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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
133/254

ベスト8決定戦

 色々あった昨日だが、今日は面接などは一切入れずに切り替えて試合のことだけに集中することにして朝から気合を入れて準備した。


「あっ、仁くん珍しいね。どーしたの?」

「今日はちゃんとアップしておかないと相手がきついからねぇ……」


 朝稽古をしていた瑠璃に対して軽く相川は運動する。瑠璃も試合があるはずだがいつもと変わらぬくらい激しい運動をしているのを見て相川はそんなに動いて大丈夫か尋ねた。


「ん~……だって今日、ボクの相手棄権しちゃうみたいだから……折角お父さんたちも見に来てくれるって言ってたのに。」

「……まぁ瑠璃の相手はきつそうだしなぁ……」


 相手の気持ちも分からなくはない。しかし、瑠璃が騙されているのではないかと尋ねると瑠璃はその可愛らしい顔に少し怖い笑みを浮かべて首を横に振った。


「そんなことしても無駄だよ? だって、これ位の稽古したって勝てるもん。」

「……さいでっか。」


 自身満々な瑠璃さんを見て相川はアップを終えて食事に入る。ドーピングの類は禁止されているが薬膳料理は禁止されていないので抵触しない位のレベルに抑えて相川は食事を摂った。


 食事が済むと相川は瞑想し、相手の出方を考えるが情報が少なすぎるためすぐにそれを止める。目を開くとすぐ近くに瑠璃の愛くるしい顔があった。


「……何?」

「今日は真面目なんだなぁーって。応援しに行くね!」

「……俺初戦だから無理だろ。」

「ボクは今日午後からだよ! 応援行けるね!」


 別にどちらでもいいが、瑠璃は楽しそうだったので水を差すこともないかと何も言わずに相川は指定されている服を持って会場に向かった。






 試合会場ではすでに相手が待ち構えており時間通りに来たはずの相川が少し遅れたような状況になっていた。瞑想していた男は相川を見てニヒルに笑う。その笑みは絶対的な自信を漂わせていた。


(相手が奇襲するならこっちはもっと早くに奇襲してやるか……長期戦は面倒そうだし。)


 相手の様子を窺って相川は試合開始の声と同時にどう出るか考える。相手の方が反応が早かった場合はこちらは迎撃に出る。そう決めて試合開始のブザーが鳴るその時を待った。


 そしてその時はすぐに訪れる。


 ブザーの音が鳴るとほぼ同時に無挙動作。全くの予備動作を備えない動きで地面を滑るように、映像にもほぼ映らないほどの速さで踏み込んだ相川は相手の腹部に猛烈な一撃を繰り出す。


「【陰動・影貫】!」


 しかし、観客たちの目にも止まらないその強烈な攻撃は相手の下へは届かずに空を切ることになる。それでも相川は全く焦らずに身を翻して避けた方向に体を入れ替えつつ裏拳を繰り出した。


「【裏円撃りえんげき】!」

「っ! 【流水】!」

「んぅっ?」


 今度は当たると思っていた攻撃だが、化勁により流される。そんな事よりも相川は相手の声を聞いたことの方が驚きが大きかった。振り抜いた拳の反動で相手と真正面に立ちつつ尋ねる。


「……え、先生?」

「何のことだ? 試合中にお喋りとは余裕だなっ!?」


 勿論喋っているからといって攻撃の手を緩めるような相川ではない。相手の虚をつく動作で踏み込むと今度は【雷動】で相手のみを竦ませる音と共に猛進し、順突きを放つ。


「っ、今度は返すぞ! 【回転肘撃(ソーク・クラブ)】!」


 順突きをそのまま流しつつその避ける転身の勢いを加味した肘打ちを相川の後頭部に叩きつける技を繰り出す男。だが相川は相手の残っている脚を蹴り飛ばして相手の体勢を崩す。それを躱すために相手は肘打を中断し、後方に下がった。そこで一息ついたのか実況が騒ぐ。


「い、息もつかせぬ攻防でした! 多数のフェイントが入り乱れ、本命を悟らせない攻防。目に映ったのは最後の攻防のみ! 両者これまでの戦いからは分かりませんでしたが相当な実力者です!」

「えー、フェイントが入り乱れているということはなかったんですよ。アレは氣当たりによる残身で本当はあなたの目に映った攻防だけだったと……」


 実況と解説の話が始まるが相川はそれよりも気になることがあり、フェイントを止めることなく、相手の攻撃予測を立ててそれを躱しながら尋ねる。


「……いや、どう考えてもあなた権正先生でしょ……」

「どう考えても? 権正と言う人は知らないけど先生と言うからには大人でしょ? 俺のどこが大人に見えるのかな?」


 相手の体の動きから予測される攻撃箇所を避け、立ち位置を入れ替えながら会話する二人。早朝で、しかも両者ともにこれまで奇襲しかしていなかったためテンションの上がらなかった観客たちも今では釘付けになっていた。


「妙な気配がずっとしてたと思ってましたが……あんた、扉を潜ったんですね?」

「……問答についてはこの勝負が終わってから幾らでも聞いてあげよう。お前の意識が残っていたらの話だけどな!」


 今度の戦端を切ったのは権正の方だった。迎撃と距離を測るために出された相川の拳に対して入り身で死角に入り込むと当て身代わりの、それでいて強烈な一撃を相川の蟀谷に叩きこむ。


「っ!」


 しかし、それは一連の動作をほぼ完璧に捕捉し、予測していた相川の頭突きによって迎え撃たれ、逆に権正の拳にダメージが入る。その瞬間に逆に相川の方から権正と思われる男へローキックと見紛う勢いの足払いが繰り出された。


「っく。」


 だが、相手がその足払いにかかるようなことはなく急な切り替えでバランスを悪くしていた相川を捕まえると男は相川を投げるモーションに入る。重心のバランスが崩れる感覚に襲われた相川は蹴りの勢いを更に強めて投げられるのは諦めても相手にコントロールされることはないように振り抜き宙を舞い、着地する。


 その時既に相手は相川の眼前にいて拳を固めていた。それを視認すると同時に相川は迎撃に出て相手の突きの威力が高まる前に受けることでその突きを弱め、こちらの移動エネルギーの乗った突きを腹部に捻じ込む。それは読まれていたのか突き出した手とは異なる死に手であったはずの腕が相川の攻撃をズラして両者ともに有効打にはならない。そして場外が近かったため、どちらかの攻撃パターンに入ったと同時に場外に逃げられても困ると中央に近かった権正の方が距離を取った。


「よくそれで誤魔化せると思いましたねぇ……」

「うるさいな。さっさと中央に来い。それとまだバレてないんだから不自然な真似は止めろ。」

「はいはい……」


 二人の動作が止まることで観客たちは眠気も吹き飛ばしてテンションを上げる。次の試合が遊神流の門下生である麻生田おうだだったため、この場に既に来ていた瑠璃の父、遊神も思わず唸るほどの試合の展開だった。


「あやつ、これほどまでの実力を……」


 そして思い出すのは過去に親戚たちが集まる中でフェイント塗れで投げられた苦い思い出だ。まだ子どもな上、稽古も碌にしていない、誰かに師事しているわけでもない糞ガキだと侮っていたら虚仮にされてしまった。


「山椒は小粒でも辛いか。舐めるわけにはいかんかったな……」


 もしこの後、彼が望んで武を極めたいと言うのであれば過去の遺恨は水に流して弟子に取ってみたいななどと思う遊神だった。




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