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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
110/254

桐壷の変

 別荘に行った日の夜。相川が温泉に行くと言うので瑠璃もついていって当然のように男女で分かれるように暖簾が書いてあって渋々瑠璃が一人で広いお風呂に入っていると不意に人が現れた。氣の質として男性だ。瑠璃は素早くタオルを身に纏って警戒する。


「! 誰? こっち、女湯なんだよ!」

「……10歳までは混浴していいんだから僕がこっちに来てもいいじゃないか。」

「……そうなんだ。」


 声の主は桐壷の兄、和臣だった。瑠璃を言い包めて内心でほくそ笑んでいると瑠璃は次の瞬間に男女の仕切りになっている場所を駆け上がりタオルをこちらの視界に投げ捨てて向こう側にダイブ!


「うわっ! 何だ!? 瑠璃!?」

「うん~♪ 10歳までは混浴していいんだって~こっち仁くん一人って分かってたから来たの~♪」

「何言ってんだこの馬鹿。湯あたり起こして頭おかしくなったのか? えぇいくっつくな!」


 女湯で一人になった和臣は呆然として瑠璃が入って居た辺りに移動し、そして我に返ってなんてことをしてしまったんだと思いながら今更ながらの恐怖を覚えたのだった。


 対する相川は全裸でまとわりつく瑠璃に困っていた。


「ねー何で? 何で? お父さんとママとか、一緒に入ってたんだよ? 何でボクはダメなの?」

「あんたの家の性事情なんざ知りたくねぇよ!」

「えー……前は洗いっこしてくれたのに~」

「お前が体洗うの下手だったからだろうが……あーもう、疲れたからいいや……変なとこ触んな。お前着替えとかどうするの?」

「仁くんが着てたの着る。」


 純粋な顔で言われた。もう好きにしてくれと相川が諦めた所で二人して月を見上げる。


「……お前ももうすぐ11歳なのになぁ……成長してないよなぁ……」

「むーっ! まだ小さいかもしれないけどすぐにおっきくなるもん! ママだっておっぱい大きかったんだからボクだって!」

「えぇ……精神の話してるんだけど……」


 勝手に怒り始める瑠璃を見てしまい、相川は覚られないようにゆっくり視線を空に戻す。そしてその目は不意に細められ、相川は舌打ちした。


「チッ……逃さないってか……黒猫君をどうしてくれるんだこの馬鹿……」

「えっ? どうしたの?」


 急に苛立ち始める相川を見て瑠璃が不安がる。しかし、相川の目は淡い光を放ちながら過去、黒猫がいた島にあった扉と似たようなモノを見据えており、瑠璃のことは文字通り眼中にない。


「失活してるくせに俺を捕まえる気かい。まぁ……普通に捕まりそうなんだけど……服着るのと準備くらいはさせろ!」

「えっ? えっ?」


 勢いよく立ち上がり、風呂から上がって出て行こうとする相川に瑠璃も慌てて追い縋る。相川は最初から着ていた不思議な衣を身に纏うと着替えとして持って来ていた浴衣を置いて急いで脱衣所を後にする。瑠璃は何故急ぎ始めるのかよく分からないが置いて行かれたくなかったので濡れたままの肢体に浴衣を纏って相川を追いかけた。


「るっ、瑠璃ちゃん!? 何で男湯から!? はっ、はしたないですよその恰好!」


 脱衣所を出てすぐ隣から真愛の声が掛けられるが瑠璃はそれどころではないので急いで相川の部屋に飛び込む。その部屋の窓の外には月の光を受けて鈍色の淡い光を放つ巨大な扉が浮いており、それを一目見た瞬間瑠璃は嫌な予感がして机の上に懐中時計のようなものを置いている相川を見つけて飛びついた。


