出撃
冬休みに入った。長期休暇ということ、また小学校最後の冬ということで単位にも不足がないので殆どの6年生が帰宅する中、来シーズンの園芸は行えないので草木の欠片もない相川の学校内の家に相川は残り、電話をしていた。相手は瑠璃だ。
『もうすぐクリスマスだね! ボクのお家でパーティあるから来てよ!』
「あー……行けたらな。」
到底不可能だろうがなと思いつつ相川は準備を整え終えて外に出る。そろそろこの家も破壊しないといけないなと思いつつ部下である犬養が迎えに来ているはずの車へ向かった。
『約束だよ?』
「まぁ、うん。」
浮かれている瑠璃。しかし、クリスマスなど相川たちからすれば単なる平日。出勤は普通にある。仕事がなくなるわけでもない。その上、クリスマスなど関係のない場所に今から向かうのだ。
「それで、用件は終わり?」
『えーと……そう言えば、行けたら行くってのはクリスマスに何か用事あるの?』
「仕事だが? 平日に何言ってるんだ。」
『……そうなんだ。今からはどう? 暇?』
「仕事だが?」
『ご、ごめんなさい……が、頑張ってね!』
別に怒った訳ではないが勝手に謝った瑠璃。向こうから電話を切ることは殆どないので相川の方から電話を切って犬養の車に乗り込む。
「遺書は書いて来たか?」
「はい。出して大丈夫でしょうか?」
「うん。じゃあ行くか。」
相川を乗せた車は空港に目掛けて移動を開始した。最終目的地は修羅の国。そこで行うことは反政府組織に対する介入及び国内のインフラ整備だ。
(せいぜい度肝を抜いてやりますかね……)
勿論、今回の戦いで終わる訳はない。しかし、大事な初戦になるのだ。相川は悪魔のような笑みを浮かべながら外の景色を見つつ思考を加速させるのだった。
「やって来ました営業妨害の連中どもの巣窟。拠点に対して立て籠もるは総勢500名ほどの人々。対する私ども劇団・童夢は50名です。ひゅーっ!」
「……現状把握に補足です。拠点タイプは農村ですが、周囲に柵と堀が作られており櫓も存在します。敗走径路と予想されるのは雑木林に面している道で、そちらより奥地にあるゲリラ部隊3000名が駐屯している基地に逃れると想定されています。」
現地に到着した相川と犬養は連れてきた会社のメンバーに事前通告していた内容を改めて報告し、これからについて簡潔に告げる。
「まぁ、銃火器を持ってないのほほんとした私服で子連れの連中が50人群れ成してきたところで相手の警戒はそこまで高まらないから普通に中央突破します。基本的に1人最低3人殺して貰えれば後は俺と犬養で何とかする。全員、平和ボケした観光客の真似の準備はいいかー?」
元気な返事が返って来てところで犬養をガイド役に見立て、進軍が開始。すぐに警告が発せられて威嚇射撃が飛んでくるが相川たちはカメラを構えて撮影したりメモを取ったりしつつ進む。
『平和ボケしたアジアの糞ったれが! 死んで後悔しやがれ!』
相手が集まり集中砲火になり始めた。そして相手の罵声や怒声が聞こえ始めるところになり相川は宣言する。
「突撃。」
最初に動いたのは当然相川だ。そもそも銃弾が当たっても意味のない装備で敵陣に突っ込むと蹴りで柵を蹴り壊して内部に侵入。そして銃撃していた男たちが呆然としている間に殺して堀に投げ込み柵を被せて道を作る。その間には犬養が周囲の敵の返り血も浴びずに無言で殺戮をしていた。
警報の音が鳴り響き、敵襲が陣内に周知される。各人の判断に任されていた裁量を超えていると即座に判断した誰かがそれを行ったのだがもう遅い。内部に紛れ込んだ劇団・童夢のメンバーが時には敵に扮して、時には問答無用ですれ違うメンバー以外の人間を殺していく。
「……あ、放火すんなって言ってたのに。」
混乱に乗じて相手が逃げやすくなるので相川は放火を認めていなかったのだが拠点の奥から火が上がっていた。悲鳴や怒号、誰かの泣き叫ぶ声に銃声。時計を確認するとそろそろ予定の時刻だったので相手の逃走用の小道に集合し始める。
「お、お前たちは何なんだ……!」
道すがら敵兵と思われる片腕をなくし、今にも出血で死にそうになっている男に声をかけられる相川。その問いに対し相川は邪悪に笑うと答えてやる。
「劇団・童夢。今回の演目は愉快な殺人鬼だ。次回があったらお楽しみに。」
冥土の土産に教え、そして男を殺した相川はさっさと集合地に移動して点呼を取る。誰も怪我をしていないと言う通常の戦闘では考えられない異常な事態を当然のように受け取って軽く告げた。
「さて、準備運動はこれ位にして……ゲリラ部隊の基地に強襲をかけますか! はーい皆、毒団子は持ったかな? 開封後は確実に全て置いて来ること。そして20分以内に出て来ることを約束しようか。じゃないと半日くらい下痢と嘔吐に眩暈で死にたくなるような酷い目に遭うから。」
カプセル薬を入れる容器のような物に入ったBB弾くらいの大きさの黒い丸薬を見せつつ相川は全員が頷くのを見る。経口摂取ではないのに謎の効果を示す薬についての突っ込みは入らない。これは相川が作った物だからだ。
「それじゃ行こうか。」
そして半日後、血と糞便、吐瀉物に肉片や死体に彩られたゲリラ部隊の基地は陥落することになる。その陥落が近くの拠点に知らされる前に相川たちは全て叩き伏せて今日だけで7000名が所属する部隊を壊滅させることに成功した。
「……ここからが本番だ。」
働き過ぎた日の翌日。休息日であるこの日に相川は主だったメンバーを招集してこれからの流れの確認を行う。
「流石に殺し損ねた奴らが増えたから俺らのことは知られただろ。こっからは毒とか暗殺とか奇襲とかを使うと国際的な非難を浴びることになる。」
「ですね。それに加えて相手側も準備をすることになると思います。」
地域研究の結果、この国の気質としては戦争に出ているならそれが人道に反するような危険物質でなければやられた方が悪いという考え方を持っていることが分かっていたので腹痛レベルで後遺症もなく、我慢すれば我慢できないことはないという毒物散布を行って無力化を図った。しかし、諸外国からすれば内容はどうであれ毒は毒ということで文句を言って来るだろう。
名が知られてしまったからには勝ち方にもある程度配慮を行わなければならない。今は平等平和の下、民族自決を謳って手出しを控えている国々は己が利を求めて常に様子を窺っているのだ。
「まぁ、この国の好きそうな物語は大体盛ってあるから公文書でも俺が単身で乗り込んで1人で1000人くらい殺したことになってそう。」
「……まぁ半分くらい正解なんですがね……」
「単身ではなかったが全体合わせたら2000は殺してるんじゃ……」
「今は事実確認してるんじゃなくて余所にどう伝わってるかの話をしてるんだが……」
それはおいておき、話を進める。
「こっからは面子を大事にする国民性を使って相手を引き摺り出す方向で行くか。名が売れたってことは相手にする価値もないって言えなくなるしな。慎重に事を運ぼうとしても臆病風に吹かれる上役は無能扱いされる厳しいゲリラの掟を精々有効活用させてもらいますか。」
それをより簡単に起こすために相川は現地で派遣された政府軍の中でも首長の近衛兵と言う信頼できる人々に指令を出すのだった。