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強者目指して一直線  作者: 枯木人
幼児期編
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戻って来る日

「さて、瑠璃じゃあね。」

「……うー……やぁ……」


 遊神たちの退院の日が来た。遊神たちから快く思われていない相川はこの家に居られなくなるので瑠璃を置いて病院の方に引っ越しをすることになる。


 しかし、瑠璃の方は嫌がっていた。いつも武術の時しか話をほとんどしない上に半端に身に着けると危険だからという理由で厳しい父親より母親が死んでからずっと一緒に居てくれた相川の方が瑠璃としては良いのだ。


「と、言われてもね……無理だし。助けたのに金も払わんような屑は嫌いなんだよね……おっと、素直に言い過ぎた。」

「瑠璃が、瑠璃が頑張ってママのしゅじゅちゅのお金払う!」

「……いや、責任能力的に問題あるし……俺にも化物としての倫理観くらいはあるんだぞ……?」


 手術も噛んだような幼子から大金をせしめようとは思わない。化物には化物なりの倫理があるのだ。


「いい加減にしないと嫌なのが来るから離せ。」

「放したら仁くんどっか行っちゃう……」

「幼稚園で会うだろうが……」

「足りない……お家帰っても遊ぶ……」


 しょんぼりする瑠璃を見て相川の心が若干揺れる。だが、自分の身の方が可愛いので振り払う。そしてすぐさま距離を取った。


「絡みつく手は食わない……」


 先程までいた場所に瑠璃が捕獲体勢で動いているのを少し離れて相川は対峙する。瑠璃は膨れっ面になった。


「うー! ケチ!」

「お前の父親に言え。サラバだ。」


 遊神が退院の為に乗ってくる車をそのまま借りて病院に行く手筈になっている相川は裏口へと移動する。瑠璃はそれにバレないように付いて行く。


「瑠璃、帰ったぞ……」

「よし、来たな……」


 相川は入れ違いになるように裏口から出ようとして瑠璃に止められた。


「まだ、毛利さんたちが乗ってるよ。」

「……瑠璃、何でここにいる……? お前、あの筋肉ダルマを迎えに行かないと面倒なことになるんだが……」

「お父さんね……多分、瑠璃のこと嫌いなんだよ。だから瑠璃仁くんについていくことにしたの。」

「……いや、アレは多分溺愛してると思う……ただ付き合い方が分からないだけだと思うぞ……」


 病室で瑠璃を誑かす男か!? と5歳児に対して取る態度ではない対応で瑠璃の友達がいない理由の一端を垣間見た相川はそう言って瑠璃を置いて行こうとするが瑠璃は嫌がる。


「瑠璃-?」

「探してる。行け。」

「皆、瑠璃を探しに道場の方に行ってるよ。今が車に乗るチャンスだよ。」

「……それには乗るけど。」


 相川は高須の車に乗り込んだ。それに瑠璃は付いて来る。


「瑠璃……お前さぁ……」

「やぁー……仁くんの方が優しいもん……ご飯も美味しいし……」


 相川の言うことを聞かない瑠璃。車に乗り込まれた高須の方も困っているようだ。それに相川が説得を手伝うように言う。


「高須さん、瑠璃を納得させるの手伝ってください。」

「ハハハ。色男はつらいねぇ……」

「……じゃないと高須さんが瑠璃のことを誑かして病院に連れて行こうとしていると遊神さんに証言させていただきます。」

「瑠璃ちゃん、降りようか。」


 笑っていた高須は真顔になって瑠璃にそう告げる。瑠璃は涙目だった。


「仁くん、瑠璃のこと嫌いなの?」

「……お前の父親が嫌い。それと、麻生田って奴が嫌い。瑠璃は普通。」

「……お父さんが……うぅ~!」


 そうこうしていると遊神がこちらにやって来た。


「高須さん。瑠璃を見てませんかね? 家の中にいないんですが……」

