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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
113/254

破壊の忌子

 屍山血河。


 魔素によって生み出された透明な結界は無力化され、物体により構成された障壁は砕かれてその破片を骸と瓦礫が転がっている地に散らす。

 町の中は騒ぎに乗じて別の勢力が動き、略奪や窃盗が相次いだ。また、治安維持を行っていた機械たちの火花が本来の用を成さなくなったがらくたどもを美味そうに食べて巨大化し、次の獲物を求めて彷徨っていた。


 魔素と科学による栄華を誇った国の崩壊はかくも呆気ない物かと思わせる暇もない出来事だった。



「……90日だと、お前ら死ぬな。」


 警備隊に囲まれた状態で相川はそう呟いた。呟くと同時に攻撃して来ている警備隊に反撃を入れて確実に殺す。対峙している相手は相川たちが居た世界の警備隊の制服と同じような服装ながらナノテクノロジーにより回路を組まれ、魔素が通ることで強靭なパワードスーツになっている装備をしているこの世界の人間たち。装備込みで考えると相手はかなり精強な部隊なのだろう。瑠璃が3対1で手古摺る相手だ。しかし、魔力を何も用いずに扱う相川にとってはタダの餌だ。蹂躪する間に喋る余裕もある。

 考え事をしながら蹂躪する相川の背中に乗って、様々なやり取りの末に視界を塞がれた上、外の雑音をカットされている真愛は相川の言葉に反応してどういうことかと尋ね返した。相川は粒子で保護されているはずの相手の頭蓋を魔素を奪って素にして圧壊しながら答える。


「この世界の人間を解析して分かったんだが、人間にも魔素がないと1週間と持たないみたいだ。なるほどね、だから扉の向こうに行ってもすぐに戻ってくるわけか……」

「い、1週間……?」

「まぁ、簡単に言ったらこの世界の一部の物体は元いた世界と違って魔素で結合していて、食べ物とかを食べても魔素がないと分解しきれずにきちんと吸収できない。そういうことを踏まえて考えると1週間過ぎたら君らは衰弱死だな。」


 絶句してしまう真愛に対して相川は戦闘中の瑠璃を見た。返り血塗れの彼女は今まさに相手に決め技を叩きこんでいたところだった。


「外は硬いのに中は柔いから間違えて殺しちゃった……」


 瑠璃が反省しながら次の相手を殺す。勝手が違う世界で正常に手加減が出来ずに瑠璃は四苦八苦しながら相手を制圧するつもりで殺しまくっていた。


「……まぁ、科学は楽することが目標だからな。軽量化、自動化が進んで安価なパワードスーツが一般化すればそりゃ人間本体の筋力は下がるだろうな。」

「よく分かんない……また死んじゃった。」


 かち合った感触が元いた世界で相当鍛え上げられた感じなのでそれに合わせて攻撃するが内功が一般人よりも遥かに脆く、瑠璃は手加減を諦めた。それに対して背負われているだけの真愛は相川の呟きを聞いて考える。


(今、ここで何が起きてるのかはよくわからないけど科学の行く末は私たちの世界でも考えられるものよね……)


 身体能力の低下、筋力の低下、それに伴い体温の低下まで起きている現代社会。一部のアスリートたちは科学に基づいたトレーニングを行うことで昔よりも好成績を残すようになっているし、きちんとした教育を受けている人々も健康のために運動するが、それ以外はどうだろうか。運動する時間もない程に働き小型化、軽量化、自動運転、空調などの恩恵の中で生物としての機能はどうなってしまっているのか、真愛はそんなことを考えながらグレイ型の宇宙人は未来の地球人であるという説を思い出して身震いした。


(……胸が大きくて運動するの嫌いだったけど、少し頑張ってみようかしら……)


 巨大な重りを付けている為動くのが嫌いな少女はそんなことを殺人鬼の背中で考えていた。


「……この辺の屑野郎どもは皆殺しだな。さて、魔力晶食ったらこいつらが厳重に守っていた所に足を踏み入れますかね……」

「うー……殺しちゃった……ごめんなさい。」


 ごめんなさいで済む問題ではなさそうだが、瑠璃は武人の子。武器を向けて来た時点で命のやり取りの覚悟はできているはずという前提を持っている為それ以上気に病むことはない。ナノテクやこの辺にある粒子の動力源になっていた魔素の結晶を集めて食べる相川を見ながら溜息をついた。


