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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
139/254

お泊り

(……何か瑠璃急に強くなってね? 成長期?)


「まだ、で……」

「ボクの勝ちっ!」


 無傷で完勝したらしい瑠璃が動けなくなっているクロエを背負って帰って来たのを見て相川は少し驚いた。去年まではそこまで差はなかったはずだ。


(……特にクロエの方は神化してるから月経不順とかホルモンバランスの乱れとか起きないと言うのに。)


 言い訳が効かない状態で負けたということでクロエは悔しそうにしながら手当てを受けて横になる。そんな彼女から離れて瑠璃は笑顔で宣言した。


「ボクのベッド、クロエちゃんが使うからボクは今日仁くんと一緒に寝ることになったよ!」

「……逆じゃね? 何で勝った方が罰ゲームを……まぁ本人たちが納得してるならいいんだが……」

「師匠、私はソファで寝るので瑠璃はベッドで……」

「……流石に怪我人だしなぁ……俺はベッド譲る気は皆無だし、瑠璃もベッド使いたいみたいだから……」


 クロエの方を見ながら思案している相川の後ろで瑠璃は勝ち誇った笑みをクロエに向ける。クロエは無言で睨み返すが敗者のため反論はしない。


「まぁ仕方ないか。瑠璃はそれで良いわけ?」

「うん!」


 断ればよかったのにと思うクロエだが、決まったことは仕方ないので受け入れるとしてそろそろ動けるかどうか体を確認し、立ち上がる。


「お、回復力は上がってるな。」

「中学校は死なないように訓練するところなので……小学校に比べれば楽です。」

「だから弱くなってるんだね。」

「……特訓は続けてます……! あなたが強くなっただけでしょう……?」

「瑠璃、煽るな。」


 相川の言葉で上辺だけの謝罪を入れる瑠璃にクロエは嫌な子になったなこいつと思いつつまぁそれ位は普通かと思い直してキッチンに向かった。


「何?」

「いえ、飲み物を……」

「あ、そう。」


 人の家の冷蔵庫漁るなよと思った相川。しかし病人だったことと元同居人だったことを考えてその辺は適当に済ませることにした。そこで瑠璃とクロエの対比をして見て考える。


(……瑠璃はキッチンにはノータッチだからなぁ……あ、食器洗い機あるしそれ押して皿洗いくらいはしていたか。で、クロエは家事全般やってたなそういえば。)


 相川に見られて何となく笑っている瑠璃。瑠璃も掃除、洗濯、皿洗いくらいはやるが食事は絶対に作らない。相川が作る方が美味しいからだ。


「まぁどっちでもいいけど……」

「何が?」

「こっちの話だ。」


 手伝ってもらった方が楽だが別に手伝われなくてもいいので相川はその件については思考放棄して別のことを考え始めた。


(さて、修羅の国から人材育成を押し付けられてるがどうするか。しかも客人として招かれてるが紛争地帯はまだ大量にあるし、ゲリラ部隊になった相手に傭兵が流れ込んでる。ある程度の勢力を持たれた上で国民の犠牲者は増やしたくないとのことだから。……まぁ普通にやれば平定した場所を広げながらインフラ整備を行って現状の生活に満足させることで相手側に流れる人を減らすか。そうすると人間はどれくらい必要になるか……)


 紅茶を淹れて来たクロエに軽く礼を言って相川は見積もりを立てる。その間にクロエと瑠璃は姦しく争っていた。


「……俺が考え事してる間に今度は何?」

「クロエちゃんがボクのおっぱい見て笑ったの!」

「自意識過剰です。そんな視界に入らない程度の物を気にしていたわけないでしょう?」

「…………そうかい。」


 言及し辛いことだったし、何か考えていることの差が激しくてどうでもよかったのでスルー。しかし当人たちにとってはどうでもいいことではないようだ。


「自分だって前は小っちゃかった癖に! ボクのママはおっきかったし、今ボクも成長してるもん!」

「はいはい。瑠璃さんもいずれ、大きくなるかも(・・)、しれませんね。」

「むーっ! 仁くん揉んで。大きくする。」

「なっ、何でそんな破廉恥な! ダメに決まってますよ!? どうしてもというなら私のに……」

「…………取り敢えずうるさい。」


 回し蹴りをくれてやって相川は考え事に戻る。自室に戻ろうかとも考えたがあの部屋は夏休みに入ったことで調合を開始したことによって凄い臭いに包まれている。そのため、気軽に入ろうと思う場所ではなくなった。


「……つーか破廉恥って……久し振りに聞いたな。」

「何で蹴ったの? ちょっと痛かったよ。」

「ストレス指数が高くなってたからだ。安眠するために発散する必要があった。」

「ふーん……安眠するために……じゃあボクもギュッてする。安眠するために必要だから。」


 何でこいつは怒るでもなく嫌悪感を抱くでもなく抱き着くという選択肢を取るのだろうかと相川は腹部に顔を埋められながら思うが、敵意を抱いた状態で接された場合はほぼ全自動で反撃するのでこの対応が一番嫌がらせとして正しいかと納得しておく。


「……あれでちょっと痛いで済んでることとストレスが溜まったからと蹴る師匠とあの説得で納得して抱き着いてること、どれに突っ込めばいいのか……」

「……瑠璃はちょっと変な子だから少しイラッとしたことを言葉で伝えてもすぐに忘れるからなぁ……本気で怒ればすぐに直すけど。鈍感さんだから。」

「……師匠も鈍感だと思いますが。」

「何で?」


 理由は言わない。今の状況を見たとしてもクロエは相川のことが好き……というより相川以外相手がいないのだ。その相川を盗られては困る。彼女もまた失敗できないと自分の告白する機を窺っている時にある伏竜なのだ。


「怒られるのは嫌だから叩かれることにしたの。でも蹴られるとは思ってなかった……」

「瑠璃、あなた色々間違えてますよ……?」

「そうそう。俺みたいなのと一緒にいることは「いいことだよ!」間違えてるんだよ?」

「師匠、そういうのは止めてください。面白くないですし、聞いていて楽しくもないです。」


 多数決で相川の意見は棄却されたがそう言えばと相川は首を捻る。


「そう言えばクロエ、普通に家に来たけど何しに来たの?」

「……家に帰ってきて何が悪いんですか?」

「でも引っ越したんだし。」

「会いに来てはいけませんでしたか?」

「……何で一々不機嫌になるわけ? まぁ……普通に考えて俺が一々聞くからか。」


 鈍感どころか無神経な相川を睨んで嘆息するクロエ。その怒りはまだ相川に抱き着いて腹部辺りに顔を埋めて横になっている瑠璃に八つ当たりされた。


「いつまでくっついてるんですか?」

「仁くんがダメって言うまで。」

「師匠、ダメって言ってあげてください。」


 しかし、相川の返事はない。何やら少々考えているようだ。


(……蹴り飛ばしたというのにどうしてこいつは好意的な状態になるんだろうか……さっき嫌がらせかと流したが悪意が介在してないんだよなぁ……そろそろ嫌いになってもらわないとこいつ自身が困ると言うのに。折角切っ掛けを幾つもばら撒いても気にしなかったら意味ないんだよなぁ……)


「瑠璃、流石にそれより下に行くな。変なことになる。」

「ふぁーい……」


 顔の角度を変えて上向きにすることで下腹部へと向かっていた頭を上げる瑠璃。クロエは自分がいない間に瑠璃と相川の間が縮まっている現実を受けて闘志に火を点け、自分がここにいる間に徹底して妨害工作を行い、自分の方が良いと思わせることに決めたのだった。




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