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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
129/254

遠足

「……今年の遠足は普通に近場なんだな。」

「うん! 奏楽君たちがあんまり遠いのもアレだからって考えてくれたの。」


 彼氏自慢かと思いつつ相川は当日になってようやく目的地を知った遠足でそう呟いていた。因みに現時点でペアである6年生についても初めて知り、相手が瑠璃だと知って何だか作為を感じた。


(まぁ、現時点で彼氏自慢している時点で仕組むなら奏楽とペアになるようにしてるはずだろうし、権正がそれを許すわけないから仕組んではないだろうけどな……)


 大方権正によってつけられた監視役の様なものだろうと思いつつ相川は下級生たちを見る。視線を受け取った下級生たちの反応は身を竦ませて視線を逸らすか敵愾心の籠った視線を返されるかだった。


「6年なのにDクラスとか……ださっ……」

「だ、ダメだよそんなこと言ったら……Dクラスの悪魔王だよ……」


(……どっちにしろ、碌なもんじゃないな……)


 声を潜めて4年生が会話をするのを盗み聞く相川。何故、悪魔王などという称号が付いたのか不明だが出発の時間が近付いていたので気にしないことにして下級生にまとわりつかれている瑠璃に声をかける。


「そろそろ行くか。」

「うん。じゃあ逸れないように同級生の子と手を繋ごうね~? こんな風に。」


 指示を出して相川が何か言う前に続く言葉を急速に告げて瑠璃は相川の手を掴んで指と指を絡め合わせる所謂恋人繋ぎを披露する。


「……百歩譲って手を繋ぐのはいいとしても普通に手を繋げばいいだろうに。」

「じゃあ皆は普通でいいよ~ボクたちはこうやって歩くから。」


 相川は瑠璃の指を砕こうとせんばかりに一瞬力を入れたがそれでも放さない瑠璃にもう仕方がないと諦めた。そうしていると5年生の女子が楽しげに目を輝かせて瑠璃と密談をして盛り上がる。


「……どうでもいいから行くぞ。」

「じゃあみんな出発!」


 先頭に5年生から1年生までを年次に並べ、最後に6年生の相川と瑠璃が並んで出発する。近場と言っても片道20キロはある道のりで瑠璃は1年生と楽しく喋っていた。


「ねー瑠璃さんはどうして女の子なのにボクって言うのー?」

「それはねぇ、ボクは男の子みたいに頑張らないといけなかったから小さい頃からそう言うように教えられてきたんだ。ちゃんとした場所で偉い人みたいな大人の人たちと喋ったりするときは私って言うよ。」


(……後、瑠璃の可愛さにやられた変態どもにある程度自制が効くように男のフリをさせられてたという裏事情もあるがな……)


 瑠璃の母親である妙からの情報を心内で足しておく相川。そろそろ左手は放してもいいのではないだろうかと思ったが瑠璃の柔らかな手は相川の手を逃す気配はない。


(何でこんなことを……あぁ、そう言えば逃げ出した前科があったか……チッ。権正め余計なことを……)


 霊峰で霊氣の洞窟を見つけた際にしばらく休学したことを思い出してそれの所為かと相川は心中で舌打ちしておく。今回はそんな面白い場所などないので寄り道をすることもないだろうに無駄なことをと思っていると1年生に少し疲れが見えて来ていた。


「そろそろいったん休憩にしようか。」

「え? あ、うん。そうだね! 公園が近くにあるからトイレ休憩も兼ねてそこに行こう!」


 相川の言葉に理由を探して1年生に目が向いた瑠璃はすぐに相川に同意してコースを少し変える。5年生の男子が相川がへばったのかと薄い嘲笑を浮かべるが相川は気にせずに移動した。すると瑠璃が相川に耳打ちする。


