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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
137/254

大会終了

 相川が珍しく出場していた武術大会の男子の部は奏楽の優勝。そして女子の部では瑠璃の優勝で幕を閉じた。市議会での話が上手くまとまり、侮ってくれた分だけ条件を捻じ込めた相川は現在、ベスト8進出の賞品である図書室でのフリーパスを使って研究していた。


「フム……この世界にも一応、魔草が生える場所があるのか……興味深いね。この肉体改造の記述に使われている薬草類も心当たりがある物だし……」

「あっ、いたー!」

「図書室では静かにしろアホ。」


 魔力が込められていた意思ある魔導書から魔力を吸い上げて文字通り物言わぬ物へと変化させて中身を読み解く相川の下に瑠璃が現れた。


「アホって……」


 馬鹿にされて少しだけ悲しくなる瑠璃。しかし、相川が言っていることは正論だし、何か怒られるのもぞくぞくして楽しいという変な感情が芽生えてきている昨今の瑠璃さんはそれを流して用件を告げる。


「表彰始まるよ? 早く!」

「俺は忙しい。」

「本はいつでも読めるでしょ? 大会終わったんだから、後夜祭とかあるんだよ? 行こ? ボクと踊ろう? ボク優勝したから可愛いドレス着るんだよ?」


 折角の瑠璃のお誘いだが相川は行く気にならなかった。しかし、もうそんな時間かと時計を見ると瑠璃の方を向き直す。


「本を片付けたら行くから。夕飯は後夜祭で食べるのか?」

「え、うーん……どうしよ?」

「食べてきた方が良いんじゃないか?」

「じゃーそうする。ボク優勝したからドレスの準備しないといけないの。先行ってるね?」


 瑠璃は優勝者なのでドレス以外にもやることが多いはずだ。そのため、急いで先に出掛ける。相川はその後ろ姿を見送りつつ本を片付けてから立ち上がった。


「……さて、俺の用事も済ませないとね。」


 図書室から荷物を持って立ち去る相川が向かうのは校舎外だ。そして大会が行われた方向に向かう―――のではなく。校外に出るために門へと向かって事務員に外出許可証を見せる。

 学生証と外出許可証を見せて問題ないと判断された相川が校外に出るとそこには黒塗りの車が待っており、相川を見たところで扉を開く。素直に相川が乗り込むと運転席の女性は無表情に相川に声をかける。


「お疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ様犬養さん。予定通り高須さんの所に向かってくれ。」

「畏まりました。」


 独特な香りのする車内で簡素な会話が行われた後、相川を乗せた車は発進する。行きがけに大会の会場だった場所を通ると表彰の授与の準備が忙しなく行われており、気が早いものなどは既にその場所に着いていた。


「……よろしかったのですか?」

「欲しかったのは図書室へのフリーパスだけだったんでね。賞金が出るわけでもないしどうでもいいんですよ。それに、後期に入ってから優勝者二人は文化祭で何かさせられたりするみたいですから。」

「そうですか。」


 窓の外を何気なく眺めていると犬養から声をかけられた。車は信号待ちで停車している。


「ここの信号長いんだよなぁ……」

「申し訳ありません。次から避けるように……」

「いや別に犬養さんを責めてる訳じゃないんで気にしないでくださいよ。」


 動くモノに目が行く相川は生い茂った木々とネットに囲われた会場の人を何となく眺め続けて……運営側となっている一人、権正と目があった気がした。ゆったりと何気ない動作を装いつつ極めて素早く相川は目を逸らして信号を見る。


「……犬養さん、下道じゃなくて高速使ってくれる?」

「どうかされましたか?」

「人外の者が追って来るかも知れない。いや、流石に同僚とかに止められると思いますしまだバレ……ましたねこれは。」


 信号は青だ。すぐに発進して大通りに出るとその中央車線を走る。巨大な氣が会場の敷地内ギリギリで高い場所に位置しているのを感知しつつ相川は決して振り返らずに気配を殺したまま車に揺られる。


