災厄の申し子
全機撃墜。すべて破壊して内部にあるコアを抉り取ってから真愛の下に戻って行く相川たち。道中、瑠璃は相川の後ろからてこてこ歩きながらはしゃいでいる。
「ありがとー! 助かったよぉっ! 大好きー♡」
「大袈裟な……」
「あっ、最後のなしね。」
「分かってる分かってる。」
「むー……」
母親の言いつけを思い出して自分からはアピールすれども告白はしてはいけないと言い繕い、本当に相手にされていない返事を返されて全然わかってないと膨れる瑠璃。相川は奏楽に告げ口されないか心配なんだろうなぁと思いながら真愛がいた場所に戻って来た。
「……お帰りなさい。一人で取り残されて怖かったですわ。」
真愛は不貞腐れていた。
「文句あんのか。なら次は戦場のど真ん中に連れて行ってやる。」
「……ちょっと八つ当たりしただけじゃないですの……」
あんな恐ろしいことごめんだと更に不貞腐れる真愛。一先ず相川は敵が来なくなったと仮定してこれからの方針と期限について改めて確認を取る。
「いい、目標は90日以内の帰還。扉を発見することが方針で、身動きが制限される可能性何かを考慮してどこの国にも加担しない。」
「何故90日ですの?」
「こっちの90日で向こうの1日という時の流れの差がある。向こうに俺はペットの黒猫君を置いて来ているので1日以内に帰りたい。」
ナチュラルに相川はクロエのことは忘れてるんじゃないだろうかと瑠璃は少し心配したが、少し考え直せばクロエは相川にとってその程度なんだと前途が明るくなった気がした。
そんな瑠璃の内心はさておき、真愛が相川の言葉に頷く。
「まぁ……確かに戻った後のことも考えないと……」
「黒猫君、俺が帰って来ないまま放置してたら多分1日で町が半壊するからなぁ……」
「それは黒猫ではなくて黒虎では?」
「んーん。子猫ちゃんはね、小さいけどすっごい速いの。ボクも撫でてみたかったから追いかけたけど二つお隣の県まで行っても捕まえられなかった。」
「……そういう話は今は置いておくとしてだ。」
話がそれそうになったので相川は強引に戻す。
「まずはお礼参りからだ。この国は亡ぼす。勝手に呼びつけやがった挙句機械兵を送り込むわ兵士の記憶を漁ったところによれば隷属させようなんざ考えてやがった。潰す。」
「えー……ボク、一応活神拳だから……」
「じゃあどっか行け。俺は止めん。」
「うー……付いて行くけど……ボクは一応不殺だからね……?」
置いて行かれるのは嫌なので瑠璃も国崩しに参加することにした。それに反対するのは真愛だ。
「そんなことしてどうするのよ。そんな事より扉を探す方が重要でしょ!?」
「呼び出したってことはそれまで扉を扱ってたのがこの国の権力者どもってことだ。確率的にはこの国が隠し持ってる確率が非常に高い。また、この国が持っていなかったとしても直前までここにあったことから情報を引き摺り出すということも考えて滅ぼすべきだ。」
「隠密とかで、調査すればいいじゃない……」
「いや、崩す。」
理屈は分かったが、余計なことまでする気満々ではないかと真愛は相川を見る。しかし、今の真愛には相川に頼るしか出来ることはないのだ。彼がやることを甘んじて受け入れるしかない。
「……瑠璃も手加減するなよ? 好きな人と別れさせられるかもしれないんだぞ? いいのか?」
「ダメだよ……! ダメに決まってる!」
「二度と会えずに独りぼっちは嫌だろ?」
「いや、ダメ……そんなこと、許さない……っ!」
無論、相川の煽りは奏楽と瑠璃に対するものだが、瑠璃は自分が手加減して相川が連れて行かれるかもしれないということを想像し、まずは鳥肌が立つような寒気を感じ、次いで怒気を露わにして目を据わらせた。
「……ボク、やるよ……」
「その意気だ。頑張ろうか。」