「ねぇねぇ、そろそろ一回怒ったら?」

「お前に? 放せって?」

「何でボクに怒るのさ。あの子だよ。塚地くんだっけ? さっきから仁くんのこと馬鹿にしてる……」


 一瞬だけ活神拳とは思えないような視線を塚地に向ける瑠璃。しかし、正直相川的には今現在瑠璃と手を繋いでいることの方が不快指数が高い。パーソナルスペースの侵害が著しく、歩く時に肩がぶつかると進行妨害を受けている気分になる。


「気にしてないならいいけど……」


 公園に着く頃にポツリと呟く瑠璃。下級生たちがトイレに行ったり自動販売機で飲み物を買ったりする中で上級生たちは公園のベンチに腰掛けて下級生たちがどこか行かないかどうかを見ておく。


「……休んでる時はよくないか?」

「手? もうすぐ出発だしいいじゃん。」


 無言で手すりに叩きつけようかと思ったがそんなことすれば自分の手も痛い。そろそろ手と手の間に湿気が溜まって更なる不快感に襲われるだろうと思いつつ相川は自分だけ嫌な思いをするのは嫌だったので瑠璃と手を組んだ状態から逆の手まで絡ませて腕を組んでみた。


「えっ、あっ、ちょっ……皆見てるよ……」


 しかし、帰って来た反応が芳しくなくすぐに断念して瑠璃を解放する。瑠璃は残念そうだったが周囲の男子からは変な尊敬の目を向けられ女子たちからは興奮の声が上がる。


(……結果的に俺だけダメージを喰らった状態か。)


 奇妙な敗北感を覚えて相川たちは休憩をしばらく取った後移動を再び開始する。


「瑠璃さん、今年の大会に出ますか?」

「うん。出るよ。」

「お、応援しますね! 頑張ってください!」


 1年生女子と瑠璃の会話を聞いて1年生ペアの男子も相川に尋ねた。


「怖い人も出るんですか?」

「……怖い人って俺か?」

「あっ、その、ごめんなさい……権正先生が危ないから気を付けておきなさいって言ってて……」


(あいつ本当にお礼参りが必要らしいな……)


 そんな内心はさておき、相川は後輩の質問に答える。


「はぁ……一応出るよ。」

「えっ! 本当に? 去年まで休みだからって言って観戦にも来なかったのに!?」


 相川の答えに反応したのは瑠璃だった。相川は胡乱な目を向けるが捨て置くことにして後輩の方を見ると彼は何故か嬉しそうだった。


「頑張ってくださいね!」

「……えー……まぁある程度までは進むがそれ以上だと日程の都合が合わないんだよね……」


 無垢な視線を曇らせながら相川は事実を告げておく。瑠璃もその辺は気になったが1年生のフォローに入るために質問は中断してなるべく盛り上げて目的地を目指した。


 一行が目的地に着くとそこには見張り役の権正が目を光らせていた。相川は逃げやしないのに無駄な労力を延々と払ってろと思いつつ見晴らしのいい場所で食事をすることにした。


「うわ~お兄さんとお姉さん、お弁当手作りなんですね! 美味しそうです!」

「このお弁当ね、限定で美味しいんだよ? ごめんね、あげられなくて……」


 自慢するだけしておいてあげるつもりはない瑠璃。相川は弁当の中に入れたおかずは手作りである若鶏のから揚げと玉子焼き以外は冷凍食品やレトルトなどを駆使して全て違う物を入れていたので同一作者であることはバレないだろうと思いつつ食事に移る。瑠璃は本当に美味しそうに食べてくれるので作り甲斐はあった。


「これ~ボク、この味好きなんだ~」

「へ~ちょっと食べてみても……」

「ごめんね?」


 絶対にあげないらしい。弁当箱を見て瑠璃が作った物だろうと予想して食べたがっている後輩たちだが相川には何となく話しかけづらいので瑠璃に声をかけるが瑠璃は絶対に何もあげない。あまりしつこいのもアレだろうとやめると雑談に入り、相川と瑠璃の仲の良さにお父さんとお母さんみたいと言う評価を受けて瑠璃は非常にご機嫌な遠足をすることができたようだった。




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