表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
132/254

大会初日が終わって

「【雷動・瞬影】」


 2回戦の相手、木下との間に繰り広げられた戦いは言葉で表すならその一言だった。要するに歯牙にもかけずに悶絶させて会場を降りたのだ。相手が対策していた奇襲に対して、奇襲に反応できないくらい更に速い奇襲をかけるということで解決した相川は次の対戦相手のことを少しだけ観察してから面接に行こうとその場に留まる。


 しかし、その行動は全くの無意味だった。


「……こりゃ、俺と同じようなことしやがって……」


 相川が降りた後の会場では中性的な顔立ちをした美少年が相川と同じような動作で相手を開始1秒にも満たない時間で倒し切り、髪をかき上げて笑っていたのだ。

 その視線は相川を見た瞬間に獰猛な肉食獣を思わせるものへと変わり、視線を周囲の戻した彼は何事もなかったかのようにして会場から去っていく。


(……うーん、結構困った。だが次の試合までは勝たないといけないんだよなぁ……本のために。その次とかならまだよかったんだが……)


 対戦相手が思いの外強そうで面倒臭いなぁと思いつつ相川は溜息をつき、相手の動きの癖を少し考えながら迎えに来ているはずの犬養の車を探して移動する。


(……あの動きというか拳の発し方、なーんとなくだが権正の野郎の古武術に似てる気がするんだよなぁ……まぁ見たことない相手だから対策も打てなさそうだ……チッ!)


 相川が苛立ちながら会場から離れるように移動しているとそろそろ出番が来る奏楽が外に食べに行っていたところから試合会場へと足を運んでおり、そこにはちょうど犬養もいた。


「あ、社長。お疲れ様です。もう移動なされますか?」


 試合会場の方から移動していた相川のことに気付いた犬養が声を上げると釣られたように奏楽も相川の方を見て犬養と交互に見る。相川は少しだけ楽しそうに笑った。


「奏楽はまた新しい女を口説いて……」

「なっ、違う! 生徒会の運営サポートをしてたらこの方が男に絡まれていてだな。」

「はいはい。言い訳は瑠璃にしてやれ。」

「……というより、この人お前の関係者だろ? お前こそアレじゃないか。俺に色々言うくせに……」


 すらりとした長身のスレンダー美女の犬養。奏楽はクロエのことも思い出して相川には異性関係のことで注意される筋合いがないと言わんばかりの視線を向ける。それに対して相川は首を振った。


「誰彼かまわず魅了してはファンクラブと言う名のハーレムを作るお前と一緒にするな。犬養さんは秘書だよ。これから仕事だ。」


 奏楽は疑わしげな目を相川に向けて犬養の反応を窺い見る。彼女はいつもの無表情を貫いておりどのようなことを考えているのか一切わからなかった。


「あ、今じゃあ口説いて良いじゃねぇか邪魔するなとか思っただろ?」

「ば、そ、そんなこと思ってる訳ねぇだろうが! お前の所為で瑠璃に変な誤解されてるんだからな! お前が責任もって瑠璃の誤解解けよ!」

「……あ、そろそろ時間じゃね? 行った方が良いと思うぞ。」

「約束しろぉっ!」

「俺も時間だわ。犬養さん車出して。」


 喚く奏楽のことを煽って適当にあしらい相川は犬養の車に乗り込み、出発する。奏楽は次の試合で八つ当たり雑じりのことをしてしまい後で自己嫌悪に浸るのだった。




(……俺があれだけ玩具にしたらいつもの奏楽だったら試合の時に覚えてろよとか言うもんだが……もう諦めたのかねぇ? それとも、前に高須さんが言ってたこの大会で優勝は出来ないとかいう何かが係わってるのか……)


 移動中の車内で相川はそんなことを考えていた。しかしながらその具体的な理由について考える前に目的地に着いてしまい思考は中断させられる。


 少しだけ雲がかかって風が若干強めに感じられる中で事務所に移動するとそこにはまだ面接者は来ておらず、面接の為の別室に移動する前に受付嬢に来たら通していいと伝言すると犬養と共に別室待機した。


「……次に来る奴はまぁ雇ってもいいんだが……こいつ入れると多分会社が大きくなるんだよなぁ……」

「やる気と能力が一致している上にやる気が凄いですからね。」

「……俺はやる気ないのに。」


 社愛精神が強く、所属意識も高かった男のことを思い出して相川は迷惑そうな顔をする。だがしかし、その会社愛の強かった彼がその就職先を変える程の何かがあったことを考えるとそれを聞きたいと思うのは仕方ないことだ。


(……でもここまで人材流出して大丈夫なんかねぇ……? 一応、7年位頑張って作った会社だし、去年の留学先のクラスメイト達の会社と締結した契約とかあるから頑張ってもらいたいんだが……)


 酷くなっているとは聞いている物の、短時間とは言えそれなりに頑張って作った会社なので基盤が揺るがされることはないだろうと思っていたのだが心配になって来た相川。まぁもう捨て去った物なので良いかと考えを改めている所に件の彼がやって来た。


「はいどうぞー」

「失礼します。高崎 信吾です。よろしくお願いします。」

「はい。」


 面接が始まった。最初の自己紹介から始まり特技、その特技がどう我が社に役立つのか、将来のビジョンをどう抱いているのかなどどうでもいいことを済ませると相川は本題に入る。


「それでは前職を辞めてこの会社に来ようと思った理由についてお尋ねしてもよろしいですか? あぁ、もう面接は終わりということにしますか。それで……前の会社のことが気になるんだけど、良い噂聞かないけどどうなってるの?」

「はい……」


 切欠は人手不足だったらしい。それでも社員たちがあの人たちが居なくてもやっていけると言うところを見せようと盛り上げていた間はよかった。


「ですが、社内システムが変わりまして……」


 それまでは向こうから共同研究の申し込みがあったほどの人気があったのだが、それが少なくなると今度はこちらから出なければならないとなり営業職のやることが変わった。それでも、その仕事のやり方もあったのでその通りにやればいいとやっていたのだが、新しく入ってきた上役からシステムの変更が申し付けられる。


「何としてでも取引を結びつけること。お客様第一に考える。無理という物を作らない。やればできると考えてやり方を自分で考えて自立した行動を。という物を心掛けるようにして社内の雰囲気は悪くなり始めました。しかも、それまでの体制について喋ると上役から叱責が飛ぶんです。」


 自分はエリートであり、小学生如きが考えたゴミみたいなものに従うよりも自分が考えたモノが絶対に正しい。お前らは馬鹿だから分からないだろうがなという雰囲気を漂わせて叱責が飛び、大手の無理な受注を簡単に引き受けて技術者たちに後は丸投げ。無理と言われるとそれをどうにかするのがお前たちの仕事だと切り捨て、技術職との対立を深める。


「すり合わせをしましょうと言っても俺は忙しいんだと返されるので、話し合いをして貰うためにある程度私たちで仕事を回すようになるんですが……やればすぐに終わることを後回しにして人脈作りという名の遊びに出掛けているので終わらなかっただけで仕事自体は少ないことを知りました。」


 給与は増えないどころか減り、仕事は増え、無茶な受注でも何が出来ないのか理解していないので簡単に引き受けてその口コミで質の悪い客が増える。上司の理解はなく、他所との溝は深まる一方。


「もう、あの会社に将来性はないですね……」


 心血注いで短時間であれだけ大きくした会社の行く末を考えて少しだけ虚ろな笑みを浮かべながら彼はそう呟くのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