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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
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戦士の休息

「……戻って来たんだから寿司とは言わんがせめておにぎりくらい食わせてほしいよね。」

「申し訳ありません。瑠璃ちゃんが心配で……」

「俺らの体は人間じゃないから別に体温が100度あっても死なないんだけどねぇ……いや、瑠璃は流石に死ぬか?」


 修羅の国の中央部付近にいた敵軍の殆どを掃討し、奥地に強大な勢力を作る羽目になってしまったが一応、一段落ついたということで相川は帰国していた。そんな相川を迎えに来たのはこちらに残していた部下の女性で、瑠璃を監視していた人物だ。彼女は相川の発言に眉を顰めた。


「社長、人間は42度を過ぎると危険な状態になってるんです。誰しも社長と同じと思わないでください。いいですか?」


 しかし、相川は平然と迎えに来た車に移動するように促す。相川と迎えに来た女性は二人は移動しながらも会話を続けた。


「瑠璃も半神化してるから50度くらいまで風邪みたいなもんだけどな。何回か看病したことあるし。」

「……それなら治療法も分かるということですね?」

「放っておけば治るけど、まぁ結構苦しむから治療するか……終わったら速攻で修羅の国だ。あ~怠いなぁもう面倒だわ。これ以上の泥沼化は見込めないと勝ち馬探しを始めた奴らとの交渉もあるのによぉ……一々こっちに戻って来たから面倒なことに……」


 車が見えてきたところで相川は迎えに来た人物に遠回しに文句を言う。迎えに来た女性は病院で瑠璃が原因不明の疾病により大変だと言われていたが、その病状は嘘だったのかと首を傾げたが相川は説明が難しいとそれ以上話すのを拒否した。


「ま、簡単に言ったらある種の成長痛……いや、食べ過ぎみたいなもんかな。6年になってから発症するようになった。セイチョウキってやつだね。」

「……寝たきりの状態で点滴で過ごしているんですが……」

「んーそう言う問題じゃないんだよねぇ……つーかあいつ絶対薬飲まなかったよなぁ……ボケが……」


 コンビニに寄らせておにぎりとついでに肉まんを買ってから微妙な顔をしたままの相川は瑠璃が入院している安心院あじむ経営の病院へと向かうのだった。











 瑠璃が眠る広い個室となっている病室では低い意識レベルの瑠璃が電動式のベッドに横になっており、その周囲を遊神門派の人々が囲っていた。多くの面会者が訪れたがそのすべてを追い払い、道場に通う人間だけで構成されている人垣は皆沈痛な面持ちで端正な瑠璃の顔を見ている。


 視線を集める端正な瑠璃の顔はここ1日全く変わらずに眠り続けている。時計を見るとそろそろ医師の定期巡回の時間になろうとしており、ここまで全く成果の出なかった診察が再び始まる。足音が聞こえてきた。安心院あじむの物だと思われるその音を聞いて瑠璃の父親である遊神は娘の茜音以外を退出させて瑠璃の検査に何か進展があったかどうかを期待して安心院の到着を待った。


「お姉ちゃん……」

「大丈夫だ。瑠璃は強い子だからな……」

「……揃っておられるようですね。」


 気配を察せる遊神の感覚からは逃れられないので他全員が大人しく待合室に行った状態で安心院はこの場にやって来た。その表情だけで遊神は彼の言葉に予想が付き、落胆せざるを得ない。それでもなお縋ろうと尋ねる。


「先生、何か分かりましたか……?」

「力及ばずに申し訳ない……身体の方に異常は見られな「仁くんが来る……」!?」


 室内に座っている誰の声でもない声が聞こえた。思わずその声の主を見ると彼女は自分が置かれている状態の理解までは至っていないようだが、ぼうっとしたまま端的に思ったことを告げる。


「やぁっと来たぁ……早く会いたいなぁ……」

「瑠璃! 大丈夫か!?」

「落ち着いて。瑠璃ちゃん、今どんな状態か分かるかな?」


 遊神の言葉には特に反応しなかった瑠璃だが、安心院の言葉には応じた。


「風邪ひいたんでしょ? しかもちょうど体と氣が組み直される時に……それで力が足りなくなって動けなく「ちょ、ちょっといいかい? それはどういう……」……」


 安心院の言葉に瑠璃は困ったように首を傾げて答えた。


「知んない。仁くんに教えてもらったけどよくわかんなかった……でもね、こうなった時は仁くんがいつもよりすっごく優しくしてくれるの。あーんしてくれるし、お薬も苦くないようにしてくれるの。」


 遊神は瑠璃に悪い虫が付いていたことを今更知った。いや、知ってはいたが瑠璃がここまでぞっこん状態だと言うことは初めて知ったのだ。そんな親の心中など察さずに瑠璃はベッドのボタンを押して上体を起こすとにこにこしながら思い出したように告げる。


