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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
135/254

激闘の行方は

「ほぉ……さっき自分からバレないようにしろと言いながら自分の技の代名詞と言える技を使うとは……」

「ふん。あまり調子に乗らせておくのも問題だしな……圧倒的な敗北をその身に焼きつかせろ!」


 轟! 風を切る音を後に置いて権正は相川に肉薄する。対する相川は歪んだ笑みを浮かべて幾重もの攻撃を以てそれを迎撃した。


「……【呪禍滅全】以て発動せん! 【数え殺し】」

「『散れ、【桜雨】』……」


 言い切る前に放たれる暴風雨の如き権正の乱打。単純な軌道ではなく風に乗った桜の花びらのような移ろいがちな軌道をたどる攻撃に相川はどこか妖艶に見えるような笑みを浮かべて迎え撃った。


「【浸透烈破掌】っ!」


 多少のダメージなどお構いなしに受けるという気概を持って権正に一直線に放たれた浸透勁。これは不味いと判断した権正は攻撃を中断して引く、そう見せかけて間髪入れずに攻撃の手を変えて相川の攻撃を潰しにかかる。


「『零れよ、【梅月】』!」

「【真破烈倒双掌】!」


 浸透勁を繰り出していた右手が迎撃され、破壊されると判断した相川は右手を解き、左手を添えて別の勁を混ぜ合わせた上、物理的な螺旋の攻撃も合わせて双掌打に変える。互いの魔素と氣が練り合わされた攻撃はぶつかるや否や強烈なエネルギーを発生させて爆風を生み出し、辺りの目を逸らさせる。


 しかし、その発生源の二人は目を逸らすこと瞑るもなく続けて攻撃を行う。


「っ~……『舞え! 【菊水】』っ!」

「『祈りを済ませ鬼を消せ! 【死に業・鬼】鬼砕きぃっ!』」


 またも互いの拳から放たれる炸裂音。互いに譲らぬ攻撃だ。相川は魔素の通りが悪すぎて詠唱がキツイと思いながらもこちらからの反撃のために続ける。


「【鬼殺し】ぃっ!」

「ふっ! 『崩れろ、【牡丹雪】』!」


 相川の繰り出した攻撃を紙一重で避けきると更にキツイお返しとばかりに崩拳の極みとも称される彼の拳を繰り出す。それに相川は真っ向から応じた。


「【鬼神双破】!」


 三度かち合う両者の攻撃。最早人間の試合とは思えない状態に会場の装飾が余波に巻き込まれて壊れていく。そんなことなど二人には関係ないとばかりに両者の攻撃は更なるステージへと向かった。


「『落ちろ、【椿山】!」

「【鬼邪・殺し砕き】!」


 更なる衝突。しかし今度は打点がずれたのか互いに前方に突き進み、距離が生じた。それを受けても尚余裕を見せる権正と相川。静かに二人が構えに戻る……その時だった。権正の体に異変が生じる。


「くっ……」


 突如として体に術が切れる独特の虚脱感が襲ってくる。それを相川は見逃さずに振り向き様に権正にのみ聞こえるように飛び込みつつ尋ねた。


「おやおやどうかしましたかねぇ? まるで魔素が思いの外早く切れてしまってそろそろ若返っているのが厳しくなったとかそんな顔をしてますけど。」

「お前……まさか!」

「さぁ、決めさせてもらいましょうか。」


 権正が先程のような技を出すには相川の言葉に少し動揺し過ぎた。既に迫っていた相川。相川は嗤いながら決着の一打を放つ。


「【死に業・消】『円刃消隠』」


 放たれた一撃は権正の胸に吸い込まれるかのように命中した。まだ戦闘続行しようと思えばできなくはない物の、魔素を使えば子どもの状態ではいられない権正は投げ捨てられたボールのように地面を転がりつつ敗北を認めるしかないのだった。


「勝者、相川 仁!」


 審判の声にしばらく呆然としていた観客たち。一応拍手は送るものの最後は急に権正の動きが悪くなってしまい、呆気なかったなと微妙な感じになる中で相川は花道を下がり、控室へと消えて行った。





