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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
134/254

激闘

「……あんまり長引かせるのも、アレだな……」

「ほぉ……すぐに倒せるというならやってみろ。」


 しばらく小技を使いながら戦っていた相川と子どもになっている権正だったが互いに有効打一歩手前の攻撃は与えられてもすぐに均されてしまう程度の誤差であり、相川はこれでは埒が明かないと考えた。


 そこで相川は権正を睨みながら速攻で決めるとばかりに口の中でキーワードを転がす。


「【αモード】……」

「ぬっ! お前、この世界でも魔素を……!」


 普段一切使わない魔素を身体に通して相手を瞬殺せんとばかりに動き始める相川。対する権正は自らが魔素の存在を知っていることを言外に口に出してしまうが尚も対応する。


「はぁっはぁっ! さっさと降参しろぉっ!」

「……誰がこんな面白い状態になった物を降りるかっ! 【魔氣発勁】!」

「!?」


 さっさと決めようと相川の方が本気を出したところ、権正の方も同じような技を使って来て相川は思わず猛攻を緩める。その隙に権正からカウンターが入った。


「っ! らぁっ!」

「チッ!」


 カウンターが綺麗に入る前に避けられないと判断した相川がどうせダメージを喰らうならそれ以上のダメージを与える! と蹴り上げ、それを察した権正は拳を振り抜く前に無理矢理引いて後退する。互いに睨み合うと権正の方から口を開いた。


「……どうした。お前は俺が扉を潜ったと考えたんだろ? なら、これくらいは想定内のはずだぞ?」

「使うとは思ってなかったんでねぇ……魔素が切れたらその時点で大人に戻って失格になるだろうに。」


 相川の返しに権正はシニカルに笑う。


「その前にお前を倒せばいいだけの話だ!」

「言うと思った!」


 再び激突する両者。これまでの打撃音とは異なる炸裂音、破砕音を鳴らしながらぶつかり、捌き、地面を踏み抜く。当たらなかった拳の風切り音が観客席にまで聞こえる程の応酬は騒いでいた観客たちを逆に静まり返らせた。


「凄い、もう凄いとしか言いようがありません……! 言葉にしようにも言葉が追い付く前に状況は変わっています……! 思わず、声を潜めてしまう真剣勝負から目が離せません……っ!」

「目で追える範囲ギリギリと言うレベルの攻防です。これは……どうしてこれまで表立たなかったのかが不思議なほどの隠れた実力者で……これ以上の攻防になるとなれば最早達人クラスです!」


 実況と解説の声が人体から発せられるとは思えない音の合間に聞こえて来るが誰もそれに耳を貸すことはない。観客全員がどれもが決定打となり得る攻撃の応酬に息を止め、固唾をのんで見入っていた。


 その中央となっている二人は無言で息苦しい程の濃密な攻防を行っては先に音を上げた方が負けと言わんばかりの近距離戦(インファイト)を繰り広げ続けている。

 権正が剛の拳。手足だけでなく肩などの体まで使う一撃決着の打撃主体の攻撃。対する相川の攻撃は柔の拳。同じく全身を使った攻撃だが打撃だけではなく投げ技、関節技も多用し、それら全てを渾然一体とさせた流れるような破壊活動を目的とした攻撃だ。互いにそれを意識させたところでスイッチを切り替えて攻撃方法を変えているものの、主なスタイルはこれに固定されていた。


「【肘拉ぎ砕き投げ】!」


 相川が権正の腕を取り、投げるモーションに入った途端に反転して肘を入れる……そう見せかけて腰、そして足の力で投げを続行。更には権正の腕を取った片手で関節を破壊しにかかった技で権正は壊されてなる物かと相川の投げを利用して飛び、二人の間に再び距離が生まれる。対峙する二人。遅れて大歓声が飛んだ。それを受けて権正は相川にフェイントをかけながら告げる。


