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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
146/254

急いで処理

「……マジかよ。反対意見なしとか頭イってんじゃねぇのこれ?」


 相川は思わず誰もいなくなった会議室でそう呟いた。つい先ほど作戦会議を行って犬養の提案に対して特に問題はないと告げた結果、それで行けるならそれで行きましょうかと決定してしまったのだ。


 相川が連れて来ていた社員たちは相川の命令だし、さっさと済ませて本国に戻りたいということから。また、修羅の国から派遣された兵士たちは救国の英雄の言うことならその通りですと盲目的な理由で従って出撃に賛成している。


「……あーもう準備整ってるし行くけどさぁ……」


 決まった物は仕方ないので行くことにするが、わざわざ相川が帰国する必要があるのかと考えると微妙な気分になる。それらを全て八つ当たりで片付けることにして前方の敵軍を砦から引き摺り出すために細工を起動した。


「はぁ……掘削機とか持ってきた方が数千倍楽だったんだけどなぁ……輸入規制らしいし……大体、この戦争自体2、300年前くらいのやり方だろ……」


 ぼやく相川。こちら側の社員たちは生身の方が強いので銃火器など必要なく、昔の戦い方でもいいのだが借りている兵たちの装備はもう少し何とかならなかったのかと思うレベルの小銃とプロテクター付きの軍服だ。ついでにポーチに様々な用品が詰め込められているが正直どうでもいい。


「まぁやるけどさぁ……」


 敵軍が籠っている砦も修羅の国からすれば文化財に認定されると主張されてあまり大規模な破壊が認められていない。正直、紛争を解決する気はあるのかと二時間ほど問い詰めたいところだが相川たちにはそれでも出来てしまうという見通しが立ってしまった為、今回この様だ。


「じゃ、行きますか……」


 夜。闇に紛れこむのでもなく堂々と篝火をたいて行軍する相川。何かに乗ることもなく徒歩で相手の砦へ向かい、途中で放たれていた敵の斥候どもを皆殺しにし、巡回兵も、伝令も、全て叩き潰して目的地に辿り着く。


 兵力差は攻城側の相川たちが300人、防衛側の相手が5000人と攻め込む相川たちの正気を疑うレベルの差となっている。せめて破壊工作を行って闇夜に紛れて破壊箇所から侵入。内部から攪乱し、同士討ちをさせながら統率者たちを闇討ちしつつ矛盾する命令を各地に偽造しまくって大混乱させている間に逃走するならまだ分かるが相川たちは人目をはばかることなく堂々と行軍していた。


 当然、敵兵に見つかることになる。


『国の有事と言うのにもかかわらず国を売るこの忘恩背国の輩どもが! 何しに来た! ん!? 貴様、この国の者ではないな! この国は我らの物だ! 出て行け!』

『能書きはいいからさっさとかかって来いよ。それとも小学生に怯えてそこから出て来れないか臆病者? 10人に囲まれても一人で突破できた将軍ちゃまは子ども相手に怯えて部下に全てを任せて引き籠るんでちゅね?』

『Bit of a lad! 驕り高ぶった糞っタレなガキが! 舐めるなよ! 射掛け用意!』

『ここまで届くと思ってんのか? お前の目玉はその辺に転がってる死体の目玉よりも役に立たねぇな。いいからさっさと出てこいこのド低能。今なら死体の目玉と貴様の目玉の入れ替えサービス付けてやっからよぉ。部下に偉そうなことを言うだけでお前自体は何もできないのか? つまり貴様は賊将の中でも最下級のゴミ腐れなんだろうなぁ……? もっとマシな奴は居ないのか? 君じゃ話にならんからハイミルトン(賊将が見下している位階が1つ下の将)を連れて来てくれド腐れグランマファッカー。』


 相川の嘲笑の後に続くように後ろから聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせる合図をだし相手を怒り心頭させる。自尊心を崩すような他者との比較と親類に至るまでの悪口雑言。

