘の自宅に異性しかいない状態では誰かが急に入って来るということもない。

 更に何セットか続けた瑠璃はいい加減に落ち着いて何とか思考を鎮静化させるために思考をデートではなく相川は遊びに誘ってきたという状態に持ち込む。


「……でも、異性が二人きりでお出掛けで遊ぶって、デートだよ!」


 再び落ち着くまでしばらくの時を要した瑠璃。相川の浮気防止のための映像で大分ピュア仕立てになっている瑠璃さんは追い詰められたらイケイケだが迫られると絹豆腐より脆いメンタルの持ち主だった。


「……いけない。あんまり悩み過ぎて寝不足になったら健康に良くない。今日は気絶したまま寝よう……」


 そろそろ夜遅くになろうとしていたので瑠璃は自分で意識を絶って眠りに就くのだった。


 ところ変わって相川の家。予約のチケットが机の上に無造作に置かれているのを発見したクロエは印字されている名前を見て相川に問いかけていた。


「……どういうことでしょうか。何故、師匠は瑠璃とだけ! デートに?」

「……あぁ、デートか。そう取れなくもないかなぁ……いや、無理あんだろ。」


 最初デートとDeadを少々聞き間違えて言葉を受け取り直し、そして反応したはいいモノのどう考えても不釣り合いで関係的にもそうではないと相川は言っていてノリ突っ込みを行った。対するクロエは瑠璃の心情など忌々しい位に知っているので相川の様子に僅かな苛立ちを見せる。


「師匠、あなた他人には貞操観念を求める割に自分には甘すぎませんか?」

「俺まず無償で他人に何かを求めることをしないんだが……俺がいつだれに貞操観念を求めたよ。」

「……そこはしてください。時と場合によってはもの凄く傷つくことですから。いいですね?」


 肯定とも否定とも取れない気のない返事を返す相川の言い分を無視して話がずれているとクロエは軌道修正を行う。


「それで、何故瑠璃とデートに行くことになったんですか?」

「デートで押し通すつもりか……まぁ俺も瑠璃もそうは思ってないからどうでもいいけど。で、理由? 今度若年層に向けてイベントを行う予定があってな。その為のサンプルとして……」

「何で私を誘わないんですか!」


 皆まで言わせずにクロエが遮るが相川は特に気にした様子もなく返す。


「クロエはメール来た時いなかったしなぁ……」

「じゃあ何で瑠璃を誘ったんですか!」

「メール来た時に一番近くにいて、話の流れで遊ぶとかいうのが出たから。」


 適当にも程があるとクロエは頭を抱えたい気分になった。本当に気苦労が絶えないと思いつつも逸れもまたこの人を選んだ定めとばかりに諦めて最後に勝てばいいと息をついて思考を切り替える。


「……では、今度は私のこともどこかに誘ってください。」

「そうだなぁ……今来てるメールだと渡世用スーツの耐久性テストか……深海旅行について来る?」

「それは結構です。」


 もっと楽しい所に連れて行ってほしいとクロエは再び大きなため息をつくのだった。










 そして迎えた当日。瑠璃は少々派手かな、悪目立ちするかもなと思いながらも淡い色立ちのワンピースを着てレースの付いた上着を羽織り、首下には色の強めなリボン。そして肩からポーチを下げて待ち合わせ場所に3時間早く着いた。


「……流石に早過ぎたかな……? まだ日も登りきってないし……」


 待ち合わせ時刻は9時で、現在時刻は6時だ。どう考えても早過ぎる。しかし、相川はキャンセルの連絡は入れて来なかったので今日は確実に来ると分かっているので待つのも苦ではない。

 朝から行き交う人々の何名かに声をかけられたり何度か誘拐されそうになったり知人を装われて休憩に持ち込まれようとしたりして2時間が経過。日も昇って気温が結構上がり始めて来た。


「えへへ、後30分……!? 気配がする!」


 何をしているんだろうと瑠璃のことを見ていた人だかりが瑠璃の動きによって道を譲る。スマートフォン片手に収納しながらやってきた相川は腕時計を確認して瑠璃を見て泊まった。


「……まだ30分前何だが……待たせたみたいだな……」

「今来たところだよ!」


 相川には瑠璃の動向が大体伝わって来ているのでそれは嘘だとすぐに分かったがそこに拘ってもこれからの時間に対しては何の意味もないので待たせた分だけ楽しませることにして移動を開始する。

 対する瑠璃は相川がいつものギミックを仕込みまくっている服ではなく、珍しいことに私服だったので驚いて上から下までじろじろ眺めていた。


「どうした?」

「私服……持ってたんだね。格好いいよ!」

「あぁ、そういうことか……瑠璃の方が可愛いと思うよ。」

「!?」


 服の話題に触れられたことで相川は遠回しに褒めろと言われたと曲解し、瑠璃はこれまた珍しく直接催促もなしに自分のことについて褒められたので驚いて身を竦ませた。


(こ、これ、やっぱり、でっデートなの……? や、やった! 勝った!)


 スキップしたい気分になりながら相川について行く瑠璃。前を行く相川は瑠璃を遠巻きにしてついて来る人々の気配を把握しながら害意があるかどうかで識別しつつこれからの移動時間を考えると到着しても現地のショッピングモールなどは開いていないだろうなと思案した。


「んー……じゃあ今日の予定でも喋るか……?」

「だっ、大丈夫だよ! お楽しみにするから! 仁が好きな所にボクを連れてって!」

「……ふむ。」


 こいつそんなこと誰にでも言ってたら今反応した周囲の輩みたいによからぬところにも連れて行かれそうだなと思いながら相川は要注意発言マニュアルでも作って後で見せようかと同でもいいことを考え、なるべく一ヶ所に留まらないようにうろつきながら話し始めた。


「瑠璃は最近何してた?」

「ボク? ずっとお稽古。それと今日お出掛けするためのお洋服買いに行ったりしたかなぁ……仁は?」

「主に仕事だな。」


 遠回しにこの日のために出費したんだからその分は楽しませろよという瑠璃が全く言っていないことを勝手に捏造して察した相川は待機中に瑠璃が集めたストーカー予備軍を撒きながら時に排除して目的地に向かって移動を開始するのだった。





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