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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
130/254

計画

 今年の6年生たちの大会がそろそろ迫るかなと思う程度に近付いた頃。今年は大会に参加することに決めていた相川がそれに向けてトレーニングをしていると電話が鳴った。表示された連絡元は犬養。相川の会社の側近だ。


『社長。例の計画が実現されました。』

「おっ……そうか。」

『……本当によろしかったので?』

「うん。そろそろ切り離しておかないと面倒なことになりかねなかったからねぇ……」

『畏まりました……では、私は会社の方で準備をしております。』


 その言葉を聞いて相川は通話を終えてシャワーを浴び、外に出る準備を整えた。そこで相川の携帯がもう一度鳴る。今度は甘井。相川の会社に行政の方から連携協定監査役。平たく言えば天下りして来ている男からだ。


『やぁ相川くん。大事な話があるから今から会社に来てくれるかい? 重大なことだ。』

「分かりました。すぐに向かいます。」

『うむ。待ってるよ。』


 通話を終えた相川は授業を受けに行っている瑠璃へ置手紙を残して外出し、自らが立ち上げた株式会社めいしゅへと飛んで行った。










「社長、こちらになります。」

「おう。」


 相川が会社に着いた時、社内は慌ただしい雰囲気が漂っており相川はそれを見て案内役として出てきた犬養に尋ねる。


「どうなってるんだ?」

「……情報が洩れました。いえ、正確には漏らして派閥を生み恐怖による統制を謀っているようです。」

「ふぅん……」


 案内されるままにエレベーターに乗り、重役たちが待つ会議室へ向かう。そこには既に殆どの重役、そして各関連部署の幹部が揃っており相川が入って来ると無言の重圧をかけて来た。


「……それでは社長が来たことで全員揃いました。予定よりも早いですが会議を始めたいと思います。」


 重圧の中で相川の隣に秘書的な役割を果たす犬養がそう告げるとまずは相川に電話をかけて来た男、甘井が口を開いた。


「相川くん。今日君が我が社に来た時どのような印象を受けたかね?」

「慌ただしい感じでしたね。」

「ほう、それもそのはずだ。何せ自社株の保有が全株式の半数を割っていたのだからね! どういうことか説明してもらおうか!」


 碌に説明も受けていない状態からいきなり何を言ってるんだろうかと相川は思うが、彼らは別に説明が聞きたいわけではない。単にこの問題を相川に押し付けて詰り、退陣させたいというだけだ。退陣は相川も別にいいと言うよりむしろ望むところのだが、責任追及の時だけ仕事をする彼らがムカつくので一応説明に入った。


「まず、私が個人で保有していた株式が現在、めいしゅが発行していた株式の約30%になっています。」

「そういった話ではないのだよ。この様な事態に陥ってしまったこと自体について君から単刀直入に説明を聞きたい。」

「簡単に言ってしまえば社内に手引きをした人がいますね。」


 ざわめく室内。しかし、甘井は狼狽えずに相川を見据えた。


「どういうことかね? 仮にそうであるならば君の任用責任にもかかって来ると思うが。」

「……まぁ、私は今回の一件を受けて代表取締役を辞職しますが。」


 その言葉を引き摺り出した時点で甘井はこれだからガキは……と内心で嘲りつつも勝利を確信し僅かに気を緩ませる。最初の予定では重大な問題であるにもかかわらず把握していなかったことから攻め入ろうとしていたが相手が勝手に自爆してくれたのでもう用はない。


「皆さん、社長はどうやら重荷に耐えかねていたようです。いくら麒麟児と言っても小学生ですから無理もありません。ここに決を採り本人の意向を受け入れるかどうか考えて見てはいかがでしょうか。」


 甘井の言葉に相川は茶番だなと思いつつも重役や幹部たちを見る。反対意見は出なかった。


「では、ここに彼の辞職を受理することを決定します。相川社長。長い間お疲れ様でした。」

「はい。ではこれで……」


 相川は優雅に一礼して見せて退室する。会議室内では中高年が主なメンバーの反相川派がようやく生意気なガキが消えたと談笑を開始する。そこに若手の幹部たちが発言の為に挙手した。


