悪魔の落し子
「逃げやがったなゴミ屑どもがぁっ!」
首都らしき場所を落として相川は厳重に警備されていた政務所の中に入り込んでそう叫ぶとすぐに冷静に戻って魔素を用いて逃げた先を突き止める。
「いたいた。こーろそっと。」
「……扉が目的なんじゃ……」
「ここになかったんだから仕方ない。」
扉がなかったのなら探しに行くべきではないのかと真愛は思ったが、この場所に置いては立場が弱いので意見は引き下げて同じようについて来ているだけの瑠璃を見た。
(……本当に可愛い……これから綺麗と言われるような顔立ちにもなりそうだし……)
全然関係ないことを考えてしまう真愛だったが、瑠璃は特に気にした様子もなく相川のことだけを見ている。そんな瑠璃の視線を受ける相川は今後の予定を告げる。
「ちょっと俺はあいつら殺しに行ってくる。君らはどうしたい?」
「……ボク、ちょっと疲れちゃったから休憩したい……」
「わっ、私もですわ。」
二人の返答を聞いて相川は頷く。
「分かった。じゃあ行ってくる。」
「え? なんでそうなるの? ……付いてくけどさ……」
「ん? いや疲れてるなら休憩してろよ。」
互いにこの人何を言ってるんだろうという視線を交わして説明を求める。
「ボクたちの予定じゃないの?」
「俺は追撃したい。君らは休憩したい。それぞれ行動すればいいじゃん。」
「ば、バラバラに行動するんですか……?」
「一緒がいい……」
「でも君たちは、疲れてるんでしょ?」
暗に待ってほしいと言っているのかと相川は察したが面倒なので言外に拒絶しておく。瑠璃は付いて行く意思を見せたが真愛は限界が近いので動きたくなかった。それに相川だって真愛を背負いながら戦うのは面倒なので本音は連れて行きたくない。
置いて行きたい相川とこの場に残りたいが一人だと危険が迫ってもどうしようもない真愛の話し合いの結果、瑠璃と真愛がこの場に残って休憩し、相川だけ追撃することになった。
「ちゃんと戻って来てね! 約束だからね!」
「善処する。」
「確約してください。」
「検討しておきますね。」
「……やっぱりボクついてく。」
瑠璃が不安になったのでついて行こうとして話し合いをもう一度やり直す羽目になりそうだったので相川は余計なことを言わずに行くことにした。
「また後でね?」
「じゃあね。」
「ねぇ、なんでそういうこと言うの? またねって言ってよ。」
「細かい奴だな……」
面倒になったので相川は空中に足場を作って宙へと駆け上がった。そして既に壊れかけの天井をぶち抜きながら告げる。
「今から行くところは100%罠だから帰ってくる保障はない! さらばだ!」
「! なら行かせるわけないよ! このっ! 待てぇっ!」
慌てて捕まえに飛び上がる瑠璃だが、捕まえ損ねて地団太を踏む。相川は振り返ることなく高笑いしながら去って行った。残された二人は不安になりながら建物の中に身を潜める。瑠璃など泣きながら顔を伏せていた。
「だ、大丈夫ですわよ。相川さんなら何とかしますって……」
「……よく知らない癖にうるさい。仁くん勝手に無茶して何回も死にかけてるのに、何でそんな適当なこと言うの?」
自身も不安な中、何とか慰めようとしたのに真愛は瑠璃に睨まれた。理不尽だと思いながら真愛は黙ってその場に座り、相川の帰りを待つことになる。
「かかったな!」
その頃の相川は空で楽しそうにしていた。現在は国連を名乗る組織から降伏勧告を受けた後にそれを拒絶し、衛星から相川に向けてレーザーが放たれたところだ。
相川の下にある海が蒸発し、その分を埋めようと荒れ狂う波が生まれる中で映像通信が出来る機器を搭載して降伏勧告を行った無人機から歓声が上がる。
「悪魔は去った! 主よ! 感謝いたします!」
「日頃は祈ってねぇのに急に祈られても迷惑だってさ。だから代わりに俺が今から向かう。首洗って待ってろ。」
光の奔流の中から普通に出てきた相川はそう言いつつ無人機を破壊して海に捨てる。ついでに何回も撃たれるとムカつくので衛星も壊しておくことにした。
「えーと……この星の自転のスピードは……一々計算して投げるの面倒だな。魔法で壊そう。」
魔力で衛星の場所を確認し、制動精密機械群に魔素を混ぜ込むことで狂わせてコントロールを滅茶苦茶にし、墜落させると相川はさっさと相手が引き籠っている場所に向かって再び出発する。
「おっと、出迎えか……まぁ食い潰す……いや、正直そういうこと一々やってるとアレだよね。面倒だからもういいや。」
魔力を喰らうために使う労力やエネルギーを考えると何かもう面倒になって来たので視界に入った全ての物を相川は睨み壊す。
「【死出眼】。うん。不法投棄不法投棄さて次行こ。」
おそらく国連という名の組織から放たれた戦闘機を含むすべての物体を圧壊して相川はさっさと駆けて行く。しかし、その足は急に止まった。
「……敵の数がめっちゃ増えてるんだけど。しかも魔素とかそういう問題じゃない相手だし……」
相川がこの先を探知したところ、不自然なくらい魔素が存在しない場所に生体反応が多数あった。どうやらこれまでの魔素によって動いている魔導機械たちではなく逆に魔素を遮断している仕組みの機械を装備しているようだ。
「……これはちょっと面倒臭いというか、ヤバ気というか……ん~どうしよっかなぁ……」
引き返すことも視野に入れながら相川が後ろの気配を辿ると後ろからも多大な反応があり、相川は挟撃を悟った。
「まぁ、しゃーない。どうしましょ? 取り敢えず笑っとくか。」
相川はどうしようもないので仕方なく笑って進むことを選んだ。
その頃、陥落させた首都の建物で休んでいた瑠璃と真愛は瑠璃が異変を察知したことで避難場所を変えるか否かで揉めていた。
「危ないんですよね? 逃げないと!」
「でも、仁くんがここで待ってろって言ったんだよ?」
「あなた自分の命と彼の命令どっちが大切なんですか!」
「え? うーん……どっちも……」
逃げようにも瑠璃の手を借りなければすぐに捕まるであろうことを予期していた真愛が必死で瑠璃を説得しようとするが瑠璃の反応はいまいち鈍い。
「じゃあ彼が死ねって言ったら死ぬんですか!?」
「……うん。仁くんに本気でそんなこと言われたらショックで死んじゃうかも……」
「今そういう話してません!」
「してたよね?」
相川は相川で浮世離れしていると思っていたが瑠璃も瑠璃でズレている。真愛がどうすればいいのか悩んでいたその時、瑠璃がバリケード代わりに破壊していた瓦礫の方から爆発音がして多数の足音が乗り込んできたのが聞こえた。
「もう来ちゃいましたよ!」
「そだね……隠れてから見つかったら戦わないと。」
「逃げないと!」
「どこに?」
「どこかに!」
静かにしないとココにいるにばれちゃうよ? と瑠璃が冷静に告げるが真愛はそれどころではない。彼女は温室育ちの御令嬢なのだ。
「人の声が聞こえたぞ!」
「こっちだ! 急げ!」
向こう側から多数の人が集まって来るのが聞こえた。真愛が青い顔をするのを瑠璃は言わんこっちゃないと言わんばかりの視線で見つめ、交戦のために覚悟を決めた。