表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
142/254

文化祭翌日

「お疲れ様。君たちはもう用済みだ。眠りな。」


 学園祭当日……いや、その日付が変わってしまった深夜。相川は何とか学校に戻って来てお化け屋敷の霊たちが昼間に吸収した生気を用いて暴れ出す前に消滅させることに成功した。


「ふぅ……危なかった。流石に卒業するまで学校が崩壊するのは止めてほしいよね。折角単位取ったんだからよ。」


 学校どころか地域全体が物理攻撃不可の相手に蹂躪される未来を叩き潰した相川は交渉と除霊を済ませ、微妙に疲れた体をおしてどうせ明日やらなければならない文化祭の後片付けまで済ませて自宅に帰る。


(……何かいるな。)


 気配を感じて相手を探ると月明かりが草木を照らす中、相川の玄関の前には静けさの中に舞い降りた愁いを帯びた天使と見紛うような状態で瑠璃が座っていた。相川は少しだけ驚いた。


(……鍵は渡したよな? うん。家の前の電気が点いてるし一回は開けてある。珍しく起きてるのか。いつもなら10時には眠くなってるのに。もう草木眠る丑三つ時だぞ?)


 そう思いつつも相川の家なので別に誰かに気兼ねする素振りも見せずに自宅へ進む。相川を見咎めた瑠璃は一瞬飼い主を待ち侘びた子犬のように跳ね上がって、柔らかですべすべな頬を膨らませてむくれる。


「お帰り。遅かったよねぇ? お祭りどうするのさ。」

「ただいま。悪かったな。明日でもいいなら若干北の方になるが祭りはある。片付けは済ませたから瑠璃が行くなら行こうかと。どうする?」


 一先ず家に入ろうとする相川と8割くらいくっ付いていたいからという理由でドアの前を占領して押し合いに持ち込む瑠璃。相川が引いても瑠璃はくっついたままだ。


「むー……色々言いたいことあるんだけど……」

「後、詫びの品として浴衣に髪留め、下駄とか買って来たけど。」

「……まぁ、怒ってるけど許してあげなくもない……」


 瑠璃は物よりもどちらかと言えば相川にもっと謝ってほしかったのだが、あまりこちらが怒っても後に遺恨を残すだけなので物を貰って引っ込んでおく。買収成功と見た相川は瑠璃を連れて家の中に入った。


「ふぁぁ……眠……」

「明日の為にもう寝たら?」

「そーする……明日はちゃんと一緒なんだからね?」

「はいはい。お休み。」

「おやすみ……」


 そろそろ限界が来ていた瑠璃を寝かせて相川はシャワーを浴び、時計を見てそろそろ夜が明ける時刻に近付いていることを確認し、仕事に取り掛かる。


「……さて、反政府組織に対抗するウチの勢力に誰を連れて行くかだよなぁ……こっちの仕事の運営もあるから最大で50名程度になるとして……敵は戦闘意思のある民間人合わせて20万だっけ? 装備がまた面倒臭いこと……武装ヘリが少ないのがまだ救いかね?」


 当然、相川の陣営は相川の会社だけではなく修羅の国の中央正規軍の一部と同盟国として選ばれた3か国の多国籍軍に傭兵が入る。それら全体で10万といったところか。

 尚、軍事化と被害の拡大、及びコストを抑えるために兵器の輸入は控えられているのでこちら側にミサイルなどの大規模破壊兵器などは存在していない。


「……で、正規軍の人たちは基本的に国内安定のために戦場に出ることはないと。そうなると、動員数は3万ってところかな。それに加えて時宜を見極めると言いつつ経済が壊れるのを待って援助と言う名の遠回しな植民地化を図る勢力が1万8千ってところかな? ハッハ。笑えるね。」


 同盟国たちも修羅の国の経済が壊れて自国に泣きつくまである程度弱らせようと考えているので士気が低い。しかも指揮系統がそれぞれ母国にあるので足並みがそろっていない状態だ。


 つまり、割と最悪の状態ということである。現状は徴兵制の下、修羅の国の臨時の兵がこちら側にもたくさんいること。また、同盟国と反乱軍の武器の優劣によってやる気がなくとも拮抗しているのだが、敵勢力が大きくなってきているのを受けて同盟軍や地方軍の日和見が増え始めていた。


「……もうインフラの契約に入ったからなぁ……治安が安定するまで様子見したいって及び腰の人たちが多くて、ある程度見通しが立ってから実際の行動はするとか言われてるから俺らで何とかするしかあるまい。はぁ……近々来そうな毒日が過ぎたらさっさと行動に移しておかないとねぇ……」


