表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
115/254

普通の迷子

「確保!」

「あぅ……」

「忌々しい糞ガキどもめ……ここが穏健派が統治する法治国家だったことを感謝するんだな。母国だったら撃ち殺していたところだ!」


 崩壊した国の首脳部で孤軍奮闘していた瑠璃だったが、相手の数と装備に押されてすぐに飲み込まれ、パラライザーが命中し捕縛された。捕縛した軍からは歓声が上がり、速やかに報告や連絡が飛び交い始める。そんな中で瑠璃を捕まえた相手は瑠璃のことをじっと見て思わず呟く。


「……何て可愛らしい顔してやがるんだ……」

「う~……びりびりする……」


 手足が上手く動かない状態でぐるぐる巻きにされた瑠璃。そんな折に軍部の偉そうな人物がやって来て瑠璃から事情聴取を開始した。


「……貴様らは何が目的でこんなことをしたんだ?」

「え? お家帰りたかったから、仁くんについて来たの。」


 ここにはいないもう一人の男子か。と軍人たちの間で会話が繰り広げられ、瑠璃はそれを肯定する。次の質問は険しい顔をして行われた。


「……帰りたいにも、手段という物があるだろう? 何故、このようなことを?」

「何か最初から攻撃してきたから反撃して、手加減したんだけど何か変に柔らかくて皆死んじゃった。それでどーしたらいいの? って仁くんに訊いたらこの眼鏡渡されて赤だったり文字が浮かぶのは倒したらいいって教えてもらったの。」


 その会話を聞いていた真愛には瑠璃が相川に罪を全て押し付けて敵に売り渡しているようにしか見えなかった。瑠璃からすれば相川は物知りなんだよと教えているにすぎないが、軍人たちもこんなに無垢で可愛らしい子が凄惨な事件を起こすとは考え辛かったらしく、眼鏡を借りると呟く。


「ヒトシ、という者は相当な技術を持っていた者だと思われますね。この子が身に着けている縫製技術や繊維などの水準から考えると考えられない程の技能。映像データとこちらの子が身に着けている衣装からは魔素を扱っている様子も。やはり、この世界にいた者である可能性が高いかと……」

「うむ……恐らくは本国で射殺されるだろうが、何者だったのか永久に謎が残ることになるな……」

「仁くんの元いたところってここなのかなぁ?」

「あなた、相川さんが心配じゃないんですか……! よくもそんなにのうのうとしてられますね……」


 それまで沈黙を貫いていた真愛が瑠璃の発言に噛み付く。周囲の軍人は言語チップも入ってなければ相川による念話可能状態にもされていない真愛の言葉を聞き取ることはできないが、瑠璃には聞き取れるので普通に返事をする。


「心配に決まってるよ? でも、帰って来てくれるもん。」

「……さっきまでと言ってることが違いますよ? 大体、敵にそんなに情報を渡して……本当は最初からこうするつもりで……?」

「こうするって、どういうこと?」


 瑠璃には真愛が言っていることが良く分からなかったが、その顔は真愛にはとぼけているようにしか見えずに歯噛みして呻くように言った。


「裏切り者……!」

「……はぁ? 何でそんなこと言うの? ボク、真愛ちゃんのこと守ってあげてたよね?」


 真愛の発言にムッと来た瑠璃がそう返すも真愛はもう答える気もないと無視した。その様子が気に入らない瑠璃は真愛に絡むが軍人によって止められ、会話に戻された。


「君たちは本当はこういう人殺しなんてしたくなかったんだね?」

「え? うーん……確かにボク、活神拳だから人殺しはしたくなかったけど……」

「嘘吐きめ……」

「ねぇ、さっきから何なの!? 何か変なこと言ってるなら教えてよ!」


 相川を背後から光線銃で撃ち抜いた少年を殺した時の台詞を思い出して真愛が瑠璃の言葉に噛み付くと瑠璃は何がいけないのか語気を強めて訊く。しかし、真愛は答えなかった。


「隊長、この子たちはあの男児に唆されてこの様なことをした模様です。」

「……確かに、測定機器にも虚偽の申し立てはないと出ている。しかし、一国をここまで荒らしておきながら無罪放免と言う訳にも行くまい。」

「そうですね……ただ、一般の収容所では恐らく収容できないと思われますので軍部に預けられることになると思います。」

「……その際に便宜を図る。か……確定ではないが考えておこう。」


 瑠璃から聞き取り調査をしていた軍人たちの会議が纏まった。しかし、ここに最早姿形は人間と全く変わらないアンドロイドが割って入る。


「警告、その女児の美貌によって軍部の人間が惑わされる恐れがあります。いえ、現在時点でもほだされていることから危険性は高いです。速やかに射殺するべきです。」

「む……だが、情状酌量の余地は十二分にある。その辺りの見解はどうなんだ?」

「……司法の手に委ねれば情状酌量の余地はあります。迷い人の取る行動には情状酌量の余地が多くあり、それは既に国連によって定められています。まして推定年齢10歳。更生を考えるべき年齢です。また、この地の残っている残留ナノチップによりますと魔素を分解する器官がないことによる脅迫を受けているので司法の手に委ねれば間違いなく、情状酌量は与えられます。ただし国の治安を維持する私どもからすれば危険が大きいので乱戦で死亡したようにすることを強くお勧めしておきます。」


 機械の進言と人間の進言。どちらを取るか軍人が考えていると機械の方がはっきりと明言した。


「最悪の場合、命令に違反しても私は国益を損なわないという最優先事項に基づきまして自らの身を犠牲にしてでも彼女を射殺いたします。」

「む、そこまでか……ならば、已むを得ん……射殺の許可を与える。」

「はっ! 感謝いたします!」


 真愛は人間と全く見分けのつかない彼が向ける銃口を睨みながら死を覚悟する。対する瑠璃はのほほんとしていた。その様子がアンドロイドには気にかかったようだ。


「……どうしてそのような態度を取っておられるのですか? 小さなテロリストさん。」

「え? そんな態度ってなに?」


 声をかけられて瑠璃は小首を傾げる。軍人の一部は死ぬということがよく分かってはいないのではないか。こんな幼い子を殺すのかと見ていられなくなって視線を逸らす。しかし、アンドロイドたちは感情をオフにして彼女を見据える。


「今、あなたは死ぬことが確定しました。しかし、通常の状態と変わりません。理由は何ですか?」

「え? ボク、死なないよ?」

「いいえ、あなたは今から死ぬのです。この銃によって。」

「何をやっている。早く殺せ……」


 相手が幼い子ども、人間であることをあまり感じない内に殺して欲しいという上官の声にアンドロイドは反応して命令を遂行する。


「まずは、あなたからです。こちらの方はそれほど危険性はないので司法の手に委ねても問題ないでしょう。」


 銃口は瑠璃に向けられている。そして何の前触れもなく彼はトリガーを引いた。その瞬間、地面が鳴動するかのようにしてズレ、光線は背後の壁を分解することしかできなかった。


「くっ!」

「……天使を殺そうとして神が怒ったのでは……?」

「いいえ、エネルギー消失による世界リソース低下が起こっています。魔素が急速、に……は、早く、任務を……」


 この国の平和を守るため、アンドロイドは今度こそ狙いを定めて瑠璃に銃口を向け、周囲の者たちも光線を発射する。光に包まれた瑠璃が目を閉じる前に最後に見た光景は黒衣の後姿だった。


「仁くん!」


 嗤う彼は何も言わずに光を飲み込み、そして光の奔流が全て消え去った後に告げた。


「さぁ、帰ろうかね。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