「……あ、皆さん心配かけてごめんなさい。でも、ちょっと仁くんが来る時は出てってね? 仁くんって誰かがいるとぜぇったいに甘えさせてくれないの。」

「……私たちが出る幕はなさそうで……」

「お父さん行こ……」


 大量の糖分を大気中に放出しているかのような瑠璃の幸せオーラに対抗するかのように苦い顔になった茜音と安心院は変な形で暴発しそうになっていた遊神を連れて病室から出て行った。そして丁度相川の姿を認めると鬼のように睨んで見送った。


(……何だあいつ等。人が忙しい中わざわざ何のメリットもないのに娘を治しに来てやったと言うのに。)


 イラッと来たので相川は帰ろうかなと思ったがもう帰国してしまった事実は覆らないのでさっさと治してとんぼ返りを目指すことにした。

 病室前で着いて来ていた女性が警護に当たると相川はノックし、すぐに中から楽しげな声で入室の許可が下りて帰りたさゲージを跳ね上げる。


「元気そうじゃねぇか。」

「……いえ、その、あの……」


 相川の視線に監視役の女性が目を逸らす。聞こえなかったのかな? と瑠璃が先程よりも大きな声で入室許可を出すのを聞いて相川は思わず呟いた。


「ざけんな……」

「じ、自主的に減給させていただきます……」

「それなら減らそうとしてる分で海外組に何か奢ってやれ。あいつらが可哀想だ。」


 簡単な会話を済ませて相川が病室に入ると瑠璃は出国前に比べて少し痩せていた。しかし、相川が気になったのはそれよりも周囲の匂いだ。やたら甘く、蠱惑的な香りを漂わせている瑠璃はどうやらシャワーにも入れていないようで謎の香りを生み出していた。


(……まぁやっぱりこの辺りから察するにもう人間ではないよな。)


「ねぇねぇ、まずお久し振りって、ぎゅーして?」


 相川が瑠璃の状態を無言で考察しているとベッドの上の瑠璃は甘えた声で相川にハグを促す。しかし、相川はそれには応じずに固い声で尋ねる。


「お前、俺がやった薬は?」

「ぅ……」


 楽しみにしていたことで浮かれていた頭が一気に冷え、嫌なことを聞かれたとばかりに瑠璃は顔を曇らせる。それだけで相川は予想通りかと溜息をついた。


「苦いから嫌とか舐めた答えする訳?」

「だってぇ……苦いだけなら我慢するけど……アレ苦いのに酸っぱいし、しかも辛いし、ドロドロしてるし、臭いんだもん……」


 それに、最近冬休みに入って相川とずっと会っていないのだ。瑠璃の脳裏には病気になったら看病しに来てくれるかもしれないと言う打算があったのも事実。実際に来てくれたが、本当はいけなかったことは理解しているので罪悪感で目を逸らしてしまう。

 そんな瑠璃の内心など知らない相川は不味いという言葉に対して端的に反論する。


「でも、効く。」


 その返事を聞いても炸裂するほど不味いと評される味の薬に瑠璃は渋い顔だ。飲んでいてもこうなった時にやって貰えるやり方でもなければ飲みたいと思えない。


「……大体、仁くんが一人でどっか行くのが悪い。ボクも連れて行ってくれればいいのに。」

「それでもお前が薬を飲むのは「チューして飲ませてくれればいいんだよ。よくわかんないけどあれなら苦くないもん。じゃあさっそくだけどちゅうして?」……」


 毒薬を飲み続けた相川だから出来る非常時以外には決して使いたくない技を告げられて相川が無言で半眼になると瑠璃はそう言えばと手を打つ。


「その前にご飯食べないといけないね! あーんが先だ!」


 久し振りに構ってもらえると楽しそうな瑠璃。対する相川は羞恥プレイをさせて楽しんでいるのかと溜息をついて苛立ち紛れにアンプルを懐から取り出して瑠璃に近付く。瑠璃は無垢な瞳を相川に向けた。


「どーしたの、!? んくぅっ!」


 アンプルを瑠璃の魅惑の唇に捻じ込むとそれを傾けて中身を流し込む。瑠璃は目を白黒させてそれでも相川のことを見ながらそれを飲み干し、あまりの不味さに間をおかずに気絶した。それを見つつ相川は紙媒体に目で視たデータを記して呟く。


「……まぁこんなもんか。大体予想通りの効能と副作用だな……これなら服用しても大丈夫そうだ……ざまぁみろボケが。死ぬほど不味いだろうが貴重な薬使ったんだ。感謝しろよ?」


 人倫は知らないと必要な処置を済ませた相川は様子を見に来た安心院に疲れて眠ってしまったようだが起きたら多分楽になってるとだけ伝えて修羅の国に戻って行った。




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