「どうだ? これがお前が本来受けるべき賞賛だ……お前はDクラスなんかで終わっていい男じゃない!」

「いや、俺露出狂じゃないんで見られて喜ぶ性癖はないんですよねぇっ!」


 言い終わらぬ内に飛び込みながら右手から【螺刃貫手】を放つ相川。その手を取ることは難しく、流して避けるしかない技に権正は左側に身を浮かした。そこに相川の空いている左腕から肘撃が振り降ろされる。


「【雷肘斧らいちゅうふ】!」

「【破砕膝はさいしつ】!」


 権正は相川の攻撃を腹部にもろに受ける代わりに相川の顔に左膝を入れた。相川は右手を挟み込み頭突きと右手の掌底で威力をある程度緩和したがそれでも首に結構なダメージを負う。しかし、相川の左肘から流れるように繰り出された裏拳は権正の脇腹に命中し彼の息が一瞬止まったところに相川は追い打ちで左膝を振り上げていた。


「【破砕膝はさいしつ】!」

「ごぁっ!」


 権正の尾てい骨にクリティカルヒットした相川の膝。砕く気で蹴ったのだが流され、まさかの反撃とばかりに権正は地面に残していた右足を跳ね上げて相川の右肩を蹴り砕きにかかり、それを相川が避けたところで身の自由を取り戻す。


 そこまでの一瞬の攻防に相川は額に血の滲んでいる苦い顔で権正に尋ねる。


「……そろそろ降参してくれませんかねぇ……この大会って対象者12歳の小学生なんですけど知ってましたか?」

「この大会は毎年俺が出場し、卒業後に天狗にならないようにしている大会だ。師として易々と乗り越えられる壁にはなれんなぁ……」


 口の中を切ったのであろう権正が血を吐きながら獰猛な笑みを浮かべて相川をいや、この試合を食い尽くさんとばかりに見据える。相川は面倒臭そうにしながらもどこか狂気を感じさせる笑みを浮かべつつそれを迎え撃った。


「仕方ないですねぇ……流石に倒れた人間を勝者にすることはできないでしょうから精々叩きのめさせてもらうことにしますよ。」

「それでいい。師として弟子に越えられるのは何よりも楽しみだ。」


 そう言って思わず戦闘時では見せないような爽やかな笑みを浮かべてしまう権正の脳裏を過るのは10年前、彼が扉の向こうの別世界で恋に落ちた時の光景だ「しゃらくせぇ!」った。しかし、今はそれどころではないので彼はすぐに現実に引き戻される。声をかけようとしたが思考が飛んだその一瞬にも満たない間に相川の攻撃が幾つも命中してしまったのでそんなことしていたら無様に負けるかもしれないと権正は相手を倒すことのみに集中し直した。


 肉を打つ音。拳がぶつかり合って生じる人体とは思えない硬質の何かを金槌で打ったような音。全てに濁点が付くような衝突音。それら全ての音がスコールのように降り注いで激しく原始的な物を打つ音楽を奏でる楽団となりこの場を支配する。


 しばらくの音の雨が降り注いだ後、立ち位置を入れ替え続けていた両者は気付けば場外になっており、二人は再び中央に戻ってやり直しを強いられる。


「……そろそろ、魔力が切れそうだな。権正さんよぉ。」

「バレないようにしろと言っただろうが……その名で呼ぶな。」


 あまりの試合に我を忘れているのか、審判の再開のコールが鳴らない中で二人は小声で会話する。実況が訝しんでいる中でようやく審判が自らの役目を思い出したように動き出したところで権正は覇者の気迫を見せて笑った。


「そろそろ、決めさせてもらおうか。まだお前らが勝つには早い。」

「へぇ……」


 審判のコールと共に相川が再び前に出る。しかし、権正は余裕の笑みを浮かべながらそれを避け、静かに、だが力強く告げる。


「咲き乱れろ。【百火繚乱】」


 それは権正の必殺技とも言える技の宣言だった。




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