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強者目指して一直線  作者: 枯木人
幼児期編
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最初の日

 瑠璃が誘拐紛いのことをされた翌日。同じベッドで寝ていた相川が起きると瑠璃も目を覚ましてはにかんで朝の挨拶をする。


「おはよぉ……」

「おはよう。あ~……幼稚園行きたくねぇ……」


 相川は起きた時点でテンションが低かった。



 彼は、今日初登園の日なのだ。






「うい。昼ごはんのおにぎり。」

「えへへ~お揃いだね~」


 幼稚園で10時のおやつと昼食のおかずは出るので簡単な混ぜ込みご飯だけ作って渡す相川。ご飯と箸を持って登園した後は15時までそこにいる予定だ。


「……正直、俺が幼稚園に行っても学ぶことなんてないんだが……」


 相川は行きたくなかった。幼稚園という名のそこは武術場なのだ。あまりキツくは指導しないが、周囲が武道家の子どもたちなので周囲に合わせると現在の相川にとっては地獄に等しい。

 相川にとってまだよかったと思えるのは多流派が集まっている為、服装が自由でギミックが仕込まれた服で登園することも可能だったという点だろうか。


「瑠璃、楽しみ!」

「さいでっか……」


 しかし、つい先日頑張って母親を見送り、昨日には児ポに抵触しそうな事件に巻き込まれかけた瑠璃がこれだけ楽しみにしているのだから行くべきだと理性が伝え、スクールバスを待つ。


(……なるべく他人と係わらない方向で行けばいいかな……)

「バス、来た!」


 瑠璃がはしゃぐ中で相川は幼稚園へと行ったのだった。





「はい、それじゃあ今日から皆のお友達になる相川くんでーす! みんな仲良くしてね~?」

「「「「はーい!」」」」」

「結構です。」


 相川が即答するが、意味が分かったのは保母だけでしかも生意気盛りねなどという生暖かい目で見守るだけで何も言わない。


「瑠璃が案内するね。」

「お前男なのに女と遊ぶのか~? 変なの~」


 相川が何か言っても瑠璃がにこにこしながら案内することで人目を惹き各地でわらわらと集まってくる子どもたち。


(話が通じない!)


 そんな彼らは遠回しな表現や皮肉が通じない。相川は登園して早々に帰りたくなった。一応、話をされて黙っているのもなんなので返すが、どちらにせよ意味は通じていない。


 しかし、そんな様子が新鮮で面白いのか子どもたちは寄ってくる。相川が本を読みながら瑠璃のトイレを待っている時にも男の子がやって来た。


「本を読むから退け……」

「お~? 何それ~?」

「『神農本草経』……てめ! 触んな!」

「変なの! 読めねぇ!」


 瑠璃は理性のあるスーパー幼児だったらしい。目の前のガキどもは本能のままに一瞬一瞬を生きており、相川の話は通じない。

 相川もある程度歳を行った目で見れば何とかなるのだろうが、現在は体に精神が引っ張られ気味の為戦闘を開始する。


「仁くんは瑠璃と遊ぶの!」

「げ、遊神だ~逃げろ~」

「う~……まさきくんいっつも瑠璃の邪魔ばっかり……」


(……つまり、あいつはめっちゃ瑠璃のこと好きというだな。)


「瑠璃は友達多そうだね。その子たちと遊んで来たら?」

「…………いない……」

「その辺で見てるのは?」


 仲間になりたそうな目をして瑠璃を見ている人たちがいる。そんな人たちを見て瑠璃は首を振った。


「仁くんのお友達じゃないの……?」

「多分、瑠璃が可愛いから声をかけ辛かったんだろ。俺と居るから声掛けてもいいのかなって思って近付いて来てる。」


 相川は自分が逃げるために適当なことを言って近くの女子を引き摺りこんだ。


「ほら、ちゃんと話してみたら?」

「えぇと……その……るりちゃん。お話しよー……?」

「え、あ……う……うん……」


 その女子にパスして相川は逃げる。粗暴な輩との遊びも嫌なので逃げる。そしてギミックを使ってレンガ造りの建物の裏から手足に薄い金属の刃物を付けることで足場を作りながら屋根の上に逃げて本を開いた。


