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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
145/254

今忙しいんだけど

『任務完了しました!』

『お疲れ様。明日から攻め込むから今日はゆっくり休んで。』

『畏まりました!』


 仕込みがそろそろ仕上がる頃かと判断した相川は送り出していた兵たちを呼び戻して戦争を再開することにした。異国の兵が退出した後、相川たちがいる天幕で不満気にしていた御門が相川に尋ねる。


「なぁボス。破壊工作にどれだけ時間かけてるんで? さっさと城をぶっ壊せばよかったんじゃ……」


 不機嫌な御門に対して相川は愉しげに答える。


「いや、壊してたのは城だけじゃないぞ?」

「……は?」


 訝しげな顔をする御門は相川に説明を求めた。相川はスパイとして派遣していた兵たちは内乱前から近衛兵という高い身分だった上、軍事的訓練を受けていることからある程度の身分になると前提を置き端的に答えた。


「まぁ軍的な体制を作るためのアドバイスっていう名目で組織を壊させてたんだよ。」

「……へぇ。どうやって?」

「そりゃまぁ、指示系統を明確に、細分化させると言う名目で序列付けを細分化させただろ。重大なミスをなくすと言う名目で物事を決める際にいちいちそれら全体の意見をまとめ直させるようにさせるだろ。より深い議論を考えると言う名目で議論が進めばそれによって生まれた新しい問題を穿り回したり、別の人の意見を聞かせた。後、命令がスムーズに行くように指揮官の権威を高めると言う名目で直属の上司にまつわる逸話を長々と聞かせたりだな。」

「それにどんな意味があるんだ?」


 御門は相手に塩を送っているようなものではないかと首を傾げたが相川は溜息をついて首を振る。


「必要な時に必要なことをするのに時間がかかるようになる。指揮系統の細分化を行えば用件があっても一度上に回してからじゃないと下に命令が出せなくなるからな。『それはウチでやることじゃない。』なんて手合いがたくさんできる。更に上司間での派閥が生まれれば軋轢から横のつながりは最悪になる。そしてそんな上司に心酔すれば敵対している派閥とはギスギスするに決まってる。」

「面倒臭いことするなぁ……」

「この手の作戦がやりやすい国民性なんだよここ。しかも相手が自分は正しくて相手は全て間違えてると思ってるような連中であれば尚更な。」


 相川は他にも重要な仕事は重要な職に就いている者がやるべきだから部下には適当な仕事を押し付けさせたり、精神の成長を促すためには完璧さを要求するべきで些細なミスも許すなと徹底させたりスパイ防止のためにあらゆる伝達に複数名の承認が必要になるような軍律を作らせたらしい。


「今は上官が権威づけられてる状態だから何とか保てているこの状況。さて、俺が一騎打ちを申し込んでやればどうなるかな?」

「受けたらボスに殺される。その上その後をどうにかするには複数名の承認なのに、派閥が生まれてるから厳しい。受けなかったら権威が下がって……成程、あんたが鬼か……」

「ということで、この上司にとって気持ちいいだけの組織を破壊する軍律を相手に広めるために今回の戦いはある程度残党を放置する。」


 相川の決定に御門は難色を示した。


「今やってる工事とか……」

「逃がす方向をコントロールすることくらい当たり前だろ。敵の勢力が強い所に逃がして食い詰めたゲリラたちの印象を悪化させる目的も兼ねてるんだから。」

「成程、あんたが悪魔か。」


 ようやく納得してくれたらしいので相川は説明を終えてこれから始める作戦について最終確認に入るのだった。










 その頃、本国に残してきた社員たちは相川が連れて行った人々の穴を埋めるために尽力していた。その中に単騎で小国と争えるという埒外たる遊神家について監視をしている部門があるのだが、そこで少々問題が起きていた。その問題に対処するために担当の彼女はすぐに上に報告を入れる。


