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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
127/254

クロエさんの卒業式

「……ついに、この日が来てしまいましたね師匠……」

「ん? あぁ、卒業おめでとう。小学校最後の晴れ舞台だ。行ってらっしゃい。」

「……はい。」


 相川が5年生を終えることになる3月。クロエの卒業が迫り卒業式当日になっていた。この日は学校が指定する制服を着ての登校で、クロエはブレザーにスカートという出で立ちでクール系の美人のように相川を待つ。


「……何してんの?」

「え、師匠を待ってるんですが……」

「? 卒業式は在校生の殆どが休みだぞ? 確かに5年生の見送りはあるが、Dクラスで何故か問題児扱いされてる俺は休みにされてるし……」


 何故かも何もないと思うが、相川は休みにされた。しかし、それは同じクラスにいたクロエも聞いていることであり知っているはずだがクロエは相川が卒業式に来ると思っていたようだ。落胆した表情で俯きがちになって相川の方を見ずにポツリとつぶやく。


「……師匠、私の卒業式来てくれないんですか……?」


 寧ろなぜ来ると思ったのか訊きたい相川だったが、身寄りもなく寂しそうにしているクロエの顔を見て仕方がないと着替えることにした。その様子を見ていたクロエは相川が参列してくれるのを察して破顔一笑して喜ぶ。


「師匠!」

「……一応、クロエの叔母に当たる人を呼んであるんだが、それでも俺は行くべきなのか?」

「叔母さんは別にいいですが、師匠は来てください!」

「……分かったけど……」


 面倒臭さを隠さずに相川は支度を整えてクロエと一緒に家から出る。


(卒業式終わっても荷物とかまだ置いてあるのに……)


 今日はお休みだと決めていた相川は若干残念そうにそう思うが、クロエにとっては小学校最後の晴れ舞台であり、一生に一度しかない機会なのだから仕方ないと着いて行き、校舎の前で分かれる。相川は一般席の方へと向かった。


「あらあら、今日はお姉ちゃんのお見送りかな?」

「……まぁ、そんな所です。」

「お母さんの分の席も取っておかないとね?」

「……まぁ、はい。」


 いろいろ違うとは思ったが説明も面倒なので相川は近くに座っていた若いママさんにそんなことを言われながら携帯を弄り、参列することになったことと席を取っていることをクロエの叔母であるカーラ・アテル・ルウィンスに伝えて時間が過ぎるのを待つ。


「あらごめんなさい。学校の屋上がヘリポートになってたから思ったより早く来れたわ。」

「……ヘリで来たんだ。」


 しばらくしてカーラが来ると周囲はカーラの格好に好奇心の目を向けてくるが、特に喋りかけることはない。相川の隣に来て口を開いたカーラに相川は適当に応じるとそう言えばと尋ねる。


「何か体に支障はないですか?」

「万全よ。ただ、ちょっと昔みたいな動き方は出来ないみたいだけど……」

「まぁそっちの方が安全でいいからなぁ……どうしてもって言うなら体は治してもいいですが、心の方は相当無茶しないといけないんで止めておくことがお勧めですね。」

「そうね。もうこりごりだからこれでいいわ。」


 昔、相川が手術したことの話に持って行ってすぐに話題を終えると時間は丁度いい塩梅になっていた。最初に5年生の入場が行われざわめきが起こり、次いで6年生が入ってくる。


(……すっくな。ウチの孤児院の子どもがどうしてもって言うから参加した卒業式の規模の5分の1くらいじゃないか?)


 しかし、見ていると美形揃いの上、5年生では瑠璃と奏楽が別格の存在感を放ちそれに続くように遊神一門がそれぞれの個性を発揮している。そして6年生ではクロエがまた異彩を放っていた。


「……しばらく見てなかったけど、本当に大きくなったのね……姉さんにそっくりよ……」

「へぇ……」

「……本当、今の時点で胸の大きさまでクロエと同じくらいなんじゃ……」


 どうでもいいことを小声で伝えられて相川は反応に困る。一瞬、6年生を引率していた権正が相川のことを視認してもの凄いオーラを放って来たが何もしないのに何だこいつくらいの視線を返すと式が次第に沿って開始された。


 そしてしばらくの間、相川は滅茶苦茶暇になる。皆勤賞だのなんだのの授与が行われたり、何かの記録に対する表彰が行われ、今年の秋にあった武術大会の校内所属、女子の部で優勝したクロエが表彰されて相川の方を見ると隣にいたカーラが何故か泣き、周囲がもらい泣きするなどがあったが特に面白いイベントはない。


(誰か急に爆発しねぇかなぁ……)


 出禁にされた原因みたいな思想を遺憾なく発揮する相川。しかし、実行には移さなかったのでセーフと誰も聞いていないような言い訳をしてじっとしていると奏楽が在校生代表として送辞を、卒業生代表の知らない子が答辞を行って卒業式の歌になった。


(……まぁ、俺だけ歌の練習してないから知らないけど。)


 相川は安定のスルー。しかし、在校生代表としてこの場に来ている5年生。その中でも瑠璃さんの学年トップクラスの肺活量と強靭な声帯による大きな、それでいて凄まじい美声が奏でるメロディが6年生たちを感極まって号泣させる。それは伝染していくように広がり教員、そして保護者達まで泣かせた。


「大きくなって……本当に……」

「あの子が生まれて来る時、早産で、小さくて危ないかもしれないと言われて本当に……」

「我儘しか言ってこなかったあの子が……」

「この学校に入れる。入りたいと言われた時は本当にダメかと……」


(……俺なんでここにいるんだろ。)


 何故か思いを吐露している周囲に相川はどうしようかねくらいで観察しつつそう言えばクロエと瑠璃に薬で自制心をなくして襲い掛かった人たちは全員いなくなってしまったんだな。あのデータはこの学校ではもう役に立たないのかと別ベクトルの寂寥感を味わいつつ卒業式退場を待つ。


「卒業生退場。拍手を以てお見送りください!」


 盛大な拍手が行われ、卒業生たちがこの場を去っていく。それが終わると在校生が去り、相川がいる保護者席はこの後の後援会やこの小学校と連携している中学校の説明などを受ける。


(……俺、何でここにいるんだろ……)


 全ての説明を受けて相川が思ったことは取り敢えず中学校はエスカレーターで行くのは絶対に嫌だということだった。そう言えばこの学校に入学した時はここに入る予定もなかったのに無理矢理入れられたに近い状態だったなと思い起こす。


(……まぁ図書室に何か良く分からない魔素の気配を感じられた辺りと立ち入り禁止と思われた扉を発見できたから結果オーライとして……6年の秋の大会、所属不問の部でベスト8か……それを取らねぇと図書室の閲覧禁止コーナーに入れないんだよなぁ……)


 この学校に留まっていた理由の一端について考えていると申込み等の話が終わっていた。中学校からは今よりも安全な環境で武道が出来ると言うことで安堵の声が漏れているが相川は申込みは放置していたら勝手に担当教員が手続きを済ませるという趣旨の話を聞いて先手を打っておかねばと思った。


(……もしかしたら権正の野郎は俺が中学の申し込みについて聞かないように遠ざけたのかもな……そうはいくか。)


 相川は色々と考えていたが、卒業の日は粛々と進み、クロエは無事に小学校を卒業した。







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