 その試合を見ていた大勢の観客たち。その中には当然遊神一門もいて、この大会の参加者である子どもたちはまとまって相川の試合を見て沈痛な面持ちで黙り込んでいた。


「あいつ……あんなに強かったのか……」


 奏楽がポツリと漏らした言葉。それはこの場にいた全員の気持ちを代弁していた。外部から見ても分かる程の凄さ。つまり対峙した場合はもっと巨大なプレッシャーがかかることは間違いないだろう。勝ち上がれば次に相川と対戦するのは麻生田おうだだ。彼は今試合会場で何を考えているだろうか。

 気持ちが沈むが、それと同時に自分だったらどう戦うかという図を考えて奏楽は気持ちに火を点ける。自分ならこうする。自分ならアレができると考え、強者が必ずしも勝者ではないと相川の弱点を把握しよう。そのために一番近い距離にいる瑠璃から情報を……そう思って奏楽が瑠璃の方を見ると彼女は息が止まる程妖艶な笑みを浮かべていた。


「る、り……?」

「…………あ……何?」


 思わず奏楽が声をかけたところで瑠璃は我に返ったのかいつもの世界を魅了せんばかりの可愛らしい顔に戻る。それに安堵した奏楽は瑠璃にどうしたのか尋ねる。すると彼女は再び笑いながら答えた。


「いや……よかったなぁって思ったの。」

「な、何が?」


 瑠璃から発せられる謎のオーラに少しだけ、ほんの少しだけだが気圧されながらも奏楽がその場から離れずにそう尋ねると彼女は再び艶然とした笑みを見せつつ答える。


「ボクがどれだけ強くなっても、大丈夫だって分かったから……これから、もっと……ね。」


 何故か背筋に悪寒が走った奏楽。しかし、次の瞬間には瑠璃も普通に戻っており奏楽もそろそろ試合前の準備に入ろうとその場を去る。残された瑠璃は再び笑顔で考えるのだった。


(ボクは、仁くんがいる限りもう一人にならなくて済むんだ……大丈夫、何しても、どうなっても仁くんなら受け止めてくれる……)


 最近は相川との組手も行っておらず、周囲とは差が開く一方で無意識の内にこれ以上は行くべきではないかもしれないと思っていた瑠璃。今、相川と権正の戦いを見たことでその無意識の重圧に気付いてその鎖を解き放った。


「よーし、まずは仁くんにお疲れ様-ってしないと!」


 既に今日の分の不戦勝は確定してしまった瑠璃はそんなことを考えながら相川を探しに行く。そこでふと、この大会の賞品が思考を過った。


(男子の部の優勝者と女子の部の優勝者は後期の後援祭でペアになって何かするんだけど……まさか、ボクと一緒に何かしてくれるために優勝をとかじゃ……ないよねぇ……)


 途中でそれはないかと言っていて自分で否定した瑠璃。それでもそうだったらいいのになぁと思うことは別に悪いことではないので期待しつつも相川に会いにこの場から離れるのだった。


 因みに、この会場で行われた次の試合は普通に麻生田が勝った。










「……相川。」

「おっと、こんにちは権正先生。見回りですか?」


 帰宅途中で会場を後にしようとしていた相川の下に大人の状態になった権正から声が掛けられる。相川はわざとらしく笑いながらそれに応じ、権正は苦り切った顔になった。


「……お前、さっきの戦い……」

「何か? 勝ちは勝ちですよ? 何か文句でもあるんですか?」

「……負けは負けだ。それは認めるが……もっとやりようはあっただろう? お前はまだ隠し技を持ってるはずだ……」


 権正の言葉に相川は愉快そうに笑う。


「ありますよそりゃ。【数え殺し】も『鬼消天決きしょうてんけつ』の内の『消』までしか使ってませんしねぇ……」

「武術大会なんだからそれら全てを使ってからでもよかっただろうに……」

「いや、魔力が減るのは嫌なんで。」


 だから吸収したと言外に告げつつ相川は悪戯が成功したように笑いながら続けた。


「2年前、瑠璃の保健体育の授業で丸投げされた恨みがあったんでねぇ……積もっていた仕返しポイントが嫌がらせ決行に届きまして。そこからプラスされた分を晴らしてやろうと……」

「まさか、お前、そんなくだらない理由で……?」

「さてねぇ? おっと、お迎えが来てしまったのでこれにて失礼します。」


 権正が何か言おうとしていたが瑠璃が走ってこの場に来ようとしていたのを見て相川はそれを口実にこの場をさっさと去ってしまった。




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