「はぁ……もう行こうよぉ~ボク、人殺しは好きじゃないの~」

「成程、俺が大っ嫌いだからさっさと逝けと。はいはい。」

「誰も仁くん嫌いとか言ってない! もう!」


 何でそういうこと言うのかなぁと怒りながら瑠璃は先行して警備隊が守る場所へと乗り込んで行った。そこには避難していたらしい子どもたちが怯えた目で返り血にまみれた瑠璃を見上げていた。


「……赤いけど、どうしよ? 仁くんが来る前に逃げた方が良いよ……!」

「ん? はずれか。」


 瑠璃が子どもたちを避難させようと口を開いたすぐ後に相川が現れて瑠璃をびくりとさせる。瑠璃は恐る恐るながら相川の方を振り返り、尋ねる。


「ね、ねぇ……この人たちは、殺さないでも……」

「はぁ? 何言ってんの?」


 相川の言葉に怯えた目を向けていた子どもたちが絶望の表情を浮かべる。そんな視線を感じながら瑠璃が相川を執成そうと口を開くがその前に相川が言う。


「何で無抵抗のガキどもを殺さにゃならんのだ。こいつらは俺らをこの世界に呼び入れることに賛同していない。お前、殺人狂なの?」

「違うよ!」


 瑠璃の緊張は一気に弛緩した。踵を返した相川の後に続く瑠璃。そんな背後に子どもの一人が掛けて来て叫んだ。


「父ちゃんの仇だ! 死ね化物!」


 その声に瑠璃が振り返るがそのすぐ側を光が駆け、相川の背中を撃ち抜く。その光景を見た子どもたちから歓声が上がり、瑠璃がパニックになりかけながらも光と相川の衝突により煙が上がっている場所へ飛ぶようにして向かう。


「仁くん!」


 後ろでは子どもたちが瑠璃の処遇を巡って対立しているらしいが、瑠璃はそんなこと気にしていられなかった。あの光が放たれる銃は先程の警備隊との戦いで見ている。周囲を分解するかのように放たれ、瑠璃は絶対に当たらないように気を付けていた物だ。もろに当たった相川が最悪の事態に陥っているのではないかと泣きそうになりながら声をかけた。


「何だ?」


 そんな声に応じる煙を払いながら戻ってきた相川。盛り上がっていた空気が急速に萎み、今度はパニックが起きて相川に銃が乱射される。


「いい度胸してんなガキども。魔力の扱い方も知らねぇ癖によぉ……」


 今度は煙すら立たなかった。光が放たれたと思うや否やそれは霧散して相川は悠然と歩いて来る。そして相川は銃を持っていた少年の近くまで来ると魔素を通し、相手が死なないように頭を掴んで持ち上げると顔を近付けて笑って言った。


「悔しかったら殺しに来い。待ってるぜ?」

「く、くそぉっ! 放せ!」


 完全に舐められていると暴れる少年が言う通りに相川は無造作に手を離して地面に捨てる。尻もちをついて悔しそうに相川を睨んでいた子どもだが、影が瞬くと驚愕に目を染めて自らの身に何が起きたのかも分からないまま絶命した。


「……瑠璃?」


 影の動きを捉えていた相川が瞬く間に隣に戻ってきている瑠璃に呼びかけると彼女は光を感じさせない目で相川へ笑いかけつつ答える。


「……ああいうのは、生かしちゃダメだよ? でも、大丈夫。ちゃんとボクが殺すから。言ったでしょ? 手足を引き千切ってでも目標は達成させない、死なせないって……」

「殺すって、でもお前活神拳じゃん。」

「どうでもいいよそんなこと。」


 相川はまぁ本人が納得してるなら別にいいんだけど何かなぁと思いつつ今度こそ首脳部の下へと向かっていった。




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