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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
121/254

武術学校に戻る

「うぅ……っく……」

「はぁ……何か寂しくなるな……」

「ですね……」


 半年を過ごした御紋小学校での役目を終えて、4人で過ごした家からも出てから送迎の車で武術小学校に帰る中で3人は物悲しそうにしていた。その光景を見つつ相川はクラスメイトから貰った試作品のお菓子を食べつつ考える。


(……別に何とも思わないが口に出すと集中攻撃されて五月蠅いだろうから黙っておこう。)


 クラスメイト達から貰った色紙を抱いて泣いている瑠璃や物憂げにしているクロエに挟まれて相川は子どもの味覚でも結構甘いと感じるからオフィス向けにはどうだろうか。いや、疲れている人にはいいかもしれないとレビューを考えながらお菓子を食べ続けた。そんな相川の様子が気になったのか助手席で別れを惜しんでいた奏楽が相川をバックミラーで見ながら尋ねる。


「相川はあの学校のクラスどうだった?」

「……んー普通? 特に感想はない。」

「冷たい奴だな……」


 奏楽からそう言われるが相川は特に何も思うところもない。強いて言うなら月に一回テレビ電話で特別学級の時間に講演することになったのが意味分からないくらいか。因みにこれは頼まれていないクロエには内緒にしている。


「戻ったらすぐにお手紙書こ……っ」

「そうですね……」

「……何で俺を見る。俺はやらんぞ。」

「お前さぁ……本当に協調性ないのな。」


 三人がやれやれと言わんばかりの視線になる中で相川はメールで一斉送信をやった方が早いだろと返して風情がないとダメ出しを喰らう。


「面倒臭っ……大体、俺はもう卒業までの単位を大体取ったから自由に遊べるんだよ。だから会おうと思えば会える。学校に戻っても外出手続きをやって家に帰るしな。」

「えっ……何それ、ズルいよ!」

「お前らが遊んでる間に俺は授業受けてテストやってたんだよ。何がズルいんだ。」


 相川が溜息をついていると丁度その時相川の携帯電話が鳴る。桐壷からのメールだ。


「夏休みの旅行のお誘い……ズルい!」

「いや、でも……桐壷さんのホテルと言うことはですよ……まぁ私はこの前もの凄い怖い思いしたので誘われないでしょうね……ね? 私、ちゃんと言いましたよね?」

「言ってた。後、瑠璃も連れて行きたくないな。落ち着きないし。」

「何で!」


 クロエが瑠璃に1フロアだけで相川の会社の総資産を超える調度品があるホテルのことを説明してアレは行かない方が良いと宥める。しかし、瑠璃はよく理解していなかった。


「30億円が何なの!? ボクだって頑張ればそれくらい……」

「……まぁ、こいつが本気で男に媚びれば実現不可能じゃないかもしれないってのが怖いよな……」

「……あ、男に媚びるってのはダメなんだよ。彩香ちゃんが言ってた。」


 急に話題が代わる瑠璃だが、相川は苦笑するだけで特にコメントしない。奏楽は奏楽で昨日から片付けで忙しかったらしくこんなにうるさいのに助手席で寝ていた。


「う~……何かズルいよね。特Aクラスの方がたくさん授業取らないといけないし。」

「君らが好きで取ったんだ。自己責任。」

「でも夏休みはボクたちだってお休みだよ? 行っていい?」

「……モノの価値がきちんと分かるようになったらついて来ていいぞ。」


 相川の投げやりな言葉に瑠璃は前からずっと思っていたことを強く感じる。


(ボクも仁くんと同じ世界が見れたらいいのに。そしたら仕事だって手伝えるし、一緒に居て、同じ事考えられて、ボクのこといい子って思ってくれるはずなのに……)


 瑠璃が幼少期から抱える悩み。出会い頭に助けてくれた彼との距離感、見えている物の違い。なるべく一緒に居ようとしているのに別の場所にいるような気分になってしまう焦燥感の原因。瑠璃はそれをなくしたかった。思いがけない強い思念に瑠璃は急に黙って考え事を始めてしまう。相川はそれを見て首を傾げた。


(……何だ? 変な世界に行って瑠璃に付着してた魔素が目に集まってる……?)