 摂取している毒が体の中で変異を起こして動けなくなってしまうが自らの耐性が上がる日である毒日を待ち、それが開けたら戦端を開くことにして相川は部隊編成に入る。


「まず、犬養さんは神化したいって言ってたから確定。御門みかどはどうするかなぁ……あいつもこの世界から出たいとか抜かしてたが思春期だからという可能性もあるんだよね……」


 その後、相川は夜が明けて日が昇ってしまうまで検討を続け、それが終わって日が高くなってから眠りに就くのだった。










 そして文化祭翌日の午後、ようやく動き出した相川と一人で頑張って浴衣を着た瑠璃は犬養が運転する車で地方のお祭りに出掛けた。


「犬養さんだっけ? この人もお祭りに来るの?」

「あの人は来ない。車の中で待機してるよ。」


 自分の体内で氣を循環させるトレーニングを申し付けており、それを車内でやりつつある程度雑務処理をやってもらうことになっているので祭りに参加する余裕などないと言う状態を知っている相川はそう返して瑠璃を喜ばせる。


「じゃあ二人っきりだね。」

「そうだな……まぁ瑠璃だけなら屋台のもの全部食ってもいいよ。」

「そんなには食べられないよぉ~」


 甘ったるい会話をしながら車は進み、目的地に着くまでそれほどまでに時間を要したことを感じさせなかった。満杯の駐車場をある程度たらいまわしにされて空きを見つけるとそこに車を停め、相川たちは地面に降り立った。


「よし行くか。」

「……そっちに道あるの? 地図はこっちって……」

「じゃあそっちか。」


 適当に動こうとして瑠璃に指摘され、道を変える相川。ただでさえ周囲の人間たちの目を惹く瑠璃の浴衣バージョンと外を歩くことでカップルなどに破局の危機を振り撒きながら相川はそう言えばと呟く。


「何の祭りなんだろうか。まぁ秋だから収穫祭かなんかだろうが……」

「縁結びの神様に豊穣のお礼をするお祭りだよ!」

「……ふむ。まぁ実の結実も雌雄の縁が結びついたと考えられなくもないか……」

「? ふつーに家族みんなが幸せです、ありがとうございます神様。ってするんだよ? それでね、このお祭りの屋台の範囲内にこの神社のマークがついてる箱を持った神様のお使いの人がいるらしいんだけどね? その人が売ってるお守り袋を買って、まだ開いてる袋の中にある紙に名前だけ書いてから入れ直して両端を男女で引っ張って閉めると一生物の縁が結ばれるんだって!」


 何か純粋な瑠璃の言葉に心が荒んでいるのかもしれないとふと思ってしまい、早口になっていた後半部分は適当に聞き流しつつ相川は視線を宙に浮かせて瑠璃に戻した。


「よく知ってるな。」

「昨日待ってる間に調べたの……今日は二日目だからお守り、もう残ってないかもしれない……」


 言外に責められている相川だが一々そんなことを気にしていたらやってられないので屋台の食べ物を瑠璃に与えて黙らせておく。瑠璃の顔を見れば勝手に大盛りになったりするので便利だ。


「あ、仁くん。あれってもしかして……」

「向こうから寄って来たな。瑠璃の所為だろうが……」


 芸能人のような扱いで瑠璃の周囲は人に覆われており、この国の人間の習性として何だろうかという野次馬根性に釣られてやってきたのだろう。カメラを向けた誰かの携帯電話のレンズに相川は指弾で空気の壁をぶつけて壊しつつその売り子の方へ向かった。


「それください! あ、これはボクが払うからいいよ。」

「そ。」


 瑠璃の言葉にこの集まりは一体何なのだろうかと思いつつ売り子は籠からお守りを出して柔和な笑みを向けて言った。


「畏まりました。1000円お納めください。」

「はいどーぞ!」


 お守りを売ったことでこの場にいるお守り目当ての人たちの関心が瑠璃から売り子に一瞬移る。その瞬間に相川と瑠璃は気配を消してこの場から立ち去った。


 少し歩いて人気が少なくなったところで瑠璃は相川に袋の半分を差し出す。


「ん! 引っ張って!」

「んー……まぁいいよ。」


 お遊び感覚で相川がそれを掴むと袋の綴じ口にある糸が切れてしまった。それを見た瑠璃は大ショックを受けてしまう。


「…………まぁこんなこともあるだろ。」

「ヤダ。こんなの認めない。もう一個買う。」


 二つ目では成功した瑠璃はようやくご機嫌に戻ってお祭りを楽しむのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