「ん? どうしたのかね小金井くん。」

「あの、私も辞職させていただきます。そしてこちらが我々12名の辞職願となります。」

「……12名? それはどういうことだね?」


 談笑ムードから一転して冷たい空気になった甘井に期待の若手、そしてベテランの一部から辞職願が叩きつけられる。


「そしてこれから私たちは有休に入りますので失礼します。」

「ま、待ちたまえ。君たちは一体何を考えているのかね? 急にそれだけ抜けられて引継ぎもせずに……社会人としての自覚はないのか!」


 途中で怒りが込み上げて来たのか語気を荒げ始める甘井。それに対する退職願者たちの視線は絶対零度だった。


「あなたこそ自治体と協力して来た社長に対する仕打ちを鑑みてみたらどうでしょうか? 私たちの後はあなたが株式を買い漁らせた親戚の方々にでも任せたらいいのではないですか? どの道、そのようにするつもりだったようですし。」


 思わず呻きかけた甘井。しかし、顔には出さずに先程の怒りの仮面を身に纏いつつ押し殺すように告げる。


「誹謗中傷も甚だしい……お前ら等いなくてもこの会社は回る。後悔しろ。この近辺、いやこのめいしゅが関係した会社でお前らを雇うところはないぞ!」

「ご心配なく。すでに就職先は決まっておりますので……」


 何故か薄笑いを浮かべながら部屋を去っていく12人。怒り冷めやらぬ甘井だったが、一先ず目的だった会社は一族の物になったのでそれでよしとするかと思考を切り替えていると電話が入った。電話先の相手は格安で株式を買わせた親戚の一人だ。


「康弘か。どうかしたのか?」

『どうかしたのかじゃないですよ。めいしゅの株価が下がり続けてるんですが!』


 しばし甘井は絶句し、そして相川のことを思い浮かべて血管を表皮に浮き出さんばかりに怒気を発しながらも感情を無理矢理押し殺して事後処理に当たるのだった。



 その後、売れるだけ株式を売った相川によるショックでめいしゅは大打撃を喰らい地元の企業に対しても落とす金がなくなり、更には貸し倒れのリスクを考えられて信用取引にも支障が生まれ、資金を生み出すために従業員たちのボーナスカット、給与の見直しが入ることで地域経済の金の巡りは相川が来た時以前の水準に近い物に戻ってしまった。

 その上、相川以下幹部によって抑えられていた地下組織たちがこれまでの復讐とばかりに蠢き始めて治安も悪化。それにより住民が転出超過になって税収が低落。めいしゅの納税により支えられていた地域の行政のサービスの質も低落し負担が増えることで更に地域社会が崩れて行くことになる。


 それを予感させるレベルの崩壊の始まりを見つつ相川は溜息をついた。


「あーあ。まぁ知り合いは大体ついて来るらしいんだけど……俺もう仕事したくないんだけどなぁ……」


 元々、相川が欲しい物を創るために小さな工場くらいはまたやろうと思っていた相川。新事業では行政にストップをかけられていた物も独立した企業ということで新天地で楽しく創れると考えていたのだが、ついて来た人々たちのことを考えて規模をある程度見直しする必要に駆られてぼやいていた。


 そんな激動の時間を相川のすぐ近くで眺めていた瑠璃は相川が居た町の変貌に身震いする思いで考えていた。


(あの会社は、仁くんがずっと一緒に居て出来てた物……)


 しっかりとした大きな会社だと思っていた瑠璃。しかし、相川が抜けるだけでまだ健在ではあるものの大きく傾いてしまった。


(ボクだって、自分じゃしっかりしてると思う……けど。)


 もし、相川が居なくなったらどうするんだろう。瑠璃は賑やかだった町が少しずつ静かになる様子を見て自分を重ね、寒気を覚えたのだった。




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