 相手を増長させては士気にかかわると判断した敵軍は、相川たちが矢がギリギリ届かない場所で「完全に油断して宴会を始めても出てくることが出来ない無能ども」と煽り始めたところで突撃命令を下した。


『俺が無能かその身を以て知るがいい!』


 城門を開け放ち、まず銃撃を行う。その時点で相手が宴会を止めて慌てて逃げ始めたので賊将は哄笑しつつ自らの武勇を誇示するために自らを陣の戦闘に置いて突撃し、白兵戦に突入させる。


『ちょろちょろ逃げるなドブネズミども! 大人しく俺の刃に斬られるがいい!』


 狙いは最も賊将をピンポイントで煽って来た相川だ。雑魚に用はないと適当に蹴散らしながら怨敵を探していると聞きなれない言語が耳に届いた。


「……さて、【劇団・童夢】序章は終わりだ。本編に参ろうか!」


 何を言っているのかは理解できなかった賊将。しかしその言葉を聞いた瞬間に相手の動きが一転し、組織立った動きで城から出てきた賊将たちを半円で包囲するかのような形になった。しかし、その程度の薄さの壁など容易に突破できると鼻で笑い賊将は指示を出す。


『世間知らずの馬鹿どもが! 英雄譚の見過ぎで頭でもイカレたか? 全軍突撃! 下手な小細工など要らん! こちらが数で勝っている上、勢いも上だ! 存分に押しまくってこの意味もない生意気な陣形を食い破ってやれ!』


 兵法的に正し過ぎる尤もな意見。ただし、それが通じるのは人の戦争だ。化物に率いられた人外に片足を突っ込んでいる埒外どもに人間の道理を持ち込んでも相手が合わせてくれるかは分からない。


 今回のケースでは、付き合ってくれないようだ。


「生贄宣言御苦労。お前にもう用はないから死ね。」


 相川の呟きが聞こえ、賊将は呆気ないとしか表現できない程の早さで首を落とされた。彼は死の直前まで彼の死を想像することはなく確実な勝利を思い描いていたことだろう。


「さぁ食い潰せ。相手の頭はもうった。次は胴体を捌くぞ?」


 トップが潰れても相手の数の優位は変わらない。城からの突撃の勢いを活かしつつ軍団長が居なくなった後の隊列を組み直して無駄に広がっている相手に一点突破を仕掛ければどうにかなったかもしれない。

 しかし、相川の事前の仕込みによって細分化されてしまった各部隊の将たちが自軍の優位を背景にこの戦いの成果を自分の物にせんと各々の意見を言って憚らずにいたためそれは現実には生じ得なかった。


「さて、臭い腸も抜いたことだし。後は身を美味しくいただくだけだ。」


 相川のその言葉が誰かの耳に届いた時、全体を統率できるような将は既になく。ようやく状態の悪化に気付いて何とか城に逃げ帰ろうとした兵たちも城に残っていた別派閥にある将の防御を固めるために城門を開かないという指示が出たために殺された。


 相川たちを遠ざけるために城壁から無差別に降り注がれる矢によって逃げていた敵兵たちが大分減るのを見届けた相川は次の指示を出す。


「城の内部に残しておいた近衛兵のメンバーに戦友を見殺しにするなんてダメだと声を上げさせろ。相手の軍の中で良い人としての武勇伝を語らせたアルツクァンの部隊辺りがいいかな?」

「はっ!」

「城門が開いたと同時に突撃する。西門の外側には今の戦い見て出て来ないだろう相手達の目の前で悠々と別働隊が悪辣な罠作ってるから絶対に行かないこと。その後は北と東の方へ追い立てるように攻めるように。具体的な内容は各々覚えてるはずだからな?」

「はっ!」


 計は成った。相川が率いていた軍は近衛兵たちにそれなりの被害をもたらすことになってしまうが社員たちは基本的に軽傷。社員の死亡者は2名で済み、相川が戦没者に何かする間もなく相川はすぐに帰国させられることになった。




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