「何してるの!?」

「あぁん? 異世界に召集くらった。行きたくないけど行くわ。」

「ダメだよ! 行っちゃヤダ!」

「だったら死ぬんだけど。」

「それもいやぁっ! 待って、じゃあ、ボクも行くから!」


 浴衣からボディスーツに着替えるくらいの時間を与えて欲しいと瑠璃は相川に告げるが相川は首を横に振る。


「無理。この世界の人間は魔素持ってないから行ったら死ぬ。」

「あ、う……でも! あっ! 仁くん、死んでも生き返らせること……」

「魔核か……アレ作るの苦労するんだけど。」

「一生かけて払います! だから! 一人で行っちゃヤダぁ! 一緒に行こぉっ!」


 その時、凄い勢いで扉が開け放たれた。


「イっちゃヤダとか、一人でイかないでとか、一緒にイこうとか、あなたがた人の別荘で何してるんですか!?」

「何言ってんの!? あ、時間切れ……」


 鈍色の輝きを見せていた扉が開き、光の奔流が部屋の中を駆け巡る。


 そして光が収まった時、この部屋に残ったのは懐中時計と来た時からあった家具一式だけとなった。










 気が付くと一行は多彩な形をした建物や浮遊する物体が一望できる高台にある草原の上に立っていた。相川は魔素を確認しつつ気絶している瑠璃とついでに巻き込まれた真愛に必要な措置を取ろうとを見下ろしていたが、目による解析が終わると術をかけようとしていた手を下げた。


「……運がいいなこいつら。この世界、魔導科学か……初めて見たが。」


 周囲を見渡し、眼を使って確認するが何もせずに魔素が体内に侵入できるほどの魔素は感じられず、物体に宿っているものを取ってもそこまで回復が見込めないくらい魔力を感じられない世界だった。


(……まぁ扉をハックした時点で大体そんな感じはしていたが……向こうの時間とこっちの時間の差はどれくらいかね……?)


 相川は懐の中にある向こうの世界においてきたものと似たような時計を出してその針を確認する。向こうの世界の時の流れに合わせて動くはずの針はぴくりともしなかった。


「んー? 壊れたわけはないんだが……」

「んっ、ぅ……ひと、し……く……どこぉ……?」


 しばらく眺めていても動かなかった時計を見て首をかしげていると瑠璃が起きて相川を探す。そこまで来てようやく動いた時計を見て90分の1の速さか……とカウントしつつ起きた瑠璃に声をかける。


「起きたか。回復速いな……ま、空気中の魔素うっすいしな……瑠璃なら何とかなるだろ。」

「よか、た……いたぁ……」


 安堵して脱力する瑠璃。濡れた浴衣が肌を吐出させており幼い体躯に淫靡な雰囲気を宿させる。相川は面倒臭いが仕方ないと近くの草を手に取って魔術を行使した。


「ウェアーアップ。おら、服一式と靴だ。着直せ。」

「うん! ありがとー!」


 目の前で魔術使ったことには何のリアクションもないんだなと思いながら相川は着替える瑠璃から目を離して眠っている真愛を起こした。


「う、ん……? ここは……」

「……Welcome to another world ってところか。さて、起きて早速だがこれからについて話すぞ。頭はついて来れるか?」

「あなざーわーるど? ……異世界? どういうこと?」


 どう見てもついて来れなさそうだったが、相川は着替え終わった瑠璃も含めて現状把握を行うために話を開始した。


「ねーねー、パンツごわごわする。」

「……お前が履いて来なかったのが悪い。俺に作らせておいて文句言うな。」

「あら、全身グリーンでも可愛いですわね!」

「いいから話をするぞ。」


 今一締まらない奴らだなと思いながら相川はごく普通に最悪の事態を語り始める。


「さて、崩壊する世界に来てしまった。帰らないとこの世界の崩壊に巻き込まれて死んでしまう。そしてここから分岐している他の世界も繋がってる世界も来た道を除いて全滅してるから逃げようがないです。頑張って帰りましょう。」

「おー!」

「えっ……えぇぇっ!?」


 相川は瑠璃のノリを見て不思議がり、真愛の叫び声を聞いて満足そうだった。




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