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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
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つつがなく

「……ねぇ仁くんさぁ。この前ボクが真愛ちゃんに怒られてたのって……あれ、ボクが悪いみたいなんだけど何で教えてくれなかったの……?」


 異世界から戻って来てしばらく日常を過ごしていると瑠璃は味方の情報をペラペラしゃべることの問題に気付いたらしく、しかも言っていた内容も悪かったこと。また味方を売るという行為がどういう物かを知ってソファで猫と戯れながら寛いでいた相川にそう尋ねた。


「んー? 別に悪いことした訳じゃねぇだろ……」

「でも、傷付くからダメだよね?」

「まぁ一般的にはダメかもなぁ……俺は別にいいけど。慣れてるし。」


 瑠璃の問いかけに相川は黒猫君を解放しながら起きて返事する。瑠璃は見当違いだと分かってはいるものの相川に少し怒りを覚えざるを得ない。


「ダメなことはダメって言ってよ。ボクわかんないんだから。」

「知るか。何で俺がそこまでお前の面倒を看なければならんのだ。そこまでやってやるほど俺は暇じゃない。」

「うー……確かに、そうだよね……」


 甘え過ぎということは若干だが瑠璃も思っていた。しかし、早くに親を亡くして親元を離れている瑠璃には加減が分からない。家庭教育という物が彼女には欠如しているのだ。しかも、友人というのも数が少なくて交流も浅い。


「どうしよ……ボクどうしたらいい?」

「……奏楽でも頼ってろよ。何でも俺に訊くんじゃなくてさぁ。ついでに今は情報化社会だ。知りたいことが合ったら自分で調べろ。」

「そうだよね……でも、それでいいの……?」

「いいよ。」


 瑠璃の方を見もせずに送り出した相川に瑠璃は寂寥感を覚えながら離れ、クロエの所に行った。


「……何か、仁くんにボクのこと見て欲しい……」

「何ですか急に? ナルシスト拗らせちゃったんですか?」


 相談に乗って欲しいと言われたクロエは唐突に瑠璃からこんなことを述べられても困るとばかりに辞書を片手に勉強する手を止めてお茶を出した。


「いただきます……で、違うよ。ボクは仁くんのことが好きなのに、仁くんボクのことそんなに好きじゃないみたいだから、ボク頑張りたいんだけど……何したらいいのか分かんない……」

「私だって知りません。一応、勉強したら褒めてもらえるので頑張ってますし、お仕事手伝っていい成果残せたら褒められるので頑張りはしますが。」

「……クロエちゃんがやってるのボクわかんないもん……」


 瑠璃は頬を膨らませて抗議するがクロエからすれば分からないで済ませていることがダメなのだ。しかし、相川に褒められるのは自分だけでいいと思っているので教えない。


「それとね……ボク、一般常識が足りてないみたいなんだ……」

「そうですね。」


 深刻そうな表情の瑠璃に対してクロエはいまさら何言ってるんだこいつと言わんばかりの視線を向けるが、瑠璃は驚いた。


「知ってたの!?」

「見ればわかります。」

「どうして教えてくれなかったの?」

「……どうしてって……普通、あなたの常識は足りてませんなんて急に言わないですから……というより一般常識は暗黙知ですから、説明するのは難しいんですよ。この会話自体が一般的には奇妙な感じです。」

「……そうなの?」


 難しいなと瑠璃は首をひねる。瑠璃もクロエも幼少期の大部分の私的教育を相川から受けている。しかし、瑠璃は相川の行動を見て覚えるのに対し、クロエはこの国の常識は分からないだろうと判断された相川からこの行動は普通取らない。普通ならこうするときちんと教えてもらいながら育った。この点が彼女たちの一般常識を分けたのだ。


「どうやったら常識って身に着くんだろ……」

「まぁ、たくさん交流すればいいんだと思いますよ。私たちのクラスは少々上流階級の人たちばかりでまた偏った常識になりますが、瑠璃さんのクラスは頭が良ければ一般家庭の人でも入れるクラスなのでおそらくは普通の常識が手に入るんじゃないですか?」

「ふーん……じゃあ頑張る。」


 武術漬けで倫理観なども武人に染め上げられていた瑠璃は普通を知るために動き出した。そんな瑠璃を見てクロエは密かに笑う。


(尤も、師匠は自分の手がかからないで済む存在に対しては基本的に他に任せますから、他の人と仲良くすればするほどいつの間にか遠ざかってますけどね……)


 彼女が見てきた相川はそういう人物だ。しかし、教えない。協定を結んだからと言って相川を譲る訳にはいかないのだ。「精々空回りしてください……」内心でそう告げてクロエは今日頑張った分を相川に見せに立った。





「……あれ、師匠?」

「んー? 何か?」

「何してるんですか?」


 クロエがリビングに行ったところ、相川はモニターで何かを見ていた。そこに移っているのはスーツ姿の女性が着替えている映像だ。


「……覗き、ですか?」

「ん~……まぁある意味。どーしようかなー……」


 覗きを否定されなかったことでクロエの視線の温度が一度下がるが、クロエは相川のことを信じているので続けて尋ねた。


「どうしてそんなことをされてるのですか?」

「いや~事務局の新人が怪しいって情報が入ってたから人感知センサーが事務局に人が1人しかいなくなる時のみ反応するように設定して監視カメラ設置したわけよ。」


 クロエの視線の温度が三度上昇した。少しだけ熱っぽい視線で流石師匠と思いながらそれで何で女性局員の着替え姿を見ているのか尋ねると相川は映像を巻き戻し、再生スピードをスローにすると事務局員の動きを指す。


「まぁ普通に考えて事務局でストリップショーを繰り広げてる奴見たら異常事態を疑うだろ。ここ、何かUSBが不自然に出て来てる。しかもパソコンに刺した後下着の中に隠してやがるんだ。怪し過ぎる。」

「ですね……普通のでしたら下着の中に隠すなんて考えられませんし……」

「それで、明日なんだがちょうど職員が研修で減る上、運動会の打ち合わせがあって分散するんだよ。」

「成程……抵抗戦力が分散していることから各個撃破しやすい状態が揃ってるんですね?」


 何かあるという前提の下に二人の会話は進んで行く。


「加えて港の方が騒がしいらしくてな。空の港からは人が団体で、海の港からは物が来てるらしい。」

「どういうことなんですか?」

「……まぁ、万が一に備えて明日の打ち合わせをしないといけないことになるってことだな。何かあってからじゃ遅いとは言うが、何もないのに行動は出来ない。それに証拠が盗撮じゃねぇ……」


 相川は笑いながらそう言ってソファで伸びをする。


「んー……欲を言えばテロリストが来て欲しかったなぁ。金目的の集団じゃなくて。」

「……これも立派なテロじゃないですか?」

「いや~こいつら相手じゃ法的には皆殺しにはできないだろ。その為に派遣された武術集団なんだし。」


 モニターを消して相川は座り直しクロエに告げる。


「じゃ、俺は功績無しということにするとして……うん。クロエはどうやっても特Aクラス行きだな。」

「そんな! 嫌ですよ、あんなの達と同じクラスなんて!」

「でもこれ以上誤魔化し利かないし……恨むなら武装集団を恨め。」

「うぅ~……本当に恨みます……」


 何事も無ければいいのになど思わずに明日は全員とっ捕まえるという意思を胸に相川は瑠璃と奏楽に一応明日は大変なことになりそうだから手伝う気があれば来てと告げ、キレられながら作戦会議を行った。




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