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強者目指して一直線  作者: 枯木人
中学校編
157/254

鈴蘭の誓

「……はぁっ……はぁっ……」

「クロエちゃん! 後ろ!」

「~っ! はぁっ!」


 鈴蘭祭開始から2時間。瑠璃とクロエはずっと戦闘を継続させられ疲労が蓄積し始めていた。瑠璃にはまだ余力がありそうだが、クロエは表情には意地でも出さないものの流石に辛そうになり始めている。


「瑠璃、クロエ先輩でしょう……?」

「ボクより強くなるか、仁から手を引くならそう呼ぶけど。」

「冗談でしょう!」


 一笑に付すクロエだが瑠璃は相手の顎関節を破壊しながらこの後を考える。このままではじり貧に陥ってしまうのは避けられない。負けることは恐らくないが、時間切れになってしまう。


「……体力が残ってる間にボクが道を作るからその後ろを。」


 瑠璃がクロエにそう提案し返事を待つ。だがクロエからの返事はしばらく帰って来なかった。それを訝しんだ瑠璃はクロエの様子を窺い……その奥に居る絶世の美男子を視認し苦い顔をする。


「……来ちゃったよ……キツイなぁ……」

「瑠璃、何とか彼を味方にできないですか? 色仕掛けとかで……」

「……イヤ。」


 できないではなく、嫌。少し前の相川の瑠璃への情操教育のお蔭で瑠璃の思考はかなりセンシティブに変化しており、浮気と取られる行為は一切取りたくなくなっていた。クロエも相川と瑠璃の距離感については少し思うところがあったのでそれ以上は追及せずになるべく話題を逸らして突破に意識を集中させることにして……


「瑠璃っ! 場所を!」

「……うっ、来ちゃったの……? キツいなぁ……」


 奏楽の突撃モーションを見てその考えを翻しすぐに場所を入れ替えた。奏楽に対峙する瑠璃。スイッチした場所ではすぐにクロエと別の生徒が戦闘に入るが、瑠璃と奏楽は戦いを始めない。

 周囲も何かしらの空気を読んでか二人から距離を置いて円形になりクロエと戦っていた少年が倒されたことでその場の戦闘は一時的ながら納まった。そんな中で奏楽は瑠璃の前に跪いて臣下の礼を取る。


「瑠璃、俺の武をお前に捧げる「要んない。」……」


 気まずい雰囲気が流れ始めた。ここから続く言葉を遮られた奏楽がショートを起こしている間に瑠璃は不思議そうに、そして窘めるように奏楽に告げる。


「あのねぇ……ボクに武を捧げるってボクのこと守ってくれるってことだよね?」

「え、あぁ! そうだ!」


 あまりにバッサリ切られて思考が一時的に遮断されていた奏楽が再起動して瑠璃に返事をするがそれ以上述べさせずに瑠璃が続ける。


「ボクたちは護衛係としてこの学校に来てるのに経営の人じゃなくて護衛の人護衛してどうするのさ。ボディーガードに求められるのは敵を倒すことじゃなくて要人を守ることだよ? ボクを守ってその所為で守るべき人を守れなかったらどうする気?」


 瑠璃が語ったのはド正論だった。流石にそのことは奏楽もある程度考えてはいたが、改めて噛んで含めるように諭されると恥ずかしくなって顔を赤くし誤魔化すように瑠璃に聞かせる。


「わ、わかってるさそれくらい……試しただけで……本当は俺もお前と一緒の奴の護衛に「ダメ。」……何でだよ!」


 次善策を打とうとした奏楽に瑠璃は不許可を述べる。周囲が何となく奏楽のことを残念そうな目で見る中、瑠璃は幼子に教えるようにゆっくり喋る。


「言葉は動きに繋がる。さっき言ってたことが現実に起きたらボクどうするのさ。」

「お、俺と瑠璃が居れば誰だって……」

「相手がお父さんとか権正先生でも逃げられると思う?」

「ああいう人は普通いないし……」

「普通いないって……お父さんも権正さんも身の回りに居た人だよね? 小学校卒業する時にさ、天狗にならないように言われたのもう忘れちゃったの? お父さんが旅から戻って来たらもっと厳しい稽古してもらえるように言っとく?」


