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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
148/254

クリスマスの日に

『ねー、今日のクリスマスパーティ来てくれないのー?』

「……喧嘩売ってんのか?」


 瑠璃の病気騒動も落ち着き、相川が修羅の国で部隊編成を行うのに勤しんでいる頃。世間ではクリスマスと呼ばれる日の前日になっていた。今年はどうやらホワイトクリスマスになるようだが、相川がいる場所は関係ない。寧ろ、暑い。


『ボク頑張ってお菓子作ったんだよ? 仁くんみたいに上手には出来なかったけど、美味しいよ?』

「確かに年末年始には戻ることは決まってたが……そのために今忙しいのは想像つかないか?」

『でも……』


 何でこいつの面倒を俺がみないといけないのだろうかと思いつつ、相川は娘が楽しみにしていたクリスマスの日に急に仕事が入ってしまった父親の役のような会話を強いられる。尤も、相川は父でもなければ親でもないのだが。


「何とか早く終わるようにやってみるがあまり期待しないでくれ。」

『う~……今までそう言って一回も来てくれてないじゃん……』

「時々は行ったはず。あんまり覚えてないけど。大体、間に合わない時は埋め合わせしたはずだろ?」

『そう言う問題じゃないもん……その時に居てくれないとヤダ。』


 最初から無理っつってんだから諦めろボケと思いつつ相川は溜息をつく。


「じゃあもう俺のこと諦めた方が早『イヤ。絶対イヤ。』……面会の時間だ。切るぞ。」

『待ってるからね! ね!』


 まだ何か言っていたが相川は電話を切り、修羅の国の国家元首であるラグロリジェレクトとの面談の為に移動を開始する。そうは言っても同じ敷地内に既にいるので移動時間はごくわずかだ。


 部屋に入るとラグロリジェレクト国家元首は立ち上がって笑顔で相川のことを迎え入れる。


『よく来てくれた東の友よ。』

『お久し振りですね。相変わらずお元気そうで。』


 軽い挨拶を行ってから二人は用意されている席に座る。今回の議題はこれからのインフラ整備に関しての契約と軍事行動だ。現在、こちら側の優勢を見て取った外国の勢力が接触を図っており様々な問題が生じている。


『あの金の亡者どもは私たちが一番困っている時に不幸のどん底に叩きこもうとした癖に少し楽になってから手を差し伸べて来る。しかもその逆の手に何を持っているのか分かった物じゃない。東の友よ。君たちが我が陣営に協力してくれていることを本当に感謝するよ。』

『ありがとうございます。して、その接触を図って来たのは近隣諸国だけではなさそうですね?』

『既に渡してある資料通りだ。すべて断ったがね……』


 ラグロリジェレクトの顔にはこちらはこれだけのことをやったんだ。それ相応のメリットを相川たちが準備してくれるんだよなと言わんばかりの目をしている。相川は分かっていると頷いた。


『来年もご期待頂いている以上の成果を上げて見せましょう。』

『これは頼もしい。貴殿らはたった50名、それに私の近衛部隊を合わせて300名で既に2万近い相手を倒している。これは並大抵のことではない、まさに英雄である! 神の使いと言われても私はそれを容易に信じるだろう!』


 どちらかと言えば相川は神ではなく悪魔側なんだけどなぁと思いつつ黙って聞いた。


『この地域の安全をある程度確保できたことで我が軍もある程度余裕が出てきた。これからは5000程の兵を貸したいと思うのだがいかがだろうか?』

『お受けさせていただきますが……装備はどのような状態で?』

『ハンヴィー8台、戦車3台、航空機1機。その他の各人の装備や施設の物資などに関しては資料を読んでもらいたい。……それから、今回からはミサイル等の使用をして貰っても構わない。先の戦いでの協力は本当に感謝してるよ。』

『ほうほうこれはこれは……』


 先の戦いに比べて高待遇を貰い、相川は軽く唸るが正直彼の戦法的にはあまり必要ない。彼としては言うことをきちんと聞く従順な兵が大事なのであって装備にはそこまでこだわりはなかったのだが、使えるものが増えれば戦術の幅も当然広がる。更にとラグロリジェレクトは続けた。