「瑠璃ちゃんなら遊神さんを驚かせようとして裏門にいたんですが出てくるタイミングを間違えたので今車の中で逆ドッキリを……」


 相川を売れば自分にも被害が及びかねないと判断した高須は遊神に処理させる手で何とかこの場を凌ぐことに成功する。それを聞いて遊神は微妙な顔をして顔を顰める。


 それだけで気の弱い人間だと何でも言うことを聞いてしまいそうな顔だった。


「……む、それを言ってしまうと……驚くのが……」

「イヤ! 瑠璃、お父さんだけと一緒に暮らすのヤダ!」


 遊神が近くに来てこちらの存在に気付いたことから瑠璃が抵抗し、その声を聞いた遊神の顔が悲嘆に染まる。高須は話は後にして車を発進させて逃げるべきかどうか悩んだ。相川もいつでも逃げ出せるようにギミックを一部起動しておく。


 しかし、両者の予想は外れて遊神は悲しそうな顔をして瑠璃に告げる。


「瑠璃、でもな……それはどうしようもないんだ……」


 あまりに落胆している遊神を見て瑠璃も悪いことをしたと思って困り顔になり少しだけ態度を軟化させた。


「ご、ごめんね……?」

「い、いや、確かにお父さんは瑠璃に厳しく接してきたからな……」


 相川は煽りたくなったが止めておく。その代わり高須にアイコンタクトを送りながら口を開く。


「一回じっくりと親子二人きりで話すべきだと思いませんか?」


 その意味を汲み取った高須も追撃のように言った。


「ですね、私もそう思います。瑠璃ちゃん、一回降りて遊神さんと道場で二人きりで、じっくりと話し合いをしてみるべきだよ。」

「……えぇ……」

「瑠璃、遊神さんもな。瑠璃のことを嫌いで厳しくしてたんじゃないと思うぞ。武芸は中途半端に身に着けると危険だから私情を挟まないようにしてたとか教育的に父と母で役割分担してたとか、色々あるかもしれない。」


 相川の言葉を受けて瑠璃は遊神の方を見上げた。彼は頷いている。そんな遊神を見て瑠璃も決めたようだ。


「……瑠璃、お話してみる……怖いけど……仁くんも来て……」

「じゃあ高須さんにも来てもらおうか。」


 瑠璃に手を握られた相川は間髪入れずに地獄へ高須も招待した。しかし、その言葉は瑠璃によって断ち切られる。


「ううん。仁くんだけでいい。高須さんにはここで待っててもらお?」


 その言葉を聞いた高須の露骨に安堵した顔がムカつくので何かあればこいつはロリか人妻だけに発情する色情狂で手術中に興奮していたなどとあることないこと言いふらしてやると決めつつ相川も車を降りる。


 その繋がれている手を鬼のような視線が射竦めたが相川が掴んでいるわけではないので連行される捕虜のように無抵抗で相川は道場へと歩いて行く。


 そして、正座する親子の隣に相川は座りたくないが座り、嫌そうな顔をして瑠璃の隣で手を握られた。


「……その、何と言うか……瑠璃、これから二人で生きて行かないといけないのは分かるな……?」

「……仁くんは?」

「こいつ……その子は、部外者だから……」


 瑠璃は相川の手を強く握った。相川は結構痛い。


「でも、仁くん、瑠璃が本当に困った時、いっつも助けてくれたもん……」

「これからはお父さんが何でもする。」

「じゃあ、仁くん、一緒に住んでも怒らないの?」

「……何でもするとは言ったが……それは……」

「何でもじゃないじゃん!」


 5歳児に論破される大人を見ながら相川はどうした物かと考える。ここで瑠璃を突き放すのは簡単だが、それで遊神がどう出るか分からないのでそれは得策ではない。


(……やはりここは成り行き任せにするしかないな……)


 相川は沈黙を保ちつついつでも逃げられるようにしておきながら突き抜けるような青空を眺めた。


(あぁ、いい天気だなぁ……)




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