 瑠璃の追撃に奏楽はここまで来るために頑張って色々考えていたことが全て台無しにされ、もうこうなれば鈴蘭祭の掟に則って力で押さえつけるかどうか真剣に悩むことになった。


「あー……奏楽、もうそろそろ俺らの包囲封殺陣再開していい……?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ……」

「つーかさ、リーダー……奏楽は遊神さんのこと助けようとするなら今の内に倒しておいた方が良いんじゃない……?」


 奏楽が瑠璃に仕えると言う話をしていたことを受けて同盟を結ばれるのを危惧した包囲網を指揮していた少女からの提案に奏楽に声をかけた少年は少し考えて頷く。


「……それもそうだな……不確定要素は弱っている内に叩きのめしておくべきか……?」

「ま、待て! 瑠璃から目を離したら……」


 包囲網の意識がリーダーの判断に移った隙。その瞬間を見逃す瑠璃でもクロエでもない。二人は気配を消して一気に駆け抜け、包囲網を脱すことに成功した。





「すんっ……こっち。」

「……瑠璃は犬か何かなんですか……?」

「いろいろ勉強したけどそう言うのもいいかなって思うようになってきてるのは否めない。」


 瑠璃が変な方向に調教されているのはさておき、クロエと瑠璃は二人を目撃した者を全て昏倒させて図書室へとやって来た。そこには桐壷グループの傘下に入ろうとしていた輩たちが倒れており、瑠璃とクロエはその残党を処理しながら相川のことを探す。


「……ここで匂いが濃くなってる……」


 瑠璃の呟きにカメラ及び集音器を仕掛けていた相川は何だこいつこえぇなと軽く戦慄しつつもいつまで経っても退かないのを見て内側から二人を招き入れることにした。途端に二人は今までの労が報われたかのような表情をして相川に微笑みかける。


「やっと見つけたよぉ~……何で探しに来てくれなかったの? 鈴蘭祭で護衛付かなかったら大変だって先生言ってたのに。」

「……逆に訊くが、俺に護衛がいると思うのか?」

「盾はいるでしょ!」

「え、何こいつ……」


 瑠璃の発言とクロエへの視線に相川は軽く引いた。少なくとも相川は瑠璃のことは時々壊れるが普段は割といい子だと言う目で見ていたのだがどうやら認識を変えざるを得ないようだ。


「……とにかく、ボクの鈴蘭ブローチ、金ぴかのだからね。貰って。」

「くっ……私のは銀色ですが……」

「モテモテですわね……」

「いや、こいつら多分俺の家に入り浸る口実が欲しいだけだろ……」


 それもあるので強く否定できなかった二人は目を逸らし沈黙を持って雄弁に事実を語ってしまい相川と真愛に呆れられる。


「はぁ……どうしよっかなぁ……正直間に合ってると言うか……」

「まぁ貰っておいても損はないんじゃないですか? 学園にいる間は給与等の支払い義務もないですし、丁度いいのではないかと思いますが。」

「いや、雇うとなると仕事にも連れて行かないと単位が……」


 護衛の単位として主となった経営者の仕事を手伝うと言うことが要件として入っているのだが、相川の行っている仕事は国家規模の極秘プロジェクトで学園にも理事会に強い圧力が掛けられて緘口令が敷かれている物だ。一般の教員や生徒たちは全く知らない。

 そう考えて無理だと思っていたがそう言えば最近、従業員たちがもの凄く要らない仕事を生み出して新事業へと進出していたことを思い出し、相川はその人手にタダで人間を使えると思考を切り替えた。


「ふむ、まぁいいか。じゃあよろしく。」

「! やったぁ!」

「これで堂々と表札に名前を……」

「それはおかしい。」


 いろいろと問題は無きにしも非ずだが、一先ず相川たちごく一部の範囲内においてはこの年の鈴蘭祭についてはおおむね問題なく終えることが出来た。




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