 瑠璃の思考は読んでいないが、日々集めようとしている魔素の動きはこれほど近い場所にいる人物からであれば嫌でも感知してしまう。しかし、それも微々たる量なのですぐに消えると放置した。


(まぁ、もうすぐ抜けるだろうしいっか。)


 車内はエアコンの風の音以外はなく、沈黙が舞い降りる。社内の心地よい温度と揺れ、そして静かな空間に先程までの寂寥感での披露が合わさって相川以外は次第に眠りの苑へと旅立っていた。


「……着いたら起こすから君も寝たらどうだい? この混み具合だと後10分は掛かるから。」

「いや、俺は別に眠たくないんでいいです。」

「ははは、そうかい。」


 そのあと少し世間話をしながら車を走らせ、一行を乗せた車は武術学園の方へと辿り着く。入り口で相川と運転手が全員を起こして正門に4人が降りると不意に瑠璃の顔色が悪くなった。


「瑠璃?」

「どうしたんだ!?」

「あ、あれ……」


 まず気付いた相川が首を傾げると様子がおかしいと奏楽も慌てる。それに対して瑠璃は怯えたように後者の方を示すがそこには特に何もない。


「何だ? どうした?」

「み、見えないの? お化けが……!」

「はぁ? 今、真昼間だぞ? 寝惚けてるんじゃないか?」

「変なこと言うのは止めてください瑠璃さん。」


 瑠璃の言葉を冗談と受け止めて笑い飛ばす奏楽と不快感を示すクロエ。しかし、何かが見えているらしい瑠璃はそのナニカに怯えて恐慌状態になる。


「こっち来たぁっ! う、動かな……」

「……あー……面倒臭いことになってるなぁ……」


 怯えている瑠璃。その隣に相川は移動して瑠璃へと近づいてくるその脅威。ザンバラに刈られた黒髪を血に染め、病的に白いその存在を睨みつける。


「強制的に抹消されたくなけりゃどっか行け。3・2……」

「ひ、とし……くん……ありがとぉ……」


 何が起きたのか分からないクロエと奏楽。それに対して心底面倒臭そうな顔をしている相川と心底安堵した表情で涙目になりながら相川に抱き着く瑠璃。奏楽が密着する瑠璃を見て相川を睨むが相川は小さく忌々しげに呟いた。


「はぁ……瑠璃が霊視できるようになってしまった……」

「れーし……?」

「どういうことだ? お前が何かしたのか?」

「ちげぇよ……ちょっとこの前別世界に行った所為で変な風に魔素が入った。それに加えてこの場所は死人が出過ぎてる。後なんか瑠璃が死んだ母親の霊か何か変な物見たいとでも思ったんだろ。その他、色々な問題があってこうなったんだろ……」


 奏楽には相川の言ったことが理解できないようで相川が悪いのではないかと言う視線を向ける。クロエは瑠璃がもう立ち直っている癖にこちらを少し見てからまだ抱き着いているという事態にムカつき、相川はその他の要因について考えた。


(遊神さんの呪いの所為でこいつの妹……茜音だっけ? それの関係者であるために災いが降りかかったり寂寥感に釣られたとか、もう面倒臭いなこいつ……本当に人生ハードモードだよ……)


 相川は可哀想な子と言う視線を向けるが本人は割と今、幸せそうだ。相川の匂いを堪能している。しかし、いつまでもそうしてはいられないので瑠璃の絵にかいたような美しい耳に耳打ちする。


「部屋に戻った後、すぐに俺の部屋に来い。なるべくなにも見ないようにしろ。じゃないと多分途中で発狂するぞ。」

「わ、わかった……」


 じゃあ送ってくれてもいいじゃんとか少しだけ思った瑠璃だったが、何やら大変なことになっているのは自覚していたので相川の言う通りにすることにした。




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