6年生
相川はついに小学校の最高学年、6年生に進級した。奏楽をトップにした生徒会が君臨する今学期。遊神一門が学校をよりよくしようと蠢いているが相川は特にやることはない。今は薬草や霊草の新芽を摘んでいた。
「はぁ~……今年は収穫したら新作は植えないからなぁ……花壇が寂しくなっていく。」
卒業のことを考えて来シーズンの収穫はないと植え替えの物はなしに。また根付いている分は卒業と同時に持って行くかと考えつつ野草として生えていた物や学校に予めあった物たちなどは今年のこの収穫で最後かと考えて木の幹などを撫でていく。
「ま、お疲れ様でしたってところで。帰るか……」
ようやく一人住まいになった自宅へ多種多様な収穫物を持ちつつ帰る相川。するとそこには大量の荷物と思われる段ボールが置いてあった。それに心当たりがない相川は爆弾かな? と思いつつ先にそれらに近付かないようにして2階へ跳ね上がり部屋に薬草類を置いて防護服を身に纏い下に飛び降りる。
「……よくわからんが……妙に嗅いだことのあるいい匂いがすることから考えるに……何故瑠璃の私物がここに?」
爆弾ではないことは判明したが、何故ここに瑠璃の私物と思われる何かが大量にあるのかは不明だ。相川は要らないゴミだから処分して欲しいのかな? と思いつつも流石にいきなり灯油をかけてファイアすることはダメだろうと瑠璃に電話することにした。
「……あ、瑠璃? お前今何してんの?」
『ボク? 今何か1年生の子たちがいっぱい来るから倒して逃げてるよ。どうかしたの?』
何やら騒がしい電話先。相川は忙しいだろうと掛け直すことにした。
「忙しそうだな……いや、何か大量の段ボールが来てたから……」
『あっ! もう届いてた? じゃあ今から帰るね!』
「え?」
相川が瑠璃の言っている意味を理解する前に電話が切れた。匂いで分かったが、家の扉に一番近い段ボールには送り主などが書いてある紙が貼ってあり普通に瑠璃の仕業だと分かった。
「……何か嫌な予感がする。」
相川は瑠璃の発言が今から行くではなく帰るという辺りに妙な違和感を覚えた。しかし、来なければ話も始まらないと一先ず薬草や霊草、それから樹皮に鉱物などを焼いたり煮たり、炒ったり蒸したり乾燥させたり酒につけるなどそれぞれに適切な処置を施しておく。そうしていると程なくして瑠璃が現れた。
「ただいま!」
「……あぁ、やっぱり住む気なのか……」
「そーだよ? クロエちゃんが居なくなったらいいって言ってくれたよね?」
察した相川と忘れてたの? と言わんばかりの瑠璃。相川は行く当てがあるのならば住ませないと思いつつ尋ねる。
「瑠璃の部屋は?」
「解約して来たよー。んしょ。ドア開けて~?」
この学校の寮の規則に従うのであれば、部屋を取り直すには最低でも半期は待たなければならない。要するに行き場所はないということだ。相川は家の扉を開きながら溜息をつく。
「……お前、絶対にウチに住んでることを誰にもバラすな。尾行されるのもダメだ。」
「え? うん。それはいいけど……何で?」
一先ず玄関からリビングに繋がる廊下に荷物を降ろして瑠璃が相川に尋ねると相川は何故こいつには自分の影響力に対する想像力が欠如しているのだろうかと思いつつ答えた。
「鬱陶しいのが増えるからだよ。仮に誰かにバレたらその時点で問答無用で追い出す。相木か奏楽の部屋にでも泊めてもらえ。」
「……バレなきゃいいんだよね? わかった。」
何でクロエの時は……と思いかけてそう言えばこの家については在学中誰にもバレてないんだったと思い出した瑠璃はその条件で納得しておく。対する相川の方はもの凄く困っていた。