「……ここならいいか。」


 日光が差していることが難点だが、相川はそこで横になり瑠璃が降って来た。


「うぇ~……瑠璃、やっぱり無理……」

「何? ラップでもやってるの?」


 相川が本から目を上げて瑠璃を見ると瑠璃はほっぺたをごしごし拭いながら相川に口を開く。


「何かねー? お姉ちゃんになってって……口にキスされかけてほっぺたに逸らしたの……あの子、さっき泥団子食べてたのに……」

「……ホンット、ハードな人生をお歩みで……」


 相川は泥団子が問題ではないと思った。それに対して瑠璃は首を傾げる。


「ハードなじんせー?」

「いや、大変だなって……まぁ、他にも仲間になりたそうな目をして瑠璃のことを見る奴らは居るから……」

「うん……それより、何で仁くんはどっか行っちゃったの? 瑠璃、まだ案内してあげてないんだけど……」

「全部覚えてるし……」


 避難経路を把握しておくのは常識だ。つらつらとそのようなことを言って瑠璃を納得させると瑠璃もここでのんびりすることにしたようだ。


「あったかいねぇ……」

「俺、太陽嫌いだけどな……」

「瑠璃は好きだよ~? 夏は嫌いだけど……」

「そう。」


 瑠璃は相川に凭れ掛かる。


「んにゅ~……眠くなってきた……」

「……そろそろ自由時間も終わりだし、おやつの時間か……キャロットゼリーとか誰得なんだろうな?」

「瑠璃、あれ嫌い……」


 各部屋に運ばれて行く薄い橙色のゼリーを見ながら相川は微妙な顔になりつつ降りるかどうか考える。


「そう言えば瑠璃はどうやってここに……?」

「カカって。あっちの木と、あのパイプと、あそこの窪みにキックして。」

「降りれるのか……?」

「怖いから無理……」


 眠そうにそう返されて相川は口を閉口する。


「俺が背負って降ろさないといけないのか……?」


 返事はない。眠ったようだ。


「……せめて掴まってくれれば何とかなるが……」


 消防車やはしご車を使われるのは恥だ。また、職員に助けられるのも何となくムカつく。瑠璃だけ置いて行くにも何故発見したのかが問題視されるし、この場所に登れないようにされると後々面倒だ。


「瑠璃、背中に……」

「ん……」

「掴まり過ぎだぁっ! ま、まぁ、落ちなさそうだけど……!」


 アホみたいな力でがっちり捕まる瑠璃。先程キスされたと嫌がっていた部分を相川の服で拭くのは止めてほしいと思いつつ相川は慎重に降りて行く。


(落としたら、どうしよ……ギミックの魔力が……魔核は大損だから使いたくないんだが……!)


 魔力の燃料的な役割に使うには勿体ない代物なので落とさないように気を付けて地面に降りて行く。そして地面について息をつくと瑠璃を揺って起こす。


「おい、降りろ……布団あるからそっちで寝ろ……」

「んーんー!」


 瑠璃は起こされたくなさそうにムズがる。相川もそんなに力がある方ではないので早く降ろしたいのだが退いてくれない。


「ヤダ……」

「ぅぐ……」


 無駄に可愛らしい瑠璃を見て相川も少し怯む。これが男であればいきなり受け身を取って地面に叩きつけるのも可能だが、絶世とも言える可愛らしい女の子に対してそれをやれるほど相川は鬼畜ではなかった。


 精々、壁に背後からぶつかる程度だ。瑠璃はそれを受けても無意識なのかは分からないが普通に衝撃をずらして相川だけが微妙にダメージを負うだけで解決できない。


「くっ……甘すぎる俺……」


 思考を切り替える。背中を取られているのだ、殺される可能性を考えると冷徹に行動……


「できない……無防備に寝てる相手、しかも敵意も害意も一切ない上に何の根拠もない全幅の信頼を寄せている相手を敵だと思うには無理がある……」

「いっしょ、おひるね……」

「……あぁもう……」


 甘いなぁ……子どもの状態だからだろうか……そう思いつつ相川は瑠璃と一緒に布団に入ることにした。




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