「こういう時に、自分で走るのよりも車の方が便利だと思うんですよねぇ……いや、犬養さんを呼んで正解だった。」

「ありがとうございます。」


 走っていたら氣が極微少だが漏れてしまう恐れがあったので車にしておいたのだが、それが正解だったようだ。後は歩行者が来れない高速に乗って逃げる。


「……最短コースより時間がかかりますが……」

「いいよいいよ。時間に余裕は持たせてある。10分くらいでしょ?」

「はい。」


 車内に会話は少なく、しかし犬養が途切れさせることはなく進み、結局は出発時に決めていた予定時刻通りに高須が待つ場所へと辿り着いた。



「……はぁ。お前本当に来たのな……」

「そりゃ約束だからねぇ……」

「犬養さんだっけ? 何で止めねぇのさ……」

「私は社長の命じることしか従いません。ゆえに、社長が決めたことは絶対です。書類を準備してないということはないですよね?」


 出会い頭に嫌な顔をする高須と会話をしながら室内に案内される相川。エレベーター付きの5階建てのビルの奥に高須が運営している事務所はあり、その中に入る。


「……言っておくが、前線には出さないからな。事前の契約通り補給部隊の傭兵で契約は3ヶ月が上限。週末は俺がセスナ出してやるからちゃんとこっちに戻って来ること。それから大通りには近付かない、敵機にも近付かない。集団にも近付かない、民家にも近付かない。食べ物に近付かない。森にも近付かない。いいな?」

「へいへい。」

「真面目に聞いてるのか?」


 険しい顔をして高須は相川を問い詰める。本意ではないことがひしひし伝わって来るが相川は気にしない。


(まぁその場所に行くだけでも死人どもの霊氣が吸収できるんだが……その辺は臨機応変に行くことにしてあるからなぁ……)


 水に気を付けろ。ヤバいと思ったら逃げろ。違約金くらい俺が払う。などと続けている高須だが相川は聞き流して書類を読む。


(……ま、問題ないでしょ……いや、問題あるな。何で2枚あるんだ?)


 相川が首をかしげていると高須が溜息をついて犬養に告げる。


「こいつ聞いてねぇな……頼みましたよ犬養さん。こいつの面倒……」

「当然です。あなたに言われるまでもない。」

「え? 来るの?」

「ったりめーだろこのすっとこどっこい。俺がお前一人で行かせると思ったのか?」

「着いて来てはいけないという命令はなかったので行きます。」


 え、じゃあ仕事はどうなるんだ……そう思った相川だったが、大きくする予定もなかったのに人はたくさん雇ってあると言うことを思い出して彼らにある程度投げることにしておいた。


「じゃーまぁ、行きますか。」

「夏休み近いですしね。」


 そう言い合う相川と犬養。その犬養に対して高須は小声で耳打ちする。


「……扱いは戦場カメラマンたちと大して変わらないからキツくなったら戻って来させてくれ。その為の人も送ってある。」

「社長次第ですが、危険と見做した場合は了承しました。」


 これでようやく安心した高須に書類を記入した相川はそれを渡し、学校の寮に戻って行った。




「……ん?」


 日が暮れて学校にある自宅前に着いた相川は自宅前に椅子を持って座り込んでいるドレス姿の美少女が居ることに気付いて警戒し、それを瑠璃だと認めると暗器を隠したまま近付く。彼女は相川を認めると駆け寄って来た。


「何で、来なかったの……?」

「忙しいって言ってただろ?」

「ボク、寂しかったよ……折角のドレスだったのに……」

「そう。で、何してるの?」


 素っ気ない相川に瑠璃はそれでも期待を込めて尋ねる。


「……似合ってる?」

「そりゃあねぇ……似合わない方がおかしいだろ。」


 その言葉だけで待っていた時間全てが報われたように笑う瑠璃。その言葉を受けた瑠璃は静かに手を伸ばして相川におねだりする。


「踊ってくれる?」

「……よろこんで。」


 何となく空気に負けた相川はそう答えて暗くなった夏の夜に踊るのだった。




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