『傭兵部隊からも相川の部隊へ志願する者たちが出てきた。2000ほどだがね。どうする?』

『……まぁ一応使いますか。契約に則って動いてもらえばいいんで。』

『ハッハッハ、そうか。頼もしいことだ!』


 そこからしばらくは和やかなムードで話を進めることになる。多くはラグロリジェレクトの修羅の国の地方領主たちの中央に対する非協力的な姿勢に対する愚痴とこれから発展するだろう修羅の国への希望。投資を促すような語り口の要所要所に相川が自国の技術や財閥の管轄にある物を売り込み、巨大市場を侵略していく。


『そう言えば、小耳にはさんだんだが……』

『どうしました?』


 そろそろ会談も終わろうとしていた頃になってラグロリジェレクトが急に何かを思い出したかのように相川に伝聞系で語り始めた。


『何でも国賊どもが【殺神拳】とか言う者たちを雇って反撃しようとしている動きがあるとか……』

『ほう、それはそれは……』

『まぁウチには相川がいる。更に言えば拳法とやらを使っても所詮は文明の利器には勝てんよ。心配することはないだろうがね。』


 ジョークのつもりだろうか、変なポーズで拳を作ってみせるラグロリジェレクトだが相川の心中は穏やかじゃない。しかも今の台詞はまるで前振りのような完全なフラグの言い方だった。


(おいおい、遊神のおっさんみたいな人外が来るとかはないよな? 勘弁してくれよ……?)


 修羅の国に栄光あれで締めくくられた会談の終わりの方は相川にとってあまりいいニュースではなかったが、それでも一応終わったので時計を見た相川は頑張ればパーティに間に合わなくもなさそうな時間であることを確認し、少し迷ってから帰国するのだった。










「来ないなぁ……やっぱり無理だったのかなぁ……」


 クリスマスパーティを開いていた遊神の家。広い道場を含むお屋敷に近い敷地のすぐ外で瑠璃は相川へのプレゼントを持って雪の降る中相川を待っていた。そのすぐ隣には瑠璃のことを心配して奏楽が立っている。


「もう日が暮れて時間も経っただろ? 瑠璃の顔も真っ白だぞ?」

「でも、もうちょっと……」


 そう言い続けて既に数時間が経過している。奏楽は呆れたように瑠璃に告げる。


「あんまり夜更かししてたら成長できなくなるし、明日の稽古にも支障が出るだろ。後10分くらいにしてもう家に戻ろう?」

「でも、このお菓子今日までに食べないと……」

「その時は俺が食べるよ。相川には新しいの作ってやればいいだろ?」

「でも……」


 そう言う瑠璃だが脳裏に過るのはこの前の文化祭。深夜遅くになって帰って来た相川は謝罪もそこそこに埋め合わせという形を取った。その前の大会後だって相川は遅くに帰って来た。近くでは修学旅行だ。アレにも相川は来なかった。相川が無理そうと言った時はたいてい本当に無理そうな時なのだ。


「……わかった。じゃあこれ奏楽君にあげる。」

「やっとわかってくれたか……」


 安堵して白い息を吐く奏楽。瑠璃は奏楽に綺麗にラッピングされたプレゼントを渡しつつ告げる。


「これ、一番頑張って心を込めて作った最後のプレゼントだから大事に食べてね。」

「おう、楽しみにしてる。」


 ホワイトクリスマスとなったその日に降り注ぐ雪の中で小さなカップルが遊神の家に入って行く中、気配を消していた影は笑いながら姿を現した。


「来たら終わってた。ってところだな。まぁ向こうも来れるとは思っていなかったみたいだし丁度いい……しかしいい物見て聞けたなぁ……途中からってのが惜しかったが。まぁ雰囲気から察するに告白……それに準ずるところまでいったんだろ。おめでただな。」


 笑う影の正体は帰国してこの場に直行していた相川だ。彼は雪の積もる寒い中で急いできたために暑そうにしつつ、来た道を戻り始める。


「んー……時間的には少しプラスだな。じゃあ学園の家の取り壊しの手続きでもするかね……」


 降りしきる雪の中、相川はここまで送って来てくれた犬養の車に乗り込んで一人自宅へと戻ることになるのだった。




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