「……失礼します。瑠璃ちゃんが熱を出しました……」

「……心底どうでもいい情報をありがとう。それで、どうしろと?」

「すぐに社長に連絡を取って下さい。」


 遊神家監視員の担当の女性の言葉にただでさえ忙しいのに何言ってるんだこいつと言わんばかりの目を向けて上役は溜息をついた。


「あのねぇ……仮に君の子どもとでもいうのなら半休取って貰っていいし、何なら翌日休むのも結構だ。仕事は忙しいが、それでも替えは利く。百歩譲って君の親戚でもいいだろう。」


 だが、と彼は続けた。


「赤の他人で、しかも周囲に人がいるし病院に知り合いまでいる……極めつけは君が行くんじゃなくて社長を呼べと。絶賛戦争中の、絶対に替えの利かない、海外にいる、社長をたかが一少女の熱如きで呼べと。

君こそ熱があるんじゃないか?」

「たかが一少女じゃありません! 彼女は世界の宝なんです! それに熱如きと言いますが、45度を超える高熱ですよ!?」

「……それもう死んでるんじゃ……」


 つい思ってしまったことが口から出てしまった上司。歳が行くと思ってることが口から出てしまうようになってしまうんだよなぁと失言を後悔したところに担当員が噛み付いた。


「だから社長を呼んでくださいと言ってるんです! 大事な幼馴染の一大事を知らせなかったら私どもの職務が……」

「……連絡は入れてみよう。ただし、通るかどうかは分からん。」

「それで構いません。メールで良いので通知をお願いします。」

「わかった。君は職務に戻るように。」

「失礼しました。」


 こんなものメールする意味あるんだろうかと思いつつ上司は黙ってメールをタイプして相川の仕事用のアドレスに送るのだった。


 そして、作戦決行の前日に何か後方で問題が起きていないか確認するためにメールを見ていた相川はその中の至極どうでもいい案件に嘆息した。


「……成程。北伐に行ってた諸葛亮が意味不明に戻された時とか岳飛が秦檜の罠にかけられた時とかはこんな気分だったんだろうな……まぁ俺は拒否するけど。」

「どうかされましたか?」

「……瑠璃が熱出したから帰って来て欲しいだって……バカじゃねーの……?」


 相川は嘆息して鼻で笑ったが、作戦の最終調整のために相川の下を訪れ、相川の話を聞いた犬養は冷静に首を振った。


「それは一大事ですね。国家の損失です。」

「……おーい? 頭大丈夫?」


 相川が何言ってるんだこいつと視線を向けるが彼女は至って真面目な顔をしていた。


「今日攻め込み、社長はこの紛争が終わった時点で一度自国に戻られるというのは可能ですか?」

「……お前らが死ぬ気で頑張ればできなくはないかもしれないが……」

「厳しいですね……瑠璃さんを見たことがある人物が少なすぎて賛同が得られません……」


 見ていても賛同なんか得られねぇだろと思いつつ相川は前は瑠璃を見ても平然としていた犬養が遅行性の毒にやられたかのように魅了されてしまっているのかと残念そうに見た。


「まぁ戦後処理は俺じゃなくても出来るだろうが……契約は俺じゃないとできないからなぁ……後捕虜とか捕まえて尋問するのとか……戻るのは無理だな。大体割とどうでもいいし……」

「……社長、言い過ぎです。優先度はそこまで高くない程度の表現にしておきましょう。」

「……そもそも、俺が監視を付けてるのは遊神さんであって瑠璃じゃないんだが……まぁ仕事してるんなら別にいいんだけど……」

「私たちは全力を尽くすので、もし多少なりとも戻ることが出来る可能性がありましたら、何卒お願いいたします……」


 別に殺しや霊氣の吸収なんか必要なことをやれて面倒な後始末を誰かに押し付けられるならそれでいいと思いつつ相川はそれでも呟くのだった。


「俺、今瑠璃とかに構ってられないくらい忙しいんだけどなぁ……」




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