「うん……」
方針は決まった。国崩しの時間だ。しかし、国崩しと言っても皆殺しにするのは手間だ。相川はまず対象を定め、目標も決める。
「取り敢えず、俺らをエネルギー源にして豊かな暮らしを維持しようと考えたことに賛成した特級階層の上級国民どもを適当に、それを実行に移した役所で働いている労働者は出会ったら、そしてそもそもの案を出した国の首脳部は念入りに殺そう。そうすれば後は虐げられてきた貧民層とそいつらから吸い上げることを考える上級国民どもが対立して勝手に潰れるだろ。まぁ飼い慣らされてるかもしれんが……」
「……ボクは殺しはしないけど死ぬほど痛い目には遭ってもらう!」
「……扉を探すために戦うと言う話はどこに行ったの……?」
真愛の言葉は聞こえているが聴いていない。真愛はここでの常識人は私だけだと意気込んで交渉は自分で頑張ろうと思った。しかし、彼女はここが別の世界であり自分の言葉は相川と瑠璃以外には通じないことを忘れている。
真愛が黙ってそんなことを考えている間に相川と瑠璃は国崩しの細部を詰めていく。
「……でも、どうやってターゲットを識別するの?」
「生体チップで管理された世界だからな。所有物にナノテクでトランジスタが組み込まれた塗料を塗り、その物体がどこのどういう人物が所有しているのかスキャンできるようになってる。その識別スキャナーをここに転がってるがらくたどもから奪い取って使えばいい。」
襲い掛かって来た機械軍の道具を配線なども気にせず乱雑に抜き取って魔術で手を加えると相川は識別後のコードを書き換えて形を整えて眼鏡のようにした。
「はい瑠璃。この世界の文字は読めないだろうから改造した。赤く見える人間は上級国民。良く分からない文字が出て来た時は役所の関係者。バッジにアイコンが出たら首脳部という感じで分かれる。まぁ、表示が出た時点で大体敵な。」
「んー……あれ? ぴったりしてる。ズレそうだったけどこれなら動けるね! レンズもないし!」
「……正確にはないわけではないんだが……まぁその辺の議論はどうでもいいか。」
真愛には戦力として端から期待していないので特殊眼鏡を渡さない。本人も眼鏡をかけた瑠璃に見惚れてそれどころではなさそうだ。
「それじゃ、国崩しの時間だ。飛び降りるぞ。」
「はーい!」
「えっ?」
ここから? と真愛が疑問の声を上げると相川はそう言えばという態で尋ねた。
「……置いて行った方が良い? それともついてくる?」
「……どっちが危なくないと思いますか?」
「着いてきた方が危なくはないが、ショッキングな映像が多い。置いて行った場合は何事も無ければ精神も肉体も大丈夫だが、何かあったら……まぁ基本的人権は尽く踏み躙られると思った方が良いかな。」
飛び降り体勢の状態で相川がそう告げると真愛は悩んだ。正直どっちも嫌だがあまり我儘を言ってこの場所どころか完全に放置されるともっと困る。苦渋の決断で相川について行くことにした。
「じゃあおぶされ。」
「……こう、ですか?」
「ズルい! ボクも!」
「お前は自前で飛び降りろ。」
恐る恐る相川の背に乗る真愛に瑠璃がズルいと抗議する。しかし、さっさと帰りたい相川はその言葉をバッサリと切り捨てて真愛を背負い直す。今から飛び降りるのかと真愛が緊張して力を込めたところで相川は告げた。
「そんなに力込めなくていい。」
「で、でも……」
下を見る。結構な高さであり、途中に木々などの障害物も多い。不安さを全面に押し出してくる真愛はそう言われても力を抜きたくなかった。それを瑠璃がじっと見てプレッシャーをかけて来る。
「……まぁいいや。行こっと。」
「……後でボクもおんぶしてほしいなぁ……」
その言葉の直後に強烈な浮遊感。真愛の絶叫と共に国崩しが始まった。