(……クロエはDクラス所属だったから近くにある寮の自治権を少々弄らせてもらったらすぐに何とかなったが瑠璃は特Aクラスで部屋にいた前提がある……こいつ本当に邪魔いな……)
別に校則などで決められているわけではないが奏楽や権正などが五月蠅そうだ。最悪のケースを想定する場合は学校外の遊神のことまで考えなければならない。上機嫌な瑠璃を尻目に相川は溜息をつくのだった。
しばらくして瑠璃の引っ越し作業が一段落すると相川は瑠璃に使っていい部屋と家の機能を教える。特に罠などは命に係わるのできちんと説明し、瑠璃も理解したようだ。そんな瑠璃だがどうも気になったことがあるらしい。
「ねぇ、何でベッド同じじゃないの? 前は同じだったはず……」
「……一昨年辺りにはもうベッド2つ準備してあったよ。何? お前まだ俺と一緒に寝ようとか考えてたわけ……?」
相川が何こいつという視線を向けると瑠璃は何で? という顔で頷いた。
「そりゃ、うん。だって、そういうものじゃないの?」
「どういう物だか知らんが普通はそういうものじゃない。ちゃんと自分のベッドで寝るように。」
「でもお父さんとママは一緒のベッドで寝てたよ?」
瑠璃の家の事情を話されても相川は困る。何でこいつこんなに異性関係に関する知識が……と考えた瞬間に彼女の父親の顔が思い付いたので本当に不憫だなと思いつつ拒否する。
「…………それはそれ。これはこれ。あー……そう。そうだ。俺と瑠璃は生活リズム合わないからダメ。瑠璃はそろそろ大人に近づくんだから、みだりに異性とくっついたらダメ。分かる?」
「うん。みだりにはダメなんだよ。ちゃんと相手を選ばないとダメ。」
相手を選べばいいと言う問題でもない気がした相川は瑠璃の発言を正しく否定しようとして何かもう面倒になって来た。
「……相手を選んでも、将来……あーもういいや。俺が嫌だからダメ。いい?」
「どうしたらいいって言ってくれる?」
「しつこい。大体、添い寝は幼稚園のころに卒業しただろうが……」
「うー……ケチ……」
納得はしてくれていないようだが理解はしたらしいのでこの話題はそれまでにして寝室から移動し生薬の匂いが漂っている相川の部屋を通り過ぎ、リビングのソファへ移動した。相川が無造作に座ると瑠璃もそれに倣ってゆっくり座る。
「……何?」
「ん? ……あ、そう言えばね奏楽君たちが学校で人殺しをなくそうって頑張ってるらしくて仁くんにも手伝ってほしいって「嫌だ。」わかった!」
(何で拒否されて喜んでるんだこいつ……)
奏楽の手先かと思った相川だったがすぐに瑠璃がその話題を切ったので逆に警戒してこちらからその話題に少しだけ触れておく。
「もし手伝ってほしいなら、生徒会長の奏楽は中野先生(38歳独身女性)を本気で口説いて校内デートをした後Dクラスの前でキスをしてゲームクリア宣言をして『罰ゲームでした!』と告げて振ること。次に庶務の麻生田は権正の授業中に『つまんねぇんだよこの禿!』と叫んで全裸になり机の上で逆立ちしてその後Dクラスの前まで逆立ちで全力疾走。会計の毛利は権正の髪の毛を全て毟り取って『やい! 禿の化物! この俺が退治してやる!』と叫んで全力で逃走。副会長の谷和原は首から下を地面に埋めて光合成。そして書記の相木は女王様のコスチュームで職員室に殴り込みをかけて『静かにしなさいこの薄汚い豚ども!』と叫んだ後に鞭をその時に一番近い場所にいた先生にぶつけることで協力条件を満たしたことにしよう。」
相川がそう言い終わると瑠璃は笑顔で相川の太腿に頭を投げだして見上げつつ言った。
「よーするに嫌なんだよね? わかった!」
「……ならいい。」
相川はそう言い終えてソファの背